思いに焦がれて②

恭弥side


俺は小さい頃に父親から暴力を受けていた。

酒に溺れ暴れていた。

母親には暴力を振るわ無かったのが幸いだった。

「やめてよ父さん!!」

「うるせぇガキだな…オラ!」

俺は胸ぐらを掴まれひたすら殴られ続けた。

お母さんを守れるのは俺しかいない。

地獄の日々にも終わりが見えた。

近所の人が父親を通報し逮捕され、俺と母親に接近禁止令を出してくれたおかげでそれからの日々は平和だった。

だけど本当はお母さんに助けて欲しかったんだ。

それから俺は教師になり自分のクラスを持った。

1人気になる生徒が居た。

彼女、斉藤真維はいつも1人だった。

そんな彼女は儚げでとても美しく見えた。

周りにいる高校生とは違って大人に感じた。

彼女の体はかなり痩せ細っていて、栄養失調の一歩手前だった。

教師として斉藤に話し掛けていた。

俺は忘れ物を取りに教室に訪れた。

ガラガラ

扉を開けると斉藤が夕陽に染まる空を見つめていた。

斉藤の制服の袖から痛々しい痣が見えた。

この時に確信した。

俺と同じく暴力を受けていると。

だけど彼女の口から聞かないとそれなりの対処が出来ない。

軽い話をしてから聞いてみるか…。

「斉藤?お前こんな時間まで何してんだ?下校時間過ぎてるぞ。」

「帰りたくないから。先生こそ忘れ物?」

「そうそう、今日集めた日本史のノート持ってくの忘れてな。斉藤…腕のその痣どうした?」

「!?」

俺がそう言うと斉藤は慌てて袖を下ろした。

「なんでもないよ。」

「なんでも無いわけないだろ。見せろ。」

斉藤は恐る恐る袖を捲った。

白い肌に赤い痣が沢山あった。

気付いてあげれなかった。

よく見ていたつもりだったが気付け無かった。

斉藤の痣を見て胸が締め付けられた。

「ちょっ…何で…。先生がそんな顔すんのよ」

「気付いてやれなくてごめんな…。」

「先生は何も悪くないじゃない…。」

斉藤は俺を見て泣きそうなっていた。

「それ、暴力振るわれてるよな?」

そう聞くと斉藤はコクリと頷いた。

「お母さんか?」

「うん…。」

「いつからだ?」

「中1くらいから…。」

「5年間我慢してたんだな…。お前が何か悩みを抱えているのは分かったてた。だから斉藤が自分から話してくれるのを待ってた。よし、お前の家行くぞ。」

「はぁ!?」

「ほら、早くカバン持って校門の所で待ってろ。車回してくるから。」

俺はそう言って教室を出た。

職員室に戻り車のキーと自分の鞄を持って駐車場に向かった。

車にエンジンを掛け校門に車を回した。

合流して斉藤の家に向かった。

俺も同じ経験をした事を話すと斉藤は驚いていた。

斉藤の家に着き俺はインターホンを押した。

不安そうな顔をしていたので俺は「大丈夫だ。」と笑って言った。

玄関の扉が開き母親らしき女性が出て来た。

「どちら様ですか…ってあら担任の…。」

「櫻井です。突然の訪問してしまい申し訳ありません。真維さんの事でお話ししたいのですが、よろしいですか?」

俺がそう言うと母親は嫌そうな顔をして斉藤を睨んでいた。

この母親…。

娘に対して何て目付きをするんだ!?

俺は斉藤と家の中に入りリビングに通された。

リビングを見渡すとかなり汚れていた。

ゴミはかなり溜まっていて、キッチンを見ると料理をした形跡は無く惣菜のゴミが捨てられていた。

こんな環境の中で斉藤に暴力をしたり食事を与えていなかったのか。

話をしていても全然噛み合わない。

話が通じないと言った方がいいだろう。

「部屋を見ても、掃除やご飯を作った形跡も無い。むしろ荒れている。証拠と言うなら真維さんの体についている傷だ。警察を呼んでも構いません。ですけど、捕まるのはお母さんの方だと思いますよ?」

「何ですって!?」

「児童相談所に相談させていただきます。これ以上真維さんが暴力を振るわれるのは我慢なりませんから。」

「な!!?」

俺がそう言うと母親の顔色が変わって行く。

「真維さんの事、愛しているなら変わってください。真維さんにはお母さんの愛が必要です。」

「先生…。」

「帰ってください…。」

そう言った母親はどこか弱々しかった。

斉藤は俺を玄関まで送った。

「先生…今日はありがとう。」

「大した事じゃねぇよ。それと…。何があるか分からないから連絡先交換しとこうぜ。」

何かあったら直ぐ駆け付けらるし、本来なら連絡先を交換はしてはいけないが今回は別だ。

「分かった。だけど連絡先交換してまずくない?」

「お前は口堅そうだから大丈夫だろ。」

「まぁね。わざわざ周りに言う事じゃないしね。」

「そう言うとこサラッとしてるよな。」

俺と斉藤は連絡先を交換した。

「何かあったらすぐ連絡しろよ?分かったな?」

「分かったよ。ありがとね、先生。」

ドキッ!!

笑顔でお礼を言っている斉藤の姿に胸が高まった。

「じゃあまた明日な。」

斉藤にときめいた事を悟られない様に俺は車を走らせた。

この日の夜に事件は起きた。

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