第23話 再来の熱砂(3)レッドドラゴンの巣
「よく眠れたか?おかげさまで、ぐっすりだよ」
湊はコンテナから出されて、シェンのテントで朝食を出されながら言った。
朝食は海南チキンライス、ゆで卵、ブロッコリー、根菜と豆のスープだった。
シェンは湊の見た夢に気付いてはいないだろうが、軽く笑った。
「歩くか」
シェンは立ち上がり、湊もそれに続く。
湊は、周囲を見回した。
戦闘員に当たると思われる者達はグループに分かれて、走ったり、2人1組で格闘戦の訓練をしていたり、射撃訓練をしたりしている。
非戦闘員の女や子供は洗濯などの家事をしているらしい。
イタズラする子を叱る親、ふざけ合う子供達、手伝いをする子供。笑顔で言葉も交わし合っている。
ここは赤龍の軍事拠点であり、生活拠点でもあった。まさしく、ホームだ。
しかしその中で、特別に痩せて暗い顔付きの子供達が集められたグループがあった。彼らは家畜の世話をしていた。
「仕事の無い時はのんびりしたもんだ。普通の村と違いはねえ。軍事訓練をするやつがいるくらいだ。仕事の無い時は、皆ここで訓練しつつ羽を伸ばしている。結婚して家庭だって持っているやつもいる。好みの女がいれば、紹介してやるぜ。
どうだ」
シェンの言う「どうだ」が、女の事ではないというのはわかる。
「どうかな。断ればどうする」
「そうだなあ。処刑シーンを録画して、オシリスに送りつけるか。いや、指を1本ずつ送りつけて、何本目でキレるかみんなで賭けるか。
お前は何本に賭ける?」
シェンが残忍そうに笑うのに、湊は肩を竦めた。
「賭け事はしないんでね」
「ま、こっちがお客さん扱いできているうちに考えておいてくれ」
ブラブラと歩いていたがとうとうコンテナまで辿り着き、シェンのそのセリフで、湊はコンテナに戻された。
昼にはまだ間がある頃、コンテナのそばで押し殺したような声で会話がかわされるのを聞いた。
「闇雲に逃げたって無駄だ。途中で死ぬだけだ」
「馬を奪って行けばどうだ」
「車で追いつかれるだけだろ。銃で撃ち殺されておしまいだ」
「じゃあ、車を全部パンクさせておけば?」
「家畜小屋にかかってる鍵は、どうしようもないだろ」
「あいつなら、酔って寝れば早々起きない」
「酔えば寝る前に、さんざん俺達の誰かを殴るだろう。いいのか?」
その会話はアラビア語で、声音は押し殺したものだったが切羽詰まった様子だった。
「とにかく、仕事を片付けよう。助けが来るまで、待つしかないよ」
しばらくするとコンテナが開き、暗い顔の子供が2人入って来た。
水のペットボトルを置き、コンテナの中を簡単に掃いて砂を出す。
その彼らに湊は話しかけた。
「ここには長いのか」
2人は湊をやや驚いたように見てから、片方が、
「ショウシャマンか?」
と訊く。
逃げたがっていた方の声だ。
「いや。警備会社の社員だ」
それで彼らは、顔を見合わせた。
この地域で言う警備会社は、民間軍事組織みたいなイメージなのだろう。
「あんた、日本人か。キャプテン翼の国の人か」
「そうだ。名前はミナト・シノモリ。湊でいい。お前らは?近くの村の子か?」
すると、逃げたがっていた方が真剣な目をして言う。
「俺はカシム。こいつはザイード。同じ村だ。買い物について街へ行った時にあいつらの襲撃に出くわして、ついでに連れて来られた」
「そうか。災難だったな。
ここがどのあたりかわかるか?」
「ああ。レッドドラゴンの巣だろ。近付かないようにって、遊牧民も気を付けてる。誰でも、それを頭に入れておかないと、家を出してもらえないくらいにね」
「そうか。じゃあ、また話し相手になってもらえるかな。相談をしよう」
「わかった」
小声で短く会話した後、カシムとザイードは元の暗い顔を俯けながらコンテナを出て行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます