第18話 赤い龍(2)開店セール

 警察官は最初ここの管轄の警察官だったが、すぐにお馴染みの公安が来て、交代した。

 それで再び、昼間の植木鉢が落下して来た事から説明した。

「君を狙って来たのか」

「そうかも知れませんね」

「赤龍と接点があるのか」

「いいえ」

「オシリスの構成員として狙われているんじゃないのか」

「だったら無関係だと是非主張したいですね」

 のらりくらりとした、裏の読み合いをするかのような、言葉の端、表情の変化、視線の動きを注視しながらの聴取を終え、やっと解放された湊は、心配して待っていた錦織に迎えられた。

「大変だったね。赤い龍のカードか。赤龍からの挨拶だろうかね」

「そうですね。何でこっちに興味を持つのかわからないですけど」

 錦織と苦笑し、ふと、真面目な顔に戻る。

「赤龍はオシリスとは性格の違う組織だ。オシリスとはまた別の意味合いで厄介だね」

「はい」


 家に戻ると、スーパーに寄れなかった事を思い出して嘆息した。

(まあ、いいか)

 レトルトのカレーがあるし、乾麺もある。

 明日の朝のパンがないが、まあいい。

 そう思った時、電話が鳴り出した。

 予感を感じながら出ると、やはり、相手はオシリスだった。

『やあ、カナリア』

「こんばんは」

『赤龍に気を付けろ』

「たった今、あいさつ代わりに狙撃されたところだ」

『遅かったか』

 オシリスは舌打ちをして続けた。

『赤龍は、破壊と殺戮を楽しむ奴らだ。意義もルールもない、ただの犯罪者集団だ。法律や手続きなんて考えていたら、間に合わない。しっかり逃げろよ』

「ああ」

 それで電話はプツリと切れた。

「赤龍ねえ」

 どうして自分には、こう物騒なやつらが寄って来るのだろう。そう考えて、湊は肩を落とした。


 翌日から、山本達調査室のメンバーが何かと部屋に来るようになった。山本達は公安の人間で、柳内警備保障社員という身分をアンダーカバーに使っている。そして、湊の監視も兼ねている。

 外へ行く仕事も、何かとくっついて来る。

 これまでは一応は隠れる努力はしていたので、

「開き直ったんですか」

と訊くと、真面目な顔で、

「これはボディーガードなんだけどな」

と返された。

「警備員が警護されるんですか」

「仕方ないだろう。

 まあ、来たところを捕まえられればラッキーだしな」

 そう言うので、湊も気にしない事にした。

「今日はスーパーの開店20周年祭のバーゲンの警備か」

 大型のバンで移動しながら川口が言うと、涼真は、

「特売品、ボク達も買えるかな」

と言う。

「難しいだろ。お得な商品を並んで買いに来る客を整理するんだから。客が減った時は、商品も減ってるだろう」

 湊が言うと、涼真と悠花が肩を落とした。

「あそこのドーナツ美味しいんですよねえ。広告を見たら、いつもの半額以下のセールなんですよ」

 悠花はドーナツ狙いだった。

「ボクは洗剤を母に頼まれました。できればって」

 涼真は母親のお使いだった。

「残ってるといいわね」

 雅美が一応そう慰め、車は現場に着いた。空港に近い郊外型のスーパーマーケットだ。

「駐車場が広いな」

 どこに止めたか忘れる人が続出しそうな広さだ。そこに、既に車が止まりだしている。

 正面入り口を見ると、数人がもう並んでいた。

「早いな。開店まで2時間あるぞ」

 川口が目を丸くするのに、涼真が言う。

「激安セールの時は、よくある光景ですよ」

「そうか」

「こうやってお母さん達は節約するんですね」

 悠花が言って、全員、心の中で「お疲れ様です」と頭を下げたのだった。

 そして、店側に挨拶をし、打ち合わせをして、開店前に持ち場に散る。

『開店時間となりました。いらっしゃいませ』

 全館にアナウンスが流れ、ドアが開くと、客達がなだれ込んで来た。


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る