グリーンスクール - 翼をください

辻澤 あきら

第1話 翼をください-1


                 翼をください



 某月某日・・・快晴。風向、南南東。



 まばゆい陽射しが学生たちの影を、濃くアスファルトに映し出そうとしている。ところが、学生たちは、そうはいかぬとばかりに駆けだしていく。


 いつもと同じ朝、騒がしい通学路。数人の少年たちの影が、ゆっくりと歩く少女の影に重なり、追い抜いていく。帽子を落とした少年は、笑いながら引き返し、文句を言いながら拾い上げると、叫びながら全力で追いかけていく。


 いつもの見慣れた朝の光景。


 にぎやかな正門前に、突然、大型のロールスロイスが現れた。一瞬沈黙で覆われる正門付近、口を閉ざすことのできない少女たちでさえ言葉を失い、駆け回っていた少年たちにさえ時間が止まった。凛とした運転手が降り立ち、後部ドアを開くと紳士が、と言っても、どう見てもボディガード風の男が、降りた。緊張が漂う中、後部座席の奥から、少女が、小柄な少女が降りてきた。


 降り立った少女は、すっくと背を伸ばすと大きく深呼吸した。ほどよくまとまったクルクルパーマは栗毛色で、朝の陽射しの中、琥珀の乱反射を起こし、少女の周りに光の環が現れたように見える。髪をまとめるリボンの赤が強く映え、新品の制服も眩しく、周りの誰よりも輝かしく見えた。


「ここが、緑ヶ丘学園なのね」

門柱越しに学内を覗き込みながら、少女はそう言うと、急に振り返り、車の中に半身突っ込むと鞄を取り出した。


「デハ、行ってきます」

右手を大きく斜めに挙げそう言うと、今度は深々と頭を下げ送迎の二人に挨拶した。

「でも、お嬢様。職員室まで送らねば…」

その言葉を遮るように、少女は胸を反らし歩みだす。

「また、帰り、お願いね」

笑顔で紳士を留めると、誰彼なく、おはよう、と挨拶しながら歩いていく。

心配そうな紳士と冷静な運転手を尻目に、少女は校舎の方へと歩いていく。

「……誰?…あれ?」

一つ、また一つとささやき声が生まれ、次第に飛散していた時間が戻ってくる。


 そして、始業のベルが鳴る。

慌てて走り出す少年少女たち。慣れない二人の大人は、一瞬怯み、そして呆れながら、その光景を見届ける。

そして、次第に静寂が戻ってくる。

「帰りましょうか?」

運転手が帽子を直しながら呟く。でも、と言いかけて、紳士は、学園内に踏み入ろうとするが、留まる。

「お嬢様のことはよく伝えてあるはずだから……」

 二人は車に乗り込み、立ち去る。


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