第152話 ナンパ?

トランを出て数時間、あたし達は、別の商人のキャラバンに追い付いたのだけど、そこでアンデッドの群れに襲われている。でもそのアンデッド達はヴァンパイアに率いられていた時に比べ明らかに弱く、その魔物としての本能だけで人を襲っているように感じていた。


「やはり、アンデッドの群れに統率された感じが無いね」


剣の一振りで数体のゾンビやスケルトンを切り伏せながら瑶さんが感想を口にする。


「ええ、ヴァンパイアが居た時にはもっと連携して攻撃してきてましたよね」


あの時あたし達に対して戦術的な連携した動きをして攻撃をしてきたのと同じ種類のアンデッドとは思えない雑な攻撃。非実体系のアンデッドもいないので、あたしがホーリーを使うまでもなく撃退できている。他のハンターがいるから聖属性魔法は使わずに済めばそれに越したことはないので、これには助かっているわね。


「それだけではありませんね。ヴァンパイアと共にいた時と比べて、私の槍の刺さり具合が軽いです。明らかにあの時に比べて弱体化しています」


そう言いながらマルティナさんが、槍に刺さっていたアンデッドを振り捨てた。


「この程度なら中級ハンター以上であれば、そうそう不覚は取らないでしょうね」


マルティナさんの言葉通り、一緒に襲われた商人の護衛ハンターも多少の怪我をして押し込まれつつも自分たちの護衛対象と馬車を守っている。あ、1人強い人がいるわね。押し込まれたところに援護に行っては押し返している。あれなら心配は無さそうね。


あたし達は、瑶さんの剣と、マルティナさんの槍でミーガンさんの馬車の護衛だけなら十分そうなので、あたしは短剣を腰に戻して、弓を手にした。十分な連携こそしていないものの、奥にはグールやスケルトンナイトがゾンビを押し出している。それをターゲットにして目立たない程度にエンチャントをした矢を射る。


目立たない程度のエンチャントだと、さすがに1撃必殺とはいかなかったけれど、数を当てて行けば十分に効果があって、それほど苦労なく8体いたグールやスケルトンナイトを斃しきることが出来て、目に見えてアンデッドの群れからの圧力が減った。



それでも、ゾンビやスケルトンも数だけは多かった上に他のハンターやミーガンさん以外の商人の目があったので、聖属性魔法だけじゃなく威力のある派手な魔法自体を使わず補助魔法だけしか使わなかったこともあって、少しばかり時間こそ掛かったけれど、あたし達は無傷でアンデッドの群れを撃退することが出来た。


一緒に戦ったハンターも軽いけが以外に問題はなかったみたい。馬車にも荷物にも被害が無くてみんな笑顔ね。


あたしは、探知魔法を展開して近くに魔獣や魔物がいないことを確認して瑶さんとマルティナさんに目配せをした。


「ミーガンさん、もう安全です。出発しましょう」


あたしが、ミーガンさんに声をかけたところに、男性ハンターが近づいてくる。さっきむこうの護衛の中で1人だけ強かった人。


「やあ、君たち、中々強いね」


はあ、間に合わなかったわね。


「そうですか。ありがとうございます」

「そう警戒しなくても大丈夫だよ。別に危害を加えるつもりはないから。俺は獅子の咆哮のリーダーのマシュー。4級ハンターだ」


相手の男性ハンターマシューはケガをしていないわね。そんなことを言っている間に瑶さんが来てくれたので、後ろにあたしは隠れる。だって表面的にはうまく隠しているけど、マインドマインドサーチの反応がいやらしいんだもの。


「暁影のそらの瑶だ。悪いね、この娘は人見知りでね。特に初対面の男は苦手なんだ」

「ランクは?」

「は?」

「おまえのハンターランクはいくつだ」

「5級」

「5級が4級に生意気な事を言っていると痛い目に合うぜ」

「似たような事を考えて墓穴を掘った連中もいたな。ハンターランクは目安でしかないってことを理解できないと長生き出来ませんよ」

「ぐっ。生意気な」


「マシューさん!そろそろ出発ですって」


そこにむこうから呼ぶ声がした。


「ほら、向こうでお仲間が呼んでいますよ。依頼の途中でしょう。行かなくていいんですか?」

「ちっ、暁影のそら、覚えたぞ。生意気なことを言ったのをいつか後悔させてやる」




「朝未、大丈夫だった?」

「え、ええ。とりあえず表面上は……」

「表面上は?あ、マインドサーチ?」

「ええ、敵意は無かったんですけど、明らかに、その……」


「さっきのはマシューではありませんでしたか?」


あたしが言いよどんでいるところにマルティナさんが声を掛けてくれた。


「ええ。マルティナさん、知り合いですか?」

「いえ、直接の知り合いというわけではありません。ですが……」

「有名な人なの?」

「そう、ですね。悪い方の意味で」

「悪い意味って……、あ、女神の雷みたいな?」

「いえ、あれとは方向が違うというか、その、手癖が悪いということです」

「手癖?あたしが感じた嫌な感じとは違うのかしら?」

「朝未様が感じた嫌な感じというのは、どういった感じでしょう?」

「その、なんというか、いやらしい感じというか……」

「ああ、そういうことですね。それであっています。女癖が悪く、何人もの女性を泣かせてきたとか。中にはお子が出来たにもかかわらず捨てられた方もいたそうです」

「ええ?あたし、そんなのに目を着けられたの?どうしたら……」

「近寄らないのが一番ですね。中には無理やり関係を持たされた女性もいたそうですから」


うわあ、絶対に近寄りたくない相手ね。

でも、そこまで言ったところでマルティナさんが悪戯っぽい笑顔を見せた。


「とは言っても、おそらくマシューでは、朝未様を無理やりものにするのは無理でしょう」

「え?」

「朝未様、ご自分でも言われてましたよね、とても力が強くなったって、客観的に見て、マシューより朝未様の方が圧倒的に強いです。余程の事が無ければ朝未様がマシューに負ける事はありません。それでも、万が一がありますから、近寄らないのが良いでしょうね」

「とは言っても、今回同じ方向に行くのよね」


あ、そういえば。


「ね、馬車にフロートの魔法を掛けたら足が速くなったりしません?」

「そ、それはそれが出来れば馬に掛かる負担も馬車に掛かる負担も軽くなりますから、かなり効果あるとは思いますけど。魔力の消費量を考えれば非現実的ではないかと」

「うーん、多分大丈夫だと思います。ちょっとミーガンさんに相談してきますね」

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