第132話 作戦
「私達は、今まで通り王侯貴族や神殿とは距離を置いて活動していくつもりです」
瑶さんの言葉に、アイノアさんはあからさまにホッとして肩の力が抜けた。
「なら報告では、クリフで活動しているハンターが、ベン・ニーアを偶然斃し、スペクターは見かけただけということにするからな。お前達はクリフにいるのなら話を聞かせろと呼ばれることもあるだろうが、口裏を合わせてくれよ。まあ私のおすすめは、スペクターなんか出たから活動場所を変えたということにしてほとぼりが冷めるまで他所に行っているのが無難だと思う」
「ほとぼりが冷めるまでというと、どのくらいの期間だと思いますか?」
「そうだな。領軍がアンデッドを殲滅しおわるか、諦めて撤退するか。殲滅し終わればそこまでだが、諦めるまでだと、これから領主に報告書を送るが、そいつが領主の手に届くのに15日、領主が領軍の編成をするのに10日、ここクリフに来るのに30日、そこから諦めるまで……30日ってとこか。ざっと90日後だな」
「なら領軍が、ここに到着するまでの60日、余裕をみて40日くらいまでにクリフを一旦離れることにします」
「いや、軍としてはそのタイムスケジュールでも、先行して使者が来る可能性が高い。その場合最短30日と思って欲しい」
「なら15日程度は森の浅い狩場のアンデッドを広い範囲で狩っていきますよ」
瑶さんの提案に、アイノアさんは、少し考えると悪い笑顔を見せた。瑶さんとアイノアさんで何か共有したみたいね。あたしが瑶さんの顔を見て首をかしげると、軽くウィンクしてくれたので後で教えてくれるってことかしら。
このあと、いくつか簡単な打合せをして、あたし達は家に帰った。
「ね、瑶さん。領軍の使者が来る前に北の森の浅い狩場でアンデッドを狩るって言ってアイノアさんと何か通じ合っていたけどあれは何か意味があるのよね?」
「そうだね。ちょっとヒントをあげよう。私達は北の森で探索に必要なルート範囲だけでアンデッドを狩ってきたよね」
「ええ、特にそれ以上は必要なかったですから」
「つまり、私達が探索した範囲以外にはゾンビもグールもスケルトンもスケルトンナイトも、それこそシャドウやレイスもたっぷりと残っている。これは分かるね」
それはそうよね。狩っていないのだもの。
「それは、あたし達の探索に不要なルートだったので……」
「ふふ、そこまでたどり着けば、あと少しだよ、朝未」
「うーん、北の森の浅いエリアの広い範囲でアンデッドを狩るって話でしたよね。あたし達の探索ルートを分からなくする、ですか?」
「ああ、そっちの効果もあるけど、惜しいな。メインの理由は別だよ。それと狩るのは正確には非実体系のアンデッドを狩るんだよ」
「うーん。降参です。瑶さん教えてください」
時々瑶さんの考えって読めないのよね。
「ふふ、朝未は賢いけど、騙し騙されのやり方には経験がものをいうからね」
「騙し、ですか?」
「そうだね……。今の私達が最も秘匿したいのは何かな?」
「え?秘匿したいことですか。それは、聖属性の魔力を持つこと……ですよね」
「そうだね。だから私達が北の森でアンデッド、特に非実体系のアンデッドを斃してきたことは分からないようにしたい。スペクターを発見したのはたまたまで、そこまではそこそこ実力のあるハンターパーティーならたどり着くことが出来ると思わせたいんだよ」
「……それは領軍に、ですか?」
「領軍と、おそらくは一緒に来るだろう神官に、だね」
瑶さんの考えることって、時々わからないのよね。そんなあたしの疑問に気付いたのだと思う。瑶さんが続きを話してくれた。
「聖属性の攻撃無しに第4層まで辿り着くには非実体系のアンデッドがネックだってことはわかるよね」
そこはわかるので頷いた。
「まあ、たまたま私達が通ったルートに居なかったってのでも無理やりなら考えられるけど、それはさすがに……」
「うーん、聖属性無しでたどり着けるって思わせるってのは分かるんですけど、それならアンデッドを全部斃してもいいんじゃないですか?」
「それだと、北の森にアンデッドが大量に現れていたっていうところと合わなくなってしまうからね。あくまでも、アンデッドは大量に出ているけど、それはゾンビやスケルトンみたいな実体系だってことにしたいんだ。そうすれば、あくまでも特別なハンターはいなくて、ちょっと腕の立つハンターパーティーが奥まで探索に入ってスペクターやベン・ニーアを確認。辛うじてベン・ニーアを討伐。スペクターからは逃亡ってストーリーに信憑性が出るからね」
「そこまでして、領軍をだますんですか?」
「騙すんじゃないよ。あくまでも領軍が勝手に誤解するだけだからね。私達が積極的に嘘を言ったら、それこそ逮捕されるよ。でも状況を領軍が見て勝手にそう思い込む分には罪にはならない。なにより、私達の狩りは領軍の安全に寄与することにもなるからね」
瑶さんが良い笑顔を見せてくれた。でも、あたしはため息しか出ないわ。
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