第9話 秘密のB坊工場 終編
B坊とブロッケリー博士の戦いは、静かに始まった。
戦いが始まって数十分が経過しているが互いに、にらみ合ったまま一歩も動いていない。
テケレケ君はB坊のおごりで弁当と飲み物を近くのコンビニに歩いて買いに行き、戻って来てB坊と一緒に完食した。
今はデザートのプリンを食べ終え、一息ついたところだ。
その間、B坊とブロッケリー博士の戦いに動きはない。
これが、超人同士の目に見えない駆け引きというものなのか?
「勝負だ!B坊社長。」
ブロッケリー博士は臨戦態勢で何度も呼び掛けているが、B坊の返事はない。
食後は、お腹がいっぱいになり眠くなる。
ひょっとしたら、B坊は寝ているのだろうか?
B坊は、起きているよと手を小さく振ってアピールしている。
よかった。
B坊は半分寝ていたが、かろうじて起きていたようだ。
ブロッケリー博士は、真っ向からB坊と戦って勝利することを望んでいた。
無防備なB坊と戦って勝っても、少しもうれしくない。
戦いが始まらない原因は、B坊にあるように感じられた。
「そのままでいいのか、ブロッケリー博士?」
沈黙を守っていたB坊が、眠たい目をこすりながら初めて口を開いた。
「おっしゃる意味が分からないのじゃが。」
「ボクは、自慢のロボットを出さなくていいのかと聞いている。」
B坊は、ブロッケリー博士の準備が整うまで待っていたのだ。
B坊の態度は傲慢と言わざるを得ないが、B坊はブロッケリー博士の上を行く自信家だった。
「ハッハッハッハー、何を言いたいのかと思えばそういうことですか。」
ブロッケリー博士は笑った。
「何が、おかしい?ブロッケリー博士。」
「ワシにロボットは必要ない。」
ブロッケリー博士の意外な返答に困惑した。
研究一筋で明らかに鍛えていないブロッケリー博士の腕や足は、折れそうなぐらい細い。
ブロッケリー博士は、戦士とは程遠い体格をしていた。
「ロボットが必要ないとは、どういうことだ?」
ブロッケリー博士の発した言葉の意味が分からず、聞き返した
B坊とテケレケ君は悪のアジトに来てからずっと、大量のロボット軍団がいつ現われても無事に生還できるように常
に退路を確保して行動していた。
ロボットが襲って来ないとしたら、今まで警戒して行動した全てが無駄だったと言える。
「B坊社長に差し向けたロボットは、情報収集が目的じゃ。」
「あのロボットは全て、使い捨てだったのか。」
色々と問題はあったが、ロボットの性能だけは本物だった。
命令を与えられたロボットが、自分の判断で行動し会話する。
現在の科学力を超える技術の結晶だ。
正面からまともに戦っていたら、B坊は負けないにしても大きなダメージを受けていたかもしれない。
「仮にB坊社長がロボットに敗れるようなことがあったなら、取るに足らない相手だったと言うこと。ワシ自らがB坊社長と戦うまでもない。」
「ブロッケリー博士は戦う気満々だけど、全然強そうには見えないよね。」
B坊に話しかけたテケレケ君は、B坊の目つきが変わっていることに気付いた。
見た目と実力が一致しない強者は存在する。
テケレケ君の身近にも、B坊という良い例もある。
だが、テケレケ君でも楽に勝てそうなブロッケリー博士に共通するとは思えなかった。
「動くな、テケレケ君。」
不用意に前へ踏み出したテケレケ君をB坊が止めた。
「これは、警告だ。死にたくなかったら、それ以上ブロッケリー博士に近づくな。」
「どうしたんだ急に。」
「ゆっくりでいいから、ブロッケリー博士から離れるんだ。」
いつの間にか、B坊が臨戦態勢に入っていた。
「ブロッケリー博士から只者ならぬ気配を感じる。」
只者ならぬ気配か。
それは見れば分かる。
ナース服を堂々と着ている時点で凡人でないことは、素人でも分かることだ。
どう見ても変態だ。
それは、B坊にも共通している。
ブロッケリー博士からは、B坊と同類の臭いがプンプン臭った。
「ワシには耐B坊アーマースーツがあるから、ロボットの力は不要なのじゃ。」
「耐B坊アーマースーツ!!」
アーマーなのかスーツなのか、ハッキリして欲しいネーミングだ。
耐B坊アーマースーツか、そんな物どこにあるのだろう?
