第15話 ぷらーん
う、眩しいわね。誰がカーテンを閉めてよ。
「お母さん、眩しい……」
つい、そこまで口にしたところで気が付いたわ。あたしは影井さんと一緒に異世界に転移したんだったわね。
昨日の夜は影井さんと話をしている間にいつの間にか眠ってしまったようだわ。
そして目をあけると目に映るのは異世界転移おやくそくの知らない天井ではなくて、繁った緑の木々ね。
「影井さん」
あたしは、つい呼んでしまったわ。これはこの状況であたし自身がいかに影井さんを頼りにしているかを自覚するのに十分ね。ええ、そうですとも、こんなわけのわからない状況で手を差し伸べてくれるひとを頼りにしないわけないじゃないの。
あたしは、声に出すことなく自覚してしまったわ。そして、気付いたの『返事』が無い。
慌てて影井さんが寝ていた木の枝に視線を送ったあたしの目に影井さんの姿は映らなかったの。
「え?影井さん。どこ?」
つい漏れた言葉は涙声になってたのは仕方ないと思うの。
「やあ、起きたね。おはよう」
え?その声はずっと下から聞こえてきて、声のほうに目を向けると、夕飯の時にも使っていた食器セットとコンロで作っているのは朝ごはんかしら。
「影井さん」
あたしは思わず飛び起きてしまったのだけど……。
「あ、華さん。そんな急に動いたら……」
そうだったのよね。あたしはハンモックの上で寝てたのよね。見事にハンモックから落ちてしまったわ。そして……。
「うぐっ」
「はあ、ハーネスを付けたままでよかった。あの高さから落ちたらケガで済んだかどうか分からないよ」
今、絶賛宙ぶらりん状態になっちゃったわ。
「影井さん。助けて」
この状態だとハンモックに戻るどころか、どこの枝にも手も足も届かないもの。でも影井さんのいうようにロープにこのハーネスを繋いでおいてよかったわ。
影井さんは少しクスクスと笑った後、それでもスルスルと木に登ってきてくれた。
「はい、華さんこのカラビナでこっちのロープをハーネスに取り付けて。」
影井さんの言うように取り付けると少しだけ吊り上げてくれたのだけど、まだこれだとどこにも手も足も届かないのだけど。そう思いながら影井さんを見ると。
「はい、じゃあ、先につけてあったロープを外そうか」
言われるままに外すと、今度はゆっくりと降ろしてくれたの。地面に足がついた時にはホッとしたわ。でも足ががくがくして立てなかったのは仕方ないと思うの。
「華さん、どこか痛いところは無い?」
う、さっきハンモックから落ちた時足の付け根にハーネスが食い込んでちょっと痛いけど、これはちょっと場所が場所だから言えないわ。ちょっと顔が赤くなっているのも自覚しているけど……。
「さっき落ちた時にハーネスがくいこんでいためたりしてない?」
「か、影井さんのエッチ」
「エッチって。ハーネスでぶら下がると腰を痛めやすいんだけど」
うっ、影井さんの心配している場所が違ったわ。あたしのバカバカ。で、でもこれはそうよ、腰は大丈夫そうだから
「大丈夫です。ただ今はちょっと怖くて足が立たなくなってるだけです」
「そうか、怪我がないなら良いけど、後からでも痛みが出たらいいなさい。慣れないアウトドア生活だとちょっとした怪我が大きな障害になる事もあるからね」
「はい、大丈夫です」
「とりあえず、朝食を準備したから、座ったままでいいので食べなさい」
そう言うと影井さんは動けないでいるあたしの前にお皿を並べてくれたわ。
パンと、スープに、玉子焼きね。パンにはハムとチーズを挟んで軽くあぶってあるわ。スープはさすがにインスタントのコーンスープかしら。食後にはコーヒーまで。
「さっき、華さんが起きる前に昨日ウサギと戦った場所を見てきたよ」
あたしが食べ終わって落ち着いたところで影井さんが話し始めたわ。やっぱり一時的に離れていたのね。
「あたしも起こしてくれればよかったのに」
「ふふ、よく寝ていたからね。昨日は慣れない山歩きと戦闘で疲れたんだろう。気にしなくていいよ」
「う、ありがとうございます。でも、それよりなんで見に行ってんですか?」
「まあ、倒したウサギが残っていたら食料の足しに出来るかと思ってね」
「残っていたら。ですか」
あたしが首を傾げると
「残っていなかったよ。つまり、この森にはとりあえず肉食の何かがいるということだね」
「それ、危ないってことですよね」
「ああ、だからきちんとした拠点が出来るまでは木の上で寝ることになるかな」
「拠点ですか?」
「まあ、洞窟とか、せめて大きな木のうろが見つかるか、あとはこの世界の文明と安全に接触できるまでだね」
あたしは黙ってうなずくしかないわね。
「じゃあ、片付けが終わったら今日は水場まで移動しよう」
異世界サバイバルの2日目の始まりね。
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