第13話:冥界の門
錆びた鉄の匂い、腐食した木片の香り、そして海風と共に流れる生臭さ…素晴らしい!
元の世界での寂れた港町と同じ空気を感じながら海辺を歩く。
そういえばゲームでもよく海辺を歩いてたっけなぁ…。
ダンジョンを探したり、端っこに隠し要素がないか探したり、地図を埋める為に取り敢えず歩いたり……あんまり良い思い出がないや。
そうこうしている内に小さな漁村を見つけて、漁師の人に声をかける。
「すいません。ここって何処でしょうか?」
「男の子とは珍しい…タラークから逃げてきたのか? ここはウィーアードって漁村だ」
鋼鉄の街タラーク…確か絶対に男しか生まれない人種の街だったっけな?
他には近くに竜の寝床キリークって女しか生まれない人種の街もあった気がする。
原作知識はこういう時に便利だなぁ。
……あれ、確か原作でもこのウィーアードって村に来た事あったな。
封印の剣を抜いて、宿神が解き放たれて、各地を放浪して……思い出した!
宿神の【ハデス・ヤム・ナハル 】を倒しに冥界に行く為の道がある場所だ!!
そうそう、ここにあるアズラハンって死神の柩を通って行くんだっけ。
ボスを倒して奥にある部屋に行くとアズラハンの骨先ってアイテムがあったなぁ。
たまーに相手を即死させるアイテムだけど、ボスは死なないし雑魚は普通に火力で倒せば良いから微妙アイテムなんだよね…。
でも確か即死耐性があるはず!
……無効化じゃないから微妙なんだった。
いやでもゲームみたいな凄いアイテムは簡単に手に入らないから、ここで手に入れておくのも悪い手ではないはずだ。
っていうか現状、僕の装備ってレイシアさんから貰ったナイフと特注のグローブくらいで、他はスッピンもいいところである。
「実はアズラハン様の祠へお参りに来たんですが、何処にあるんでしょうか?」
「随分とまた珍しい名前を聞いたねぇ~。村の中でも知ってる奴はもうほとんどおらんよ」
ゲーム内のテキスト…というか本では、アズラハンについての記述はかなり少ない。
説明文だと死神のような感じなのだが、この世界の神様は今全員封印されてスヤスヤしてるし、そういうのではないと思う。
「アズラハン様の祠はこのまま海沿いを歩いていってある崖の根元にあるでな、気をつけるんだぞ」
「ありがとうございます!」
僕は漁師さんにお礼を行って、そのまま祠に向かう。
本来のストーリー上で出現するモンスターがいる場合は確実に死ぬけれど、この世界では封印の剣が抜かれていないのでまだ平和なはず。
そしてボスもまだ存在していないので、アズラハンの骨先も簡単に手に入れられるという事だ!
なんにせよ、これで少しは強くなれるかもしれない思うと、胸が弾むというものだ。
アズラハンの祠に入ると、まるで冷蔵庫のように冷気が漂っている。
こういう所はゲームと違って本当にリアルだと感じるのだが、不便極まりない。
中の道順と罠についてはまだ覚えている為、順調に進む事ができたのだが…それにしても寒い。
あまり寒いので≪生成≫で火を出して温まる。
「あ~…生き返るぅ~~」
まぁ死んでないんだけどね。
いや、一回死んでたわ…それでこの世界に転生してきたんだし。
ふと、視界の端で何かが動くのが見えた。
そういえば雑魚敵が居た気がするのでよーく見てみると、そこには半漁人らしき生物が横たわっていた。
身体が人間で顔が魚とかそういうのじゃない、人間の身体に鱗やエラや魚のような目玉がついてるやつだ。
エニグマ・ワン、この世界では謎のモンスターとされている。
その実態はむかーし神様が創って廃棄した種族であり、それが細々と生き残って繁殖しているのだ。
どうやらこの冷気によって冬眠しているので害はなさそうなのだが、手元の火で目覚められても困るので寒さを我慢しながら奥に進む事にした。
そうして三階層下まで降り、祭壇に辿り着く。
祭壇の台座には天井から太陽の光が当たっており、そこだけ明るく温かかった。
さて…本来ならばここに光を集めて祭壇近くにある穴に光を通して謎解きをする要素があるのだが、僕は何をどうすればいいのか知っている。
先ず≪生成≫で大きな水の球を作り出す。
次に≪変質≫で形を変えて、太陽の光を穴に通す……のだが、全然思った通りにいかない。
こんな事なら鏡の一つでも持って来ればよかった。
そこでレイシアさんから貰ったナイフの事を思い出し、それを光の当たる場所に掲げる。
そしてナイフを台座に刺しつつ触媒として光を≪収束≫させ、≪変質≫を使って狙った方向に光が曲がるように調整する。
あとは≪収束≫させた光を≪放出≫させることで、ギミックの解除に成功した。
穴の奥を温めればいいらしいのだが、それなら熱風を注ぎ込んだほうが良かったかもしれない。
…あ、エニグマ・ワンが目覚めるかもしれないからやらなくて正解だった。
祭壇の中央が開き、そこから下に続く螺旋階段が見える。
メインクエストだったらこの先に【ハデス・ヤム・ナハル 】が配置したボスがいるので今すぐ回れ右して帰る所だが、奴はここにいない!
ということで、安心して中を探索できるというものだ。
目当てはアズラハンの骨先だが、ゲームと違ってこの世界では宝物とかもあるかもしれない。
なんか良い物ないかなぁと思いながら螺旋階段を下ると、大きな広間に鎮座している柩が見えた。
ゲームだと壊れていたが、恐らくあの中にアズラハンの骨先が入っているはずだ。
あとはアレを開けて中身を取ればミッションコンプリートである。
「というわけで、オープン・ザ・トゥーム!」
そこには大きな骸骨があった。
僕はそっと柩の蓋を元に戻した。
……おかしいな、骨先だけだと思ったら骨が丸ごと入ってた。
もしかしてアレを丸ごと持って帰らないといけないの?
ゲームならアイテム袋に入れればいいけど、現実であんなの抱えて歩いてたら絶対にヤバイ奴だよ。
いやいや、見間違いかもしれないからもう一度見てみよう…いや、やっぱり止めよう。
墓荒らしとかいけないことだよね、うん!
僕はRPGの勇者と違って家宅捜査して金品没収とかしないから!
それじゃあ帰ろうかと踵を返すと、周囲が明るくなった。
広間には小さな穴がいくつも空いており、そこから差す光が柩に向かって集中している。
……あれ、もしかしてあのギミックって隠し通路以外にも意味があった?
出口からは冷気がドンドンと中に入り込み、広間は凍てつく冬のような寒さとなった。
そしてその冷気の全てが柩の中へと吸い込まれていったかと思うと、突如柩の蓋が吹き飛んだ。
「カカカカッ! 永き眠りであった、ようやっと目覚めの光がきたか!」
柩の上にはまるで死神のような黒装束を身に纏った骸骨が浮いていた。
恐らくだが…あれがアズラハンなんだと思う。
この世の物とは思えないような気配を漂わせ、色濃く見えるその死の気配が、伝承の残っていたアズラハンと完全に合致していた。
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