B坊とテケレケ君はキョロキョロと辺りを見回したが、それらしい鎧は見当たらなかった。
「フッ、どこを見ている。耐B坊アーマースーツなら、すでに装着しておる。」
「まさか・・・。」
冷や汗が流れた。
「そのまさかじゃ。ワシが今、着ている白衣とナース服こそが耐B坊アーマースーツじゃ。」
信じられないかもしれないが、白衣とナース服は耐B坊アーマースーツだった。
「普通の白衣とナース服にしか見えないけど、それ本当に効果あるの?」
普通というには語弊ある。
物には何でも使い道があり、変わった使い方をすると異質な物になる。
ブロッケリー博士が着ている白衣とナース服は、テケレケ君の目でもハッキリと分かる程の異彩を放っていた。
「テケレケ君、見た目に騙されるなと言っただろ。」
「B坊は気付いていたのか。」
テケレケ君は、ブロッケリー博士が着ているナース服を見た。
白衣とナース服だけど、耐B坊アーマースーツだ。
ただの変態だと思っていたが、ブロッケリー博士には白衣とナース服を着る正当な理由があった。
「耐B坊アーマースーツの外見を白衣とナース服にする必要あったの?」
テケレケ君の疑問は、もっともだった。
「そこは、ワシの趣味じゃ。」
ブロッケリー博士は、少しも恥じないで正々堂々と断言した。
アウトだ!
「趣味って、やっぱり変態じゃねーか!」
だが、B坊の感想はテケレケ君と少し違った。
「素晴らしい。なんて良い趣味しているんだ。」
B坊は、感動して涙を流していた。
「本気なの?B坊。」
「男の介護士もいる時代だ。だから、ブロッケリー博士にはおかしな所は1つもない。」
「いや、おかしい所だらけだろ。ナース服を着て仕事をしている男の介護士はいないよね。」
「テケレケ君には、まだ早かったようだね。」
「フッ、そのようですじゃな。この良さが分からないとは、どうやら我々は時代の先を行き過ぎたようですじゃ。」
「全く持って、ブロッケリー博士の言う通りだね。」
時代遅れだと言われているみたいで、色々と納得がいかない。
「耐B坊アーマースーツか。名前から想像すると、ボクと戦うことを前提にして作られた最強の防具だと見た。」
「その通りですじゃ。B坊社長のプライバシーを恥じめ全てを無効にする。まさに世界最強の防御力を持つ究極の防具ですじゃ。」
「やっぱりね。」
「しかも、防御だけではないのじゃ。」
ブロッケリー博士が消えた。
「どこを見ている。こっちじゃ。」
ブロッケリー博士は、黄金のB坊像の上に立っていた。
「いつの間に、速すぎて全然見えなかった。」
「これで驚いてもらったら困るのじゃ。」
「まだ何かあるのか!」
「耐B坊アーマースーツは、スピードだけではないのじゃ。」
ドッコーン
ブロッケリー博士が黄金のB坊像を殴ると、台座を残して黄金のB坊像は木っ端みじんに弾け飛んだ。
恐るべき攻撃力だ。
「なんてことをしやがる。」
「防御力だけでなく、スピードとパワーを兼ねそろえた究極の鎧。それが耐B坊アーマースーツじゃ。」
見た目は白衣とナース服なのに、耐B坊アーマースーツだ。
耐B坊アーマースーツの見た目はともかく、性能は本物だった。
耐B坊アーマースーツは、ひ弱な老人を世界最強の戦士へ変貌させた。
B坊を見ると、冷や汗をかきながら黄金のB坊像の破片を抱きしめていた。
「それ、何?」
「今は、関係ないだろ。そんなことより、耐B坊アーマースーツを何とかする方が先だ。」
