追放されたおっさん、辺境ダンジョンで【家庭菜園】始めたら、伝説の植物が育ちすぎて聖女や女騎士に勘違いで崇拝され、気づけばハーレム領主に成り上がり。元パーティ? 肥料にでもしますか?

帝国妖異対策局

追放おっさん、絶望の果ての泉

第1話 追放前夜 ~おっさんポーターは恋に夢を見る~

❖ メジャイ王国の王都カイロネス


 迷宮都市とも呼ばれる王都カイロネスは、周辺に点在するダンジョンから産出される魔石や素材、そしてそれを求める冒険者たちによって常に活気に満ちている。


 富と名声を求める者、日々の糧を得るために潜る者、様々な思惑が渦巻く街だ。


 その一角にある冒険者ギルド御用達の酒場も、夕暮れ時を迎え多くの冒険者たちで賑わっていた。


 威勢のいい声、エールジョッキのぶつかる音、そして成功譚や失敗談。そんな喧騒の中で、最近ひときわ注目を集めているパーティが、祝杯をあげていた。


 パーティ名「ダンジョンシーカー」。


 リーダーの戦士ガイノスを中心に、魔法使いのリリア、神官のコルト、エルフの弓使いシルヴィという、容姿も実力も華やかなメンバーを擁し、近々Aランクへの昇格が確実視されている急成長株だ。


 彼らのテーブルには、羨望と少しの嫉妬が入り混じった視線が常に注がれている。


 そんな彼らが囲むテーブルの隅で、黙々とエールを口に運ぶ男が一人。


 アラン、 38 歳。職業、ポーター。


 このパーティの縁の下の力持ち――いや、本人はそう自負してきたが、実態は都合の良い雑用係に過ぎなかったのかもしれない。


 アラフォーと呼ばれる年齢に差し掛かり、無理がたたって顔には深い疲れの色が滲み、無精髭も剃る暇がない。


 流行りの装備とは無縁の、着古した革鎧。目立つ容姿でもなければ、戦場で輝くような戦闘能力もない。どこにでもいる平凡な、いや、むしろ「冴えない」部類に入るおっさん冒険者だ。


 彼の役割は、花形のメンバーたちがダンジョン探索で最高のパフォーマンスを発揮できるよう、戦闘以外のあらゆる雑事を完璧にこなすことだった。


 重量制限ぎりぎりまで詰め込まれたポーション、予備の武具、食料、野営道具。それらをユニークスキル【収納】で効率よく運び、休憩時にはもう一つのユニークスキル【家庭菜園】で育てた新鮮な野菜を使った手料理を振る舞う。


 野営となれば、地形を読み、風向きを考慮し、誰よりも早く起きて完璧な布陣でテントを設営する。


 夜はメンバーが安心して眠れるよう、交代で見張りに立つが、今ではアランが最も多くの時間、見張りを引き受けていた。


 また彼の長年の経験からくる危険察知能力は、パーティの危機を何度も未然に防いできた。霧の中の敵の気配、微かな罠の魔力反応。


 アランが「何か嫌な感じがする」と進言したときは、ほぼ間違いなく何かが起こった。だが、それらはガイノスたちにとっては「ポーターの勘」「偶然」で片付けられ、正当に評価されることはなかった。


 戦闘では直接役に立てない。それはアラン自身が一番よく分かっていた。だからこそ、彼は他の全てで貢献しようと必死だったのだ。


「荷物整理は芸術的かつコンパクトに」

「どんな場所でも 5 つ星ホテル並みの快適な野営を提供」

「飯は王都一の料理屋にも負けない美味さと栄養バランス」


 これが、アランが自らに課した信条だった。


 戦闘中に「あのポーションがない!」「予備の矢がない!」 といった事態は、「ダンジョンシーカー」では一度たりとも起こらなかった。


 メンバーの武具が常に最高の状態を保っていたのも、ダンジョン深層で数週間活動しても新鮮な食事が摂れたのも、全てはアランのスキルと、彼の見えない努力のおかげだった。


 彼がいなければ、このパーティがBランク上位のダンジョンを踏破し、Aランクに手が届くことなど、到底ありえなかっただろう。その事実を、アラン以外の誰も理解してはいなかったが。


 その結果、アランに対するメンバーの扱いは、日に日にぞんざいになっていった。


「おっさん! 魔物の解体まだかよ! さっさと終わらせて俺の肩揉め!」 ※ガイノス

「アラン~。私の杖、魔力補充が甘いよ~? もっと丁寧にやってよね、私が魔物に襲われてもイイの?」 ※リリア

「ちょっと、オジサン! 私の嫌いな野菜入れるなって言ったでしょ! 作り直して! すぐに!」 ※コルト

「私は硬い干し肉は嫌いだと言っているだろう。魚はないのか、魚は」※シルヴィ


 この程度の罵詈雑言は日常茶飯事。


 アランはパーティで一番年長者である自分が、若い彼らに頼られているのだと、必死に自分を納得させてきた。


 「若い彼らがSランクという大きな夢を追うのを支えたい」――そんな純粋な気持ちが、確かに彼の中にはあったのだ。


 そして、もう一つ。彼の心を支え、この理不尽な日々に耐えさせていたもの。それが、魔法使いリリアの存在だった。


 出会った当初から、彼女の知的な美しさと、時折、他のメンバーがいない時にだけ見せる優しさに、アランは深く惹かれていた。


(あれは、確か半年前のダンジョン攻略中だったか……)


 アランはふと、過去の出来事を思い出す。


 ゴブリンの不意打ちで腕に軽い傷を負った時、リリアは心配そうな顔で駆け寄り、甲斐甲斐しく治癒魔法をかけてくれた。


「アランは無理しすぎよ。あなたはにとって大切な人なんだから、自分をもっと大事にして」


 その時の彼女の真剣な眼差しと、柔らかい手の感触。アランの心は、その記憶だけで温かくなった。


 その後も、二人は親密な時間を過ごすことが増えた。


 二人きりで街を歩き、アランがなけなしの金で買ったささやかな贈り物を、リリアは満面の笑みで受け取り、誰もいないのを確認しては彼の頬に軽いキスをくれた。


 ついには二人は身体を重ね……そうになる一歩手前の雰囲気になることも何度かあった。


 そこまでくると、 DT 歴が魔法使いからウィザードを越えて、ついに魔王の領域に辿り着こうとしていたアランにとっては、もはや恋人関係以外の何物でもなかった。


(リリアさえいれば、この地味で報われない冒険者生活も、きっと……)


 そう信じていた。それが最大の勘違いだったと気づくこともなく。




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