4. 見えない存在
魔法が使える。
それはエルフィールド国出身であることに必ず繋がる。
だがおかしな話だ。
私は、自分以外の生き残りを求めて探し続けた。アトリスタ商会を立ち上げるための旅を再開したライナックに無理を言ってついて行き、自身で世界中に存在しないことを確認したのだ。
魔法使いが持つ魔力を辿ろうとしてもどこにも無かった。魔力を感知させないことができるのは、自分よりも魔力量の少ない者に対してのみだ。エルフィールドの王族として生まれた私は、国の中で最も魔力量が多い者とされた。だから、私から身を隠すのは不可能に近い。
……それだというのに、養子となった公爵令嬢は何故急に現れたのか。
「ライナック……正直な話、私は彼女の魔力を何も感じられない。もしかして……その養子である公爵令嬢は計り知れない程の魔力の持ち主なの?」
導きだした答えを疑問に感じながら話を進める。
「いや。逆だ」
「逆?」
「シュイナに比べて…………エルフィールドの魔法使い達に比べて、驚くほど魔力が少ないらしい。シュイナが感知できないほどにな」
「魔力が…………少ない」
私にとって、その言葉は信じられないものだった。
エルフィールド国は他国に比べると閉鎖的な国で、ほとんどの国民がエルフィールドに生活の拠点を置いていた。国から出ることはあっても必ず戻ってきた。故に、結婚相手は国内の人間のみ。魔法の才能を受け継がせるために、他所の血を入れることを拒んだ。王族や魔力量が多い者は他所の血が混ざっても子供に必ず血からが受け継がれるため例外だった。
エルフィールドに生まれた者はエルフィールドで一生を終える者がほとんどだ。それが教えとされ何代にも渡り守られた結果、気づかぬうちにそれが当然になった。
だからこそ、有能な魔法使いしか生まれなくなり魔力量が異常に少なかったり、極端に才能が無い者は生まれてこない────その筈なのに。
「私が感知できないというのは……それは、以前までの普通とされる魔法使いが持つ魔力量に到底及ばない。そういった魔法使いは…………存在しない筈なんだ」
「そうか……」
「そう教えられてきた。滅びる寸前まで、ずっと」
だがそれ以来、何が正しいのかわからなくなる自分がいる。
エルフィールドはまるで一つの民族だ。
誰かのその言葉に酷く納得した記憶がある。
「だからと言って、公爵令嬢の存在を否定することは絶対にしない。……もし本当に少しでも魔法が使えるなら、私に残された最後の同郷者かもしれないから」
「これか事実なら、生き残りが他にもいたことになる。長い時を経て衝撃的な展開になるとはな」
「そうだね。…………その噂話をアルバートさんとして来たの?」
「まぁな……。ここまでが前置きのようなものなんだが」
「…………それは随分と濃い前置きで」
「こっからが本題だ。さっきも話した通り、その令嬢が大公の縁談を邪魔してる」
「うん」
この話で不思議なのは、仮に彼女がエルフィールドの人間だとして……何故デューハイトンの公爵令嬢となりその上大公の縁談を邪魔しているということだ。全く意図がつかめない。
「具体的には、魔法を使って脅してるって事だな。いくら魔力量が少ないとはいえ、相手は魔法使いだ。普通の人間───デューハイトンの人間じゃ止めることは不可能に等しい。対抗策もこれといって無いしな」
魔法使いが絶滅に近しい状況の今、件の公爵令嬢を止める手段は一切無くなるだろう。
「それでも婚約式を執り行う為に色々と策を考えてるらしい…………で、だな」
どうやらいよいよ本題に入るようで。
「シュイナ、お前に大公の婚約相手となるご令嬢の侍女を頼みたいと言われた」
「……………………………え?」
誰が、何だって。
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