B坊が『油断するな!ブロッケリー博士の一挙手一投足に集中しろ』と注意を促してきた。
辺りを見ると、飛び散った破片は1つもない。
驚くことに、B坊は飛び散った小さな破片を含めた全ての破片を残らず回収していた。
B坊が持っている破片を見ると、中まで金色だった。
B坊の脱税疑惑が急浮上した瞬間だった。
余罪を含めた潜在能力では、B坊も負けていなかった。
「ボクは勝てないかもしれない。」
珍しく弱音を吐くB坊がいた。
「B坊パンチ!」
油断させてからの不意打ちは、B坊の常套手段だ。
B坊の攻撃の9割は、先制攻撃が占める。
「無駄なのじゃ。」
B坊パンチは届くことはなく、ブロッケリー博士の3メートルぐらい手前で見えない障壁のような物に止められていた。
「うおおおおおー。」
B坊が叫んで力を入れるが、ビクともしない。
バッーン
B坊が弾かれるように後方へ吹き飛ばされた。
B坊は華麗な着地を見事に決めてノーダメージだ。
B坊パンチが、初めてノーダメージで防がれた瞬間だった。
B坊には肉体的なダメージはないが、精神的なダメージは大きくショックは隠しきれない。
「ハッハッハッハー。」
ピキッ
「?」
ピキッピキッ
よく見ると、ブロッケリー博士が装着している耐B坊アーマースーツに小さなヒビが入っていた。
「ハッハッハッハー。」
ブロッケリー博士は自分に起きた変化に気付かず、勝ち誇って笑っている。
パッリーン
B坊パンチは、耐B坊アーマースーツの防御を打ち砕いていた。
衝撃音の後に残ったのは、パンツ一丁で震え悲痛な叫び声をあげる無力な老人の姿だった。
「ワシの大切なコレクションの白衣とナース服がああああああああ!」
「まだ他にもあるのだろう?待ってやる。耐B坊アーマースーツを着ろ。」
泣き叫ぶブロッケリー博士に対して容赦のないB坊のセリフ。
一発でダメなら何度でもB坊パンチを放つ、B坊の決意が顔に現れていた。
B坊パンチは耐B坊アーマースーツを打ち砕くことに成功したが、ブロッケリー博士の肉体にダメージを与えていない。
相打ちだったが、耐B坊アーマースーツの性能を持ってしてもB坊パンチの連打には耐えられないだろう。
テケレケ君の目には、この戦いはすでに決着しているように見えた。
「早く着ろ!お前の野望と共に、何度でも耐B坊アーマースーツを打ち砕いてやる。」
B坊は、ビシッとカッコいいポーズを決めた。
「終わりですじゃ。」
「エッ?」
「耐B坊アーマースーツは、あれだけですじゃ。」
耐B坊アーマースーツは最強ゆえに、予備は存在しない特別生産の一点ものだった。
「拍子抜けだな。」
「ヒッー。」
ブロッケリー博士の目の前には、殺気を身にまとったB坊が拳を振り上げ立っていた。
「やめてくれ~。」
耐B坊アーマースーツを失ったブロッケリー博士は、惨めな命乞いをした。
「B坊パンチ!」
B坊の必殺技が炸裂し決着がついたと思われたが、ブロッケリー博士の命が散ることはなかった。
「どうして?」
B坊パンチは、ブロッケリー博士の眼前で止められていた。
「ジョンは殴れない。」
スッーと腕を下げたB坊の顔には、一筋の涙が流れていた。
B坊にどのような心境の変化があったのかは分からない。
ただ一つ言えることは、B坊から闘気が完全に消え失せていた。
B坊のセリフの中に、ジョンと言う気なる言葉があった。
ジョンが関係しているのは、疑う余地がない。
ジョン・ブロッケリー
ブロッケリー博士の名前は、ジョンと言うのだろうか?
