第11話 新たな世界
「やあ、また会えたねえアリス」
何もない空間に猫の首が浮いている。ニヤニヤといやらしい笑い顔を張り付けたソレを、私は不思議と前のような不快感を抱く事無く眺めていた。
「ええ、そうね。それで? 察するにあなたはチェシャ猫といったところかしら」
「おやおや、その様子だと先に帽子屋の奴にあったらしいね。そのとおり、チェシャ猫。それが俺に与えられた役割らしい」
「与えられた? それは誰に?」
「さあ、誰だろうね。それはまだ君が知る時ではないよ。哀れなアリス、君はまだ残念ながら決められたシナリオの通りに動いている」
「……ふうん」
シナリオと言った。つまりこの世界に私を導いた何者かが存在する、か。
「それで、シナリオとやらを描いた演出家気取りの奴は次に私に何をさせたいのかしら?」
「好きにするといい。シナリオは確かにある、けどそれを君に教える義務は無いし、君も従う必要はない」
「……そう、じゃあ好きに行かせてもらうわ」
チェシャ猫に背を向け、立ち去ろうとした私に彼は声をかけた。
「ああ忘れていた。君がこちらに来た記念に、一つプレゼントを贈ろうか」
するりと姿を消したチェシャ猫は、次の瞬間には私の肩に乗っており、口に大ぶりのナイフを加えていた。
「ナイフ? 何故こんなものを?」
「意味なんて無いさ。道具そのものに意味なんてありはしない。使う者が道具に意味を持たせるんだ」
その言葉の意味はわからない。が、確かに受け取ったナイフはズシリと重く、何故か私の手に馴染むようだった。
チェシャ猫は私の肩からフワリと飛び降りると、空中でその姿を消した。
「アリス、俺はね別に君の味方というわけではないんだ」
頭上からかけられた言葉に、私はそっと上を見上げると、意地の悪いニヤニヤ笑いを浮かべた猫の首が宙に浮いていた。
「……何が言いたいの? あなたは私の敵だということ?」
「敵……ふふ、敵か。そんなことはないさ、俺は中立だ。与えられた役割上君に関わってはいるが正直俺は君にあまり興味がない。せいぜい面白いことをして俺の興味を引かせてくれると嬉しいな」
「あなたが何を言いたいのかはわからないけど……まあ今は気分がいいから聞き流すわ。プレゼントもくれたことだしね」
チェシャ猫に背を向けて歩き出す。
「どこへ向かうんだいアリス」
「さあ、どこかしら。何処へ向かってもいいのだけれど」
「道を教えてあげようか?」
「結構よ、だって」
この世界はアリスの為にあるのだから
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