第13話 ハンモック

「ふわぁあ。あ」


あたしは、無意識にあくびをしてしまって恥ずかしさに顔を伏せてしまったのよね。緊張感が無いって思われちゃったかしら。そう思って影井さんのようすをうかがってみたの。そしたら


「ああ、華さん今日の体験は負担が大きかったね。そろそろ寝る準備をしよう」


そんなことを言ってくれたの。


「まずは、このハーネスをつけて」


そう言って、あたしにベルトを組み合わせたようなものを着けるように言ってきたのよ。


「え、えと??」


あたしが、どうしたらいいか分からずモタモタしていると影井さんが苦笑しながら手を貸してくれたのよね。


「ほら、ここに足を通して。そうそう。でこのベルトを留めて……

そしたら、このカラビナをここに付けて、うん、で、このロープをつけて。はい、ロープを持って身体を安定させてね。オーケー。そのまま」


そう言ったと思ったら影井さんはロープの反対側を持ってグイグイと引っ張り始めたわ。


「え?」


気付いた時にはあたしの足は地面を離れてロープで釣り上げられているのだものびっくりしたわよ。


「か、影井さん。いったい」

「はい、華さん、そこの太い枝に乗って。そうそう。そしたら上から垂れ下がっているロープにカラビナがついているだろ、それを今ハーネスに着けてあるカラビナと同じところに付けて。きちんとついたら、先につけてあった方を外して私の方に落として。そうそう、それでいい。それでもう落ちないから」


え?わけの分からないうちに木の上にあげられてしまったのだけど、どういう事かしら。あたしが混乱している間に今度は影井さんが自分でロープを使って上がってきたわ。


「あ、あの、これはどういう?」

「うん、一応地球基準で考えているんだけどね。地面の上ってのは野生動物に襲われやすいんだよ。だから安全な拠点が作れるまでは夜は木の上で過ごす方が良いと思ってね」

「え?ここで寝るってことですか?ちょっとこの状態で寝るのはあたしには難易度高いっていうか……」


あたしが困惑していると影井さんが、今度はリュックから小さなそれこそソフトボールくらいの大きさに丸まった網の塊のようなものを出してきたのよね。


「分かってる。慣れない人が木の枝の上で寝るってのは無理があるから、これを使うよ。それとそんなに木にしがみつかなくても落ちないから」


そう笑いながら手にした網を別の枝に取り付けていったのだけど、これはひょっとして


「ハンモック?」


あたしの呟きに影井さんは、ふり向いて頷いてくれたの。あ、聞こえちゃったのね。


「これなら、華さんも寝られると思うよ」


そう言うとハンモックに小さな毛布まで敷いてくれたの。


「はい、手を貸して。そっちの枝に足を掛けて。そうそう、それでいい。それからこれを上からかぶって寝るといい」


そう言って影井さんはあたしの上に銀色の薄いシートをかぶせてくれたわ。あら?薄いのに随分と温かい。


「それなら水も弾くから」


そう言うと影井さんは枝の根本に移動していったのよね。


「あの、影井さんは?」


てっきりもう一つハンモックを吊るすと思っていたのだけど準備する様子が無いので聞いてみたわ。


「ああ、私はここで木に身体を縛り付けて寝るよ。なーに、気にしなくていい。日本でも似たようなことはしてきて慣れているから。さ、ちょうど日も落ちてきたことだし眠るといい。明日、明るくなったら早くから動くよ」


それだけ言うと影井さんは言葉通りにロープで自分を木に縛り付けてしまった。


会話をしていないと今日の出来事が思い出されるわ。今日は、いろんなことがあったわね。学校から家に帰るはずが知らない世界に転移して、山に登って、竹みたいなもので簡単な武装をして、ウサギみたいな猛獣に襲われて、今は木の上で寝ようとしているなんて、きっと日本で普通に暮らして居たら一生経験しなくても不思議の無い事ばかり。


「ねえ、影井さん。もう寝ちゃった?」

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