ブロッケリー博士の顔を見ると、どういことだ?訳が分からない?といった混乱した顔をしていた。
テケレケ君は、ブロッケリー博士に代わってB坊に聞いてみた。
「ジョンって誰?」
「ジョンはね。昔、ボクが飼っていた犬の名前だよ。」
「犬の名前なの!」
ますます訳が分からなくなった。
「そうだよ。ボクがジョンと呼ぶと、ワフワフと鳴いて飛んで来てシッポをブンブン振って喜ぶんだ。そして、顔をペロペロとなめてくれるんだよ。」
「それと今回の件は、どういった関係があるんだ?」
ここまでの話を聞く限り、ブロッケリー博士とジョンの間には全く関連性がないように思えた。
「ブロッケリー博士は、ジョンの生まれ変わりだ!」
テケレケ君は前世を信じていないが、神であるB坊には一目で分かったのだろう。
「ジョン。」
「ご主人様、ワシが間違っていただワン。」
「ブロッケリー博士は、信じちゃったの?」
「ブロッケリー博士じゃないワン。ジョンだワン。」
ブロッケリー博士も必死だな。
テケレケ君は、助かるための演技だと思った。
「シッポはないが、その声はジョン。ジョンなのか?」
「そうだワン。ジョンなんだワン。」
ブロッケリー博士は心の底から改心し、先までとは別人みたいだ。
「マジかよ。」
ブロッケリー博士の前世の記憶が戻ったのかもしれない。
テケレケ君は、奇跡を目撃した。
「本当だワン。なんとなく前世は、B坊社長の愛犬だった気がするワン。」
「ジョン、会いたかった。」
「これからは心を入れ替えて、世のため人のために働くワン。」
ブロッケリー博士は、名残惜しそうにシッポを振りながらパンツ一丁で去って行った。
いつの間にか着け耳と着けシッポを装着し身も心も完全に犬と化しているあたり、さすがコスプレ好きを宣言するだけのことはあると言える。
その後、ブロッケリー博士は世界平和に貢献し後世に名を残すことになる。
「よかったね、B坊。ジョンと再び巡り合えて。」
思わず、テケレケ君はもらい泣きしてしまった。
「はあ?何、言ってるの。」
「ブロッケリー博士が、B坊の愛犬の生まれ変わりだったんだろう。」
「テケレケ君は、勘違いしているよ。」
「勘違い?」
「ブロッケリー博士は、ジョンの生まれ変わりではない。」
「エッ、違うの。」
「当たり前だろ。ブロッケリー博士がジョンの生まれ変わりだったらいいなという話をしただけだよ。」
「何それ?」
それでは、ジョンとは何だったのだろうか?
「
あっー、これだけ言っても分からないかな。」
B坊は頭をガリガリかいて悔しがった。
「ジョンとブロッケリー博士は、無関係の別人だ。」
「つまり・・・全部、B坊の作り話だったってこと?」
「そういうことになるね。」
「ウソだろ。」
「本当だよ。」
とんだ茶番だ。
だが、B坊の話はこれで終わりではなかった。
「テケレケ君は勘違いしているようだから言っておくけど、ボクが子供の時に住んでいた家はペット禁止だったから動物を飼ったことはない。」
「結局、ジョンは何だったの?」
「ボクは犬を飼うのが、夢だったんだ。」
「それは、初耳だね。」
ここでは、ジョンは存在していない。
「もし犬を飼うことがあったら、ジョンと名付けるつもりだった。」
ここで、ジョンが登場した。
「ジョンは、存在