新天地へ

第82話 誤射?故意?

あたし達は、まず依頼を見繕って下位ハンターパーティが手を出したいけれど、難易度的に少し躊躇するものが無いか探していたのだけど。


「良いのないですね」

「中々ちょうどいい依頼ってのはないなあ。って言っても半分以上の依頼は難易度わからないけどね」


瑶さんが頭を掻きながら舌をだしてる。


「マルティナさんは、良さそうな依頼分かりませんか?」

「申し訳ないけど、わたしは依頼の難易度はよくわかりません。依頼の選定に加わったことがないので」

「そうなのね」

「すみません」

「いえ、謝ってもらうようなことではないんですけど。瑶さん、どうしましょう?」

「いや、やっぱり普通にアレッシアさんに聞けば良いと思う」


せっかく依頼掲示板の前に来てるのにそれは無いと思うの。


「え、それじゃいつもと変わらないじゃないの」

「仕方ないだろう。私達に経験が足りないのは事実なんだし。ここでミスはしたくないからね」


結局アレッシアさんに話をして良さそうな相手を探してもらうことになったのよね。


マルティナさんの扱いについても、元主人であるレオナルドの奴隷契約違反によって奴隷契約が解除されたと認定されたので今のところあたしの奴隷ということで落ち着いているの。ま、奴隷紋については、このゴタゴタが落ち着いたところで対処するつもりなのだけど。今はまだちょっとあたしの奴隷のままでいてもらっている。本人がそれを嬉しそうに受け入れているのはちょっと謎なのだけど。








「そ、それではお願いします」

「うん、そんな緊張していると身体が動かないよ。もっとリラックスして。危なそうなときは私達がカバーするから」」


今あたし達は7級ハンターパーティ深淵の咆哮と一緒にいる。深淵の咆哮は全員が幼馴染の15歳の男女混合パーティ。若くて有望なハンターという話。そんな彼らと合同でグリーベアの内臓の採取という依頼を受けている。内臓と言っても全部ではなく、対象は肝臓なのだけど。なんでも特殊な薬の原料になるとか。一応対象が動物枠なこともあり7級で受けられるんだけど、7級上位でギリギリ。本来は6級中位が受けるような依頼だという事でアレッシアさんの仲介もあって、あたし達がサポートに入ったのよね。うんアレッシアさんが例の事を忘れていなかったのも大きいと思うの。


瑶さんの言葉に深淵の咆哮は隊列を組み山に足を踏み入れていく。あたし達はその後ろからファローをするのが役割なの。


山に入ってすぐからあたしは探知魔法を展開している。でも、この子たち、うんみんなあたしより年上なんだけど、もうこの子たちって感じ。この子たち平然と風上から入っていくのよね。本当に有望なのかしら。


あ、瑶さんも顔を顰めているわね。どうしよう、まだあたしの探知魔法には大物の反応がないから今ならまだ間に合うけど。


「君たち、いつもこんな風に無造作に狩場に入っていくのかい?」


あ、ついに瑶さんが我慢が出来なくなったみたいね。


「えと、ヨウさん。無造作とはどういう意味でしょうか?」


瑶さんの言葉に深淵の咆哮のメンバーが首を傾げる中リーダーのクルト君が聞いてきたわね。


「ふむ。ではまず聞こうか。君たちは狩場に入るとき、どういう基準で入る場所を決めているかな?私が見た感じ単に街道に近いというだけで、そこから入っているように見えたんだが」

「え?なんと言いますか、普通に入り口になっている場所からですが……」

「あー、それだとかなりの確率で獲物に逃げられたり、逆に襲われたりしなかったかな?」

「そりゃ、そういう事もありますけど。それは別に特別なことではなく普通のことでしょう?」

「風にのって自分たちのにおいが流れていくと獲物にバレるから」

「え?俺達そこまでにおいませんよね」


あ、瑶さんが頭を抱えたわ。あら?ひょっとしてこの世界では人間の匂いに動物が気付くとか、動物の嗅覚がとっても強力とかって意識無いのかしら。一応料理や香水の匂いが風に乗って遠くまで届くって認識はあるけど、自分たちが感じられなければ平気って感じなのかも?


「あー、まあ騙されたと思って風下から狩場に入っていくようにしてみてくれないかな」

「はあ、ヨウさんが、そう言われるのなら」





少し前から、あたしの探知魔法にちょっと大きめの反応があるんだけど、まだ深淵の咆哮のメンバーは気付いていないわね。足場を気にするようなふりでもしてさり気なく進路を誘導しようかしらね。


「あ、あそこ。グリーベアが休んでいる」


なんとかグリーベアが気付く前にクルト君が気付いたわね。あと少し気付かないようだったらあたしが見つけたフリするつもりだったけど、よかったわ。


「どうやら、こちらには気づいていないようだね。どうする?君たちだけでやってみるかい?」

「ええ、やらせてください」

「うん、何かあったらサポートに入る準備はしておくから頑張って」


瑶さんとクルト君の打ち合わせで、とりあえずは深淵の咆哮だけで挑戦するみたいね。


「じゃあ、せっかく気付かれていない状況だから、マヌエラの弓で先制。そこから突入で、あとは臨機応変に」


うーん、やっぱり盾役はいないのね。まあ、あたし達がそこまで口をだすことではないとは思うけど。そもそも今の深淵の咆哮だと回復役がいないみたいだから簡単にはいかないわね。

そんな事を考えながら見ている間に、マヌエラさんが弓でヘッドショットを決めたのを合図に危なげなく戦闘を進め深淵の咆哮は誰も大きな怪我もすることなくグリーベアを斃していた。


でも、あたしの探知魔法にちょっと気になる反応があるのよね。あたしは、瑶さんとマルティナさんに目配せで合図を送り、弓にそっと手を触れてみせた。動物や魔物、魔獣の場合は言葉が分からないので行動指針なんかは移動方向なんかから想像するしかないけど、人はしゃべるものね。隠れて行動しているつもりなのだろうけど、早速嫌がらせに来たようね。


”ヒュン”


あたし達3人が身構えたところに矢が飛んできた。でも、予測していれば遠距離からの矢なのでそれほどの威力もなく、マルティナさんがあっさりと槍で叩き落した。2の矢、3の矢と続いたけれど、それも瑶さんが長剣で、あたしは短剣で絡み取るように捌いたわ。


「誰だ。ここにいるのはハンターだ。獣でも魔獣でも魔物でもない。こちらに顔をだしてもらおう。そしてこれ以上矢を射るのであれば勘違いや事故でなく故意による攻撃とみなし反撃をすることになるぞ」


瑶さんが大声で警告をした。

あ、後ろでは深淵の咆哮の人たちが驚いて固まっているわね。

あたし達が警戒し少し待っていると、近くの茂みから女神の雷が姿を現した。


「いやあ、すまんな。狩にきて獣と勘違いしてしまったようだ。怪我はなかったか?」


レオナルドが白々しい謝罪を口にしつつも後ろのメンバーたちのニヤニヤ笑いがこれが故意であることを物語っているわね。


「ふーん、女神の雷は獲物と人間の区別もつかないのね」

「なんだと。私たちをバカにするのか」

「事実でしょうに。実際、今あたし達に矢を射かけてきたわけですしね」


あたしの軽い挑発にフランディアが簡単に乗ってきたけど、事実を突きつければ故意だとは言えず黙ってしまったわね。


「あたし達なら、あの程度の矢は叩き落せますが、下級ハンターを射殺さないことですね」


言い捨てて、あたし達はグリーベアの解体に戻った。

さて次は何をしてくるかしらね。

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