第98話 クリフ到着

「つまり、お嬢さんが肩から下げていたカバンをこいつがひったくろうとした、いえ、実際にひったくり、そのカバンの下敷きになって動けなくなっていると……」


衛兵さんをマルティナさんが呼んできてくれたのだけど、随分と困惑しているわね。


「そ、んな、ごと、いいが、ら、たず、げで……」


あら、まだしゃべる元気あるのね。あたしが知らない顔していると衛兵さんがバッグのベルトに手を掛けて、驚いた顔をしているわね。


「あ、あの。本当にお嬢さんがこのかばんを肩に掛けていたのですか?」

「そうですよ」


衛兵さんが聞いてきたので、ひょいっと持ち上げて見せる。と、とたんにひったくり犯が逃げようと動き出したのでポトンと落としてやったわ。


「グエッ」


数百キロの重さにつぶされていた割に元気ね。一般人じゃないのかしら。でも逃がすわけないじゃない。


「わかっていただけました?」

「は、い。か、く、に、んしま、した」

「じゃ、あとはお任せしますね」


にっこりとあたしが言うと、衛兵さんがカクカクと古いロボットのようにうなずいてくれた。




そんなおもしろおかしいアクシデントはあったものの3日ほど休養をとったあたし達はグライナーを離れ、クリフに向かっている。

あ、例のひったくり犯はハンター崩れだったらしいわ。中途半端に身体が丈夫だったのはそのせいらしいの。



クリフへの街道を歩いているのだけど当然探知魔法は展開しているの……。

初日は良かったの、何事もなかったし。

でも2日目からは街道を歩いているだけなのに探知魔法にひっかかる魔獣がではじめ、3日目の今日はそれの多い事。しかも街道を歩いているのに襲い掛かってくるのだものビックリよね。まだ、低位の魔獣ばかりなのでサクサクと斃して討伐証明部位だけ取っているのだけど、これだけでも結構な稼ぎじゃない?


「グライナーから3日離れるだけでこんなに違うのね。街道から離れないでも、これだけ魔獣が出てくるのならクリフって稼ぎやすそうですね」

「アサミ様、これを稼ぎやすそうと言えるハンターはあまりいませんよ。まあ、クリフにいるハンターはそっち側の人たちではありますけど」


マルティナさんが苦笑しつつ口をはさんできた。でも、索敵もなにも街道の周りなら小さな茂みくらいはあっても森の中のように群れで不意打ちされる危険性はほぼ無いのだから、低位魔獣ならどうにでもなるとおもうのだけど、そう思ってあたしはコテンと首をかしげる。


「そっち側?」

「一応言っておきますけど、低位魔獣とは言えおふたりのように鎧袖一触で斃せるハンターは少ないですからね」

「そうなの?でもそう言いながらマルティナさんもサクッと斃してますよね」

「いえ、わたしの場合は、アサミ様の補助魔法のおかげという面が大きいですから」


当然ながら無駄に怪我したり時間を使っても意味がないので、あたしは各種補助魔法を切らさないようにしている。


「うーん、テンプレなら、このあたりで貴族の馬車が襲われてたりするんだけど、そういうのはないわね」

「それはミーガンさんで消化したんじゃないの?それに朝未が貴族につかまりたくないからこうして目立たないようにしながら力をつけてるんでしょ」


そうだったわ。最近楽しくなっててうっかりしてたけど、この世界で使いつぶされないようにするためにこうしてるんじゃないの。


「う、瑶さん、ごめんなさい。最近こうしているのが楽しくなってきてて調子にのりました」

「ふふふ、朝未が元気でいてくれるのは私も嬉しいから、そこは良いよ。ただ、王宮や神殿から目を付けられないようにということだけは忘れないようにね」

「はい、気を付けます」





しばらく歩いていると探知魔法に反応があったので、気にしているとハンターがいた。


「あら?瑶さん、あそこでゴブリン狩りをしているパーティーがいますね」

「お、本当だ。さすがにあっさりと斃していってるね」

「あれは、街道周辺の魔物掃除ですね。クリフのハンターには定期的に、ああいった街道近くに出没する魔物を掃除することが義務付けられているんです」

「義務ですか?」

「ええ、ハンターだけならそれほど気にすることはないのですけど、物資の輸送やクリフに訪れる商人が強い魔物に襲われすぎないように間引きしているんです。魔物に勝てても物資が届かないとクリフという町が成り立たなくなりますからね」


マルティナさんが説明してくれたクリフならではの事情に納得しつつ、戦っているハンターパーティーを横目にクリフへの街道を進む。グライナーを出て5日目、城壁だけは立派なこじんまりとした町にたどり着いた。


「へえ、ここがクリフなのね。町の大きさの割に城壁は立派なんですね」

「アサミ様、それはここが魔物や魔獣との戦いの最前線だからです。このくらいの壁がないと町中でも安心して暮らせないんです。クリフには腕の立つハンターが大勢いますが、ハンターも人間ですから、休息が必要ですからね」


そんなマルティナさんの説明を聞きながら町の入り口の門で中に入るために門番にハンター証を見せた。


「ふん、6級ふたりに5級ひとりか。死なないようにな」


やっぱりクリフでは6級はそういう位置づけなのね。


「ま、とりあえずギルドに行こうか」


瑶さんに促されて、あたし達はハンターギルドに向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る