第61話 家

「ねえ、瑶さん」

「うん?」

「今日、お昼ご飯、街で買った保存食だったわよね」

「う、うん。そうだね」


あ、瑶さんが顔を顰めて遠い目をしてる。あれは酷かったものね。


「この宿でお弁当作ってくれると助かるのだけど」

「断られちゃったからなあ」


この世界ではお弁当という考え方はあまりないみたいなのよね。


「材料とキッチンさえあれば、あたしが作ってもいいんですけど」

「おや、朝未は料理できる子だったんだね」

「そんな上手ってほどでは無いですけど。両親が仕事で忙しくて家の事をあまり出来なかったので、家事はあたしがほとんどやっていたものですから」

「エルリックに来て2カ月。ミーガンさんもそろそろ別の街に行くみたいだし、住むところ考えないといけないし。少し探してみようか」

「探す?ですか?」

「そうだね。あればキッチン付きの宿か、金額によっては家を借りるのも良いかもしれない。今のところ、この宿でもすぐに出ていかなくても払える程度には稼いでいるけど。様子を見るにこの宿は安全だし食事もいいけど少し高めだよね」

「そ、そうですね。家を借りられれば、食事も自由ですし、あたしの魔法も家の中でなら色々バレないと思うので掃除洗濯は魔法で済ませられるし良いかもしれません」


掃除洗濯、本当は生活魔法のクリーンで済ませたいのに、あたしが使うと無駄にキラキラしたエフェクト付きになるので滅多なところでは使えないのよね。むしろ森での狩りの帰りにササっと使うくらいだもの。家が借りられれば寝る前にスッキリして寝られるわ。瑶さんも使えるけど、瑶さんが使っても変なエフェクトでるものね。試しにアレッシアさんに見せてもらった事あるけど普通に綺麗になるだけだったもの。


あれ?でもアレッシアさんにクリーン掛けてもらったとき、あたしも瑶さんもあまり変化が無かったわね。狩りの帰りにあたしが掛けたときは結構スッキリしたけど。ひょっとしてこれも聖女補正?あまり普通の人と違いすぎるのは目立ちたくないあたし達としては困るんだけど。



そんな話をした翌日。ミーガンさんに相談した結果、あたし達はハンターギルドで、家を借りられないか相談をすることにしたの。ハンター相手のよろず相談的なこともしてくれるらしいので。


「「アレッシアさん。おはようございます」」

「はい、ヨウ様、アサミ様おはようございます。今日は少しゆっくりですね」

「ええ、アレッシアさんに相談したいことがありまして」

「相談ですか?おふたりなら大抵の事は何とか出来そうですが」

「いえ、アレッシアさんもあたし達がこの国の常識をあまり知らないって知ってるでしょ」

「はあ、そうは聞いておりますが、そもそもおふたりの存在が常識外れ、いえ、規格外、いえ、その素晴らしくて忘れてました」


何か妙な評価を受けているみたいだけど、とりあえずは良いわ。ちょっとあたしはへこんでしまったので瑶さんにバトンタッチしましょ。


「あー、ちょっと朝未は心にダメージを受けてしばらく使い物にならなそうなので、続きは私が話しますね」

「ええ、ご相談でしたよね」

「実は、家を借りたいのですが、エルリックだとどうかなと思いまして」

「家、ですか?そうですね、エルリックに腰を落ち着けて活動されるなら悪くないと思います。どのような物件がご希望でしょうか?」

「そう、ですね。個室が2部屋とリビングにキッチン、多少の剣の練習が出来る庭があるとうれしいですね。それと、この国では風呂って一般的ですか?」


え?個室?あ、そうよね。家を借りるなら個室にするわよね。でも。


「ね、瑶さん。個室2部屋は良いけど。もう少し慣れるまで一緒の部屋に居ちゃダメ?」


あ、瑶さんが驚いた顔しているわね。でも、やっぱりまだ、夜1人なのは不安なのよ。


「もう朝未をどうにかできる奴はあまりいないと思うよ」

「そうじゃないの。そういうのじゃ。1人はいや。1人でいるって想像するだけで不安になるの。だから、この不安をどうにか出来るまで。お願い。傍に……居てください」

「わかった。朝未の不安も分かるからしばらくは同じ部屋でいいよ」


どれだけの時間が経ったか分からないけれど、瑶さんはあたしをそっと抱き寄せて頭を撫でてくれながらゆるしてくれたわ。


「さ、おふたりの間の事はそれで良いとして、個室2部屋以上、リビングとキッチンに庭付きの貸家は特に問題ないと思います。ただ、お風呂はあまり一般的ではないです。どうしてもというのであれば、庭の一角に作るかでしょうね」

「そうですか。それで家賃はどのくらいするものですか?」

「そう、ですね。今言われた条件ですと、安ければ2万スクルド、高くても5万スクルドってところでしょうか。ご紹介しましょうか?」

「え?ハンターギルドってそんなことまでしてくれるんですか?」

「ええ、ハンターって流れ者が多いですから、宿に泊まるくらいならともかく家を借りようとすると中々難しいですからね。そのあたりはサポートします」

「では、お願いします」

「分かりました。2、3日お待ちいただけますか?良さそうな物件を見繕っておきます」

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