第6話 修行に励もう

「ど、ど、どういうことでしょうか、道木さん?」


「例ちゃん。冷静に考えてみようよ。もし、本当にこのリストバンドとアンクルバンドが、俺達を殺すために作られた道具だとしたら、不自然だと思わないか?一週間に10gずつ増えていくって、重量を増やすことが俺達を殺すための目的だとすると、明らかに時間がかかりすぎると思うんだよ。それに、食事まで用意するこの優遇措置も、俺達を殺すことが目的だとすれば、完全に不必要だろ?」


 道木の言うことは、辻褄があっており、説得力があった。そうだよな。俺達を殺すことが目的なら、そんなに時間をかける必要なんてない。この空間に俺達を閉じ込めたのならば、食料を出さずに飢え死にするようにすればいいのだから。


「つまりは、一週間に10gずつ重量が増えていくということ、言い換えると、とんでもなく遅いスピードで重量を増やしていく、ということ。

 それは、このリストバンドとアンクルバンドの重量に、俺達の体を適応させることが目的なんじゃないの?だから、極端な心配をする必要なんてないんだと、俺は思うね。」


 道木の説明を聞いた名波さんは、心配そうな表情をしながら、俺のほうを見てきた。


「名波さん。おれも、道木の言う通りだと思うよ。道木の説明は、辻褄が合っているように感じた。実際、クロノスという男は、『修行』と言っていたんだ。俺達を殺そうとか、そんな極端な事には、ならないと思うよ。」


「そ、そ、そうですよね。二人がそう言うなら、とりあえずは安心しました。」


 名波さんは、何とか安心したように見えた。だけど、何故か道木は、納得していないような表情になっていた。


「なあ、麗ちゃん。なんで、相談を最初に真水にしたの?」


 そう質問された名波さんは、返答に困ったのか、かなり動揺しているように見えた。


「ど、ど、どう、どういうことでしょうか?と、特に意味はないです。」


 あわてて曖昧な返事をして誤魔化すような態度をとっている名波さんは、食べ終わった食器を片付けるために、逃げるようにしてこの場を去っていった。

 そんな様子を、俺と道木は、ただただ見ているだけだった。



---------------- 



 午後のトレーニングが始まると、俺達の前に、クロノスが姿を表した。


「どうだい?今日は、リストバンドとアンクルバンドの重量が10g増えたけど。」


 クロノスは、俺達一人一人に、そう質問をしてきた。俺は、今感じている事を、正直に答えた。


「いや、特には何も感じないですね。もともと、最初から、これぐらいの重量なら、何も負担に感じることはないですね。」


「ハッハッハ。それなら良かった。トレーニングはつらくないかい?」


「いや、今のところは、全く。むしろ、楽すぎると思うのですが。こんなに楽なトレーニングメニューで、はたして、修行と言っていいのですか?」


「ハッハッハ。真水くん。心配することないよ。私は、皆平等に、と考えているんだ。君達男性諸君には、今のトレーニングメニューは、楽すぎると思うのは当然なんだよ。だけどね、ここには、女の子も来てるんだ。女の子の中には、腕立て10回でも難しいって場合もあるんだよ。だから、今のトレーニングメニューは、全員が、ある程度の筋力が身に付くまでの試運転、ということなんだよ。」


 なるほど、と思った。確かに、ここには、女の子もいるんだ。男と女では、筋肉量が絶対的に違うんだ。クロノスは、その辺を十分に考慮している、ということだろうか。


「真水くん。心配しなくても、これから、トレーニングメニューは、どんどん改良していくつもりだよ。腕立てや腹筋、背筋、スクワット等は、どんどん回数を増やしていく予定だ。一気に回数を増やすつもりはないよ。ちよっとずつ、徐々に増やすつもりでいるんだ。他のトレーニングも、どんどん厳しくしていくつもりだよ。だから、安心して修行に励んでほしい。」


 クロノスはそう言って、俺の肩をポンポンと数回軽く叩き、他の者達に質問をしにいった。クロノスは、俺達の事を、ちゃんと考えてくれているようだ。『応援する』ということも、クロノスの本心なんだろうと、改めて思った。だから、これからのトレーニングは、クロノスの期待に答えるために、より真剣に取り組んでいこうと、俺は思った。

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る