第108話 朝未の料理②

「さってと、夕飯の仕込みにかかろうかしら」

「アサミ様、お手伝いできることはありませんでしょうか?」

「えっと、すぐには無いと思います。でも少ししたら交代でスープの番をしてもらっていいですか?ちょっと長時間かかるので」

「はい、もちろんです」


マルティナさんってあたしに凄くよくしてくれるのよね。奴隷のままになんて本当はしておきたくないけど、事情が事情だから、権力に対抗できるように強くなるまでは仕方ないのかしらね。


「まずは、材料の確認をしないとね。コロネにカームに鶏ガラにスパイス各種と、あミノの肉買うの忘れてた。マルティナさん、申し訳ないのだけど、ミノのもも肉と赤身肉をそれぞれ2グルずつ買ってきてくれませんか?あたしはその間に下ごしらえをしておきますから」

「わかりました。お任せください。いいところを買ってきます」

「あ、いえ、そんなに良いところでなくて大丈夫です。直接それを食べるわけではないので……」


あたしが言い切る前にマルティナさんは駆け出してしまった。

まあ、悪くなるわけではないからいいことにしよう。


マルティナさんが戻るまでにあたしは買ってきた骨から血合いを取り除く作業に入った。日本ではここまで手を掛ける時間もなかったけど、一度やってみたかったのよね。日本では簡単に味を調えることのできる調味料がいくらでもあったから、ここまでする必要もなかったっというのもあるのだけど。


血合いを取り除き終わった骨を軽く下茹でしてこれの下ごしらえは完了。この世界には魔道具のコンロがあって火加減の調整がIH並に簡単なのは楽でいいわね。

鍋から取り出しているちょうどそこにマルティナさんが息を切らして帰ってきた。


「ハアハア……。アサミ様、買ってきました」

「マルティナさんありがとう。まずはそのもも肉の方を小さめに切り分けてから軽く炙ります」


サイコロ状に切ったもも肉をフライパンで軽く焼き色をつける。


「そしたらこれをまとめて鍋に入れて灰汁を取りながらじっくりと煮込みます」

「煮込むってどのくらいですか?」

「うーん、量が4分の3くらいになるまでですね」


あ、マルティナさんが固まった。


「結構時間が掛かるので、その間1人で灰汁取りをしているときついと思うんですよ。なので時々マルティナさんが交代してくれると助かります」

「ええ、ええ、もちろん、お手伝いさせていただきますとも」


マルティナさんが満面の笑顔を見せてくれたわね。



マルティナさんと雑談を交わしながら交代で灰汁をとること3時間ほど。いい感じに煮込めた。


「これをザルで漉しながらこっちの鍋に移します。そして別の鍋にマルティナさんが買ってきてくれたミノの赤身肉をミンチにしたものと、卵の白身、今度は皮を剥いてみじん切りにしたカーム、コロネ、ザックルを入れてよく混ぜます」


ざくざくとよく混ぜ、マルティナさんに見せる。


「そして、これに先ほど濾したスープを入れてよく混ぜながら火にかけます」


混ぜながらよく観察する。たしか沸騰したら混ぜるのをやめるんだったはず。そして火を調整して弱めの沸騰が続くように調整する。


「はい、これでこのまましばらく煮込みます」

「アサミ様、またですか?」

「ええ、でも今度はこのまま煮込むだけですよ」


時々確認しながら煮込むことおよそ2時間。スープが澄んできたので火からおろし、小皿にとって味見をしてみる。


「うん、美味しいスープが出来たわ。これがコンソメというスープです。味見してみますか?」


小皿に少し取ってマルティナさんに渡すと、恐る恐る口にした。この世界の常識では食べられるようなものに見えなかったのかもしれないわね。


「お、美味しいです」


マルティナさんがパッと花が咲いたような笑顔を向けてくれたので思わずドキッとしちゃったじゃないの。




さて、次はカーク、コロネ、ジャグンの皮を剥いて、一口サイズに切ったものを鍋に入れてそのまま軽く炒る。そこに水とコンソメを入れて弱火でコトコト。


「マルティナさん。これ焦げ付かないようにゆっくり混ぜていてもらえますか」

「はい。どんな美味しいものになるのか楽しみです」


鍋をマルティナさんに任せて、あたしは常時準備しているプレーンなパン種を取り出してきた。30センチくらいの三角形に薄くのばしたものをいくつも作っていく。準備が出来たところで石釜風オーブンをいつものように火魔法で予熱。そこに今作ったものを並べる。


マルティナさんに任せた鍋の様子を見るとそろそろ煮えた感じなので、フライパンにラードを投入。本当はバターが欲しいんだけど、まだ見つけてないのよね。ほどよくとろけたところで火からおろして、この世界の小麦粉をふるい入れてザクザクと混ぜる。大体混ざったところで弱火にかけてさらに混ぜて、緩んだところで、準備しておいた香辛料を投入。さらに少し火を通したらちょっと舐めてみる。うん、いい感じ。嘘です。あたしにはちょっと刺激が強すぎました。でもこれくらいにする必要はあると思うの。


「マルティナさん。これをそちらの鍋に入れてゆっくり混ぜていてください」


マルティナさんに鍋を任せて、あたしは大皿を持ってオーブンに向かう。


「うん、いい感じに焼きあがったわね」


その頃にはマルティナさんの混ぜる鍋からスパイシーないい匂いがしてきていた。

大皿に焼きあがったものを載せてテーブルに運ぶ。


「マルティナさん、そろそろいいわ。ありがとう。瑶さんをダイニングに呼んできて」


あたしは、鍋からスープ皿にとりわけてテーブルに並べる。瑶さん喜んでくれるかな。

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