第5ステージ オモイは行き違い!?③
あずみちゃんから連絡が帰ってこないので、直接会いに行くことにした。
でも住んでいる場所が横浜ということを知っているだけで、住所も最寄り駅も知らなかった。そもそも知っていたとしても、家の前で待っていたら通報されかねない。最寄り駅で一日中待っていても会える可能性は低い。
けど、あることは知っていた。
「ホラリス女学院大学……」
スマホで検索すると、真っ白な厳かな建物が出てきた。中学から付属があるらしい。画像検索をするだけでお嬢様大学だとわかる。
表参道に出かけた日にあずみちゃんに大学名を聞かれ、何気なく聞き返したのがここで役立った。
「自分の大学と全然雰囲気違うな……」
普段の姿でいったら浮く。そもそも女子大なのでセキュリティも厳しそうだ。入口には警備員さんもいるだろう。
リリイベとは違った意味で、きちんとした格好でいかないと門前払いとなりそうだ。
「……仕方ない」
自分の部屋から出て、リビングに行く。
そこには兄貴と、ちょうどいいことに兄貴の彼女さんがいた。背は俺より少しだけ低いが平均よりは大きめの、ぱっと見は綺麗なお姉さんだ。
「わぁ、ハレくんだ~」
「……どうも」
兄貴とは高校から付き合っているので、何度も顔を合わせている。両親がいても、一緒の食卓を囲むぐらいうちの家族に馴染んでいるありさまだ。実のお姉さんのように振舞い、やたら距離感の近いこの人が俺は苦手である。
だが、今日は背に腹は代えられない。
「ハレくんは本当イケメンだよねー」
「ユカ、それは違うぞ。ハレは可愛いんだ、小さい頃はお兄ちゃんっ子でな~」
「もう、小さい頃とかどうでもいいから! 二人に頼みがある」
二人が顔を見合わせ、困惑する。
「ハレが頼み事するなんて珍しいな」
「ついにハレくんがデレてくれたのね」
「今日はお寿司でも頼んじゃうか」
「ホールケーキも用意しちゃうわよ」
「あー、二人ともうるさい! いいから、俺の話を聞いてくれ」
息を吸い込み、言いたくない台詞を口にする。
「俺を女子大に行ける格好にしてくれ。……いや、してください、お願いします」
× × ×
兄貴と彼女さんに頼んだおかげで、あずみちゃんの大学に無事入ることに成功した。
保険証で女性であることを守衛さんにわざわざ示し、近くにいた女の子に声をかけ、構内図を見ながら場所を説明してもらった。普段なら絶対やらないことも今日なら容易にできた。
――亜澄ちゃんに会いたい。
30分近く構内を歩き、そして食堂の前でやっとあずみちゃんを発見した。
「やっとみつけた、あずみちゃん」
突然の登場に、彼女は驚いた顔をしていた。
「どどどぉどどどどど、どぅうして、ここに、ハレさんがいるんですか!?」
それ以上に言葉が混乱していた。
秋葉原のリリイベの日からはそんなに日は経っていないが、コミュニケーションをとれたのは久々で、彼女の慌てふためく姿が懐かしく、嬉しさを感じた。
また会えて、よかった。
名古屋で俺をみつけた時の彼女も、こんな気持ちだったのだろうか。
「あずみちゃんとまた会って、話したかったから」
「話ですか……私は、ハレさんと話すことはありません。わざわざ来てもらって申し訳ないですが、帰ってもらっていいですか」
そう言って、俺の横を通り過ぎようとする彼女の腕をつかむ。
「待って」
「待ちません」
「あずみちゃん、俺は君といたい」
「うなっ……!?」
「きゃー」、「告白ですわ」、「ドラマでみた展開ですわ」、「カメラ、カメラはまだなの!?」と周りのギャラリーが何やら盛り上がっている。
あずみちゃんの隣にいた友達も興奮気味に声をかける。
「あずみさん、やっぱり殿方じゃないですか……!」
「ち、ちがうからー! もうハレさんややこしい!! こっち来てください!!」
顔を真っ赤にした彼女が俺の手を掴む。そこでまた観客から歓声があがるが気にせず、あずみちゃんが強く引っ張る。
「いた、いて。力強いんだけど」
「ハレさんの馬鹿、馬鹿、ばかあぁぁぁあああああぁ」
その場から逃げるように去ったのだった。
× × ×
銅像が建っているが人のいない場所につき、やっと走るスピードが落ちた。
「ぜえぜぇ……」
「吐きそう……」
ちょうどあったベンチに座り、息を落ち着かせる。こんな盛り上がるイベントにするつもりはなかったのだが、大騒ぎとなってしまった。
「騒ぎになっちゃってごめん」
「本当ですよ、いきなりすぎます」
「けど、こうするしかなかった」
「うっ、連絡を返さなかった私が悪かったですが、でも、その、それには理由があって……」
声がしぼんでいく。彼女にも負い目はあったのだろう。
少しして息も心も落ち着いたのか、あずみちゃんがこっちを見て、口を開く。
「ま、まず、その格好は何ですか!」
「女子大に行ける格好にしてくれ、と兄貴の彼女に頼んだ」
また格好のことを言われるとは思っていなかった。
「絶対面白くなると思って、そんなカッコいい格好にしていますよ!」
「……そう?」
「可愛い格好じゃなくて、なんでイケメンバージョンなんですか!?」
そう言われ、自分の格好を見る。
女子大に行くといい、兄貴はゴスロリやワンピースといった格好にすべきと主張した。しかし、その意見を彼女さんは一蹴し、「ハレくんの特徴を生かしたイケメン女子にすべき、いやしないわけにはいかないわ!」と自分の意見を押し通した。
白シャツに細身のボトムスとシンプルだが、黒い細めのネクタイを巻き、ブーツも黒色で全体的にモノトーンだ。化粧は薄めだが、口紅はしっかりと塗られていた。
「格好についてユカさん的には」
「誰ですかその新しい女の名前は!?」
「え、兄貴の彼女だよ」
「兄貴って……付き合っている人の隠語ですよね」
「いやいや、血の繋がっている兄貴だって。その兄貴の彼女のユカさん的には男装の麗人だって」
「そりゃ、皆きゃーきゃーいいますよ……」
目の前で大きくため息をつかれる。
あれ、由香さんの「完璧だわ、これなら女子大に入るのも問題ない!」の言葉を信じない方が良かった?
ただ印象はどうあれ、結果的にはあずみちゃんに会えたので感謝しないとな。
改めてあずみちゃんの顔を見て、話す。
「とりあえずさ」
「なんですかっ!」
「あずみちゃんが元気そうでよかったよ」
「……も、もう、本当ハレさんは、ハレさんなんだから!!」
語気が強い。でもびっくりマークが多いと、あずみちゃんっぽいなと苦笑いしてしまう。
「……怒ってる?」
「知りませんっ!!!」
その言葉に、ぷっと吹き出す。
「笑わないでください!」とお腹を小突かれ、そんなやり取りが可笑しくて、さらに声を出して笑ってしまうのであった。
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