第147話 ショッピング?いえ情報収集です

お昼ごはんを済ませたあたし達は、ショッピングじゃなくて一般のお店での情報収集に向かった。


「瑶さん、お金には余裕があるし、ちょっと良い物を買いたいって思うんですけど、いいですか?」

「え?ああ、かまわないよ。朝未は普段贅沢しないし、たまにはショッピングを楽しむといいよ。マルティナさんもね」

「やった。マルティナさん、今日は一緒に少しおしゃれしましょう」

「い、いえ、わたしは……」

「マルティナさんも美人なんだから、たまにはおしゃれして欲しいとあたしが思うの。ね、あたしのお願い」

「う、わ、わかりました。お付き合いさせていただきます。


あ、瑶さんがちょっと顔を顰めたわね。ふふふ女の子のお買い物なんだから……。あ違った。情報収集には、ちゃんと時間掛ける必要があるんだから仕方ないわよ。


そして、最初に向かったのは服屋さん。この世界では既製服の概念がないみたいなのだけど、ちょっとした富裕層向けに基本のシルエットをお客さんの体型に合わせて作るセミオーダーの服があるのはエルリックで確認済み。一般人はほとんどが古着か極偶にそういったセミオーダーで作ることもあるくらいだって聞いた。本当のお金持ちはほとんどの服をフルオーダーで作るらしいので結構住みわけができているらしい。


「最近の流行は……」

「お嬢様のスタイルなら、これが……」


さっさと出てきたわ。ゆっくり見せてくれないんだもの。違った、情報収集にならなそうなんだもの。


「ここは、ちょっとイメージ違いますね。次はここにしましょう」

「え?ここ?」


瑶さんが引いているわね。それはそうよね。でも、ここは、避けるわけにはいかないわ。


「アイズ ラランジュですか?どういったお店なんでしょう?ちょっと変わった布を飾り窓に出していますが」


ラランジュ、確かフランス語をよく知らない人が読むとこんな風に読むことがあるって聞いた事あるのよね。それにあたしが今一番欲しいものが飾ってある。


「いいから、入りましょ。瑶さんも一緒に入りますか?」

「い、いや。だいたい、そこが朝未が言っていた女性だけじゃないと近づけない場所だよね」

「多分かなり時間かかると思いますけど、いったん宿に戻りますか?」

「いや、何かあった時に近くにいたほうが良いと思うから、どこかそのあたりで待ってるよ」

「じゃあ、あそこの広場あたりで待っていてくれますか?屋台もあるし、座れるようなベンチもあるみたいですから」


時間が掛かるとあたしが言うと少し考えて、それでも近くで待っていると言ってくれたので甘えることにする。


「じゃあ、マルティナさんお店に入りましょう」


マルティナさんの手を引いて入ったお店の中は、この世界としてはとっても華やかな空間になっていた。


「あ、あの朝未様、これらはいったい何なんでしょうか?」

「ふふ、これはみんな女の子の下着ですよ。店名を見てそうじゃないかと思ったんです」

「どれも見たこともない形、いえ一部なんとなく似たものもありますが……」

「そんなの気にしないの。あ、これ可愛い。あっちはちょっとエッチすぎるかしら……。あ、マルティナさんならこういうのも似合いそう。試着してみましょうよ」

「え、そ、そんな……」

「いいから、いいから。店員さーん、試着出来ますか?」


「はい。こちらですね。どなたが試着されるんでしょうか?」

「ほら、マルティナさん、試着させてもらえばわかりますから」


近寄ってきた店員さんをマルティナさんに押し付けて、あたしは色々と見ていく。

日本にいた頃は、まだこういった本格的な下着を着けたことが無かったけど、下着屋さんに行った時には興味津々で見てたのよね。その時に見たものに基本的には似ている。でも、デザインは可愛いけど少し古いかしら。あとブラはワイヤー入りは無い感じね。


「うわ、え、そんなところを。ちょ、ちょっと待って……」


あたしが試着室の前を通りかかるとマルティナさんの焦ったような声が聞こえてきた。魔物との戦いでは聞いたことの無い声を出している。


「マルティナさん。着け方をちゃんと教わらないと、もったいないですよ。あ、それとも毎回あたしが着せてあげましょうか?」

「ひ、朝未様、そんなことは。わかりました。きちんと覚えていきます。あ、でもそこは」


ふふ、初めてこういった本格的なブラを着けるとなると、あんなとこやこんなとこをグニグニされてるんでしょうね。でも、これはほぼ確定かしらね。そんなことを考えながら、あたしも自分用にいくつか選んでいく。サイズは軽く当てて近そうなものをいくつか持って、さっきの店員さんはマルティナさんの相手で忙しそうだから別の店員さんを捕まえる。


「これ試着したいんですけど、いいですか?」

「はい、着け方分かりますか?」

「大丈夫です」

「では、こちらの試着室でどうぞ。わたしは前におりますのでサイズ違いなどご要望がありましたらお声がけください」


ちょっとやそっとではケガをしなくなった高性能なあたしの身体だけど、こうしてちゃんとしたブラを着けるとちゃんと形が変わって収まるのね。でも、予想とサイズが違うわね。


「すみません、もう少しカップの大きいものをかしていただけますか」


何度かサイズ合わせをしなおし、身体にあった下着をピンクの可愛いのから黒のレースで少しセクシーな物まで上下セットで5セットばかり購入。早速生成りのシンプルなものを身に着ける。


自分の買い物が終わったので、マルティナさんの様子をうかがうとまだ悪戦苦闘してるみたいね。


「お連れ様は、慣れておられないようですね」


あたしに対応してくれた店員さんが声を掛けてきてくれた。さあ、ここからが情報収集の本番よ。


「ええ、彼女は初めてじゃないでしょうか」

「お嬢様は、慣れておられるようですね」

「慣れているというより、似たようなものを知っていたので、そこが違うんでしょうね。ところで、こちらの下着って他ではあまり見ない形ですよね。店名も聞きなれない店名ですし」

「ああ、それはですね。先代の勇者様が女性だったのはご存知でしょうか?」

「い、いえ、初めて聞きました」


やっぱりキーワードは勇者ね。


「その先代の勇者様が、魔王討伐に成功されたのですが、この地に残る選択をされたそうなんです。そこで勇者様の世界の下着を再現したものが当店の製品なんです。なんと当店の初代店長がその勇者様なんですよ」

「先代の勇者様というともう随分と昔ですよね。こちら以外で見られないのは、世間に受け入れられなかったんですか?」

「というよりも、勇者様の作られたものを模倣するなど恐れ多いということで当店が専売とさせていただいているんです。それにお値段も少々張りますので、あまり一般の方には……」

「ひょっとして、その勇者様のお名前がアイって言われたんじゃないですか?」

「おや、よくおわかりになりましたね。当店の名前は、勇者様の世界の言葉でアイ様の下着店という意味なんですよ」


そんな話をしていると、何かとても疲れた様子でマルティナさんが戻ってきた。胸を見ると、どうやら着けてきたようね。


「それじゃお支払いを、あ、あたしがまとめて払います」

「はい、では合わせて10セット、25万スクルドになります」


あたしは、お財布にしている革袋から中銀貨3枚を渡す。


「はい30万スクルドお預かりします。お返しは……」

「あ、それ取っておいて。次から注文したものを送ってもらいたいから、その手数料ってことでよろしくね。あたし達は5級ハンターパーティー暁影のそらのあたしが朝未、彼女はマルティナね。サイズとか控えておいてくださいね。ミーガンさんって商人にお願いすると思うのでよろしくお願いします」


包みを受け取ると支払いをしている横で固まってしまっていたマルティナさんを引きずって瑶さんの待っている広場に向かった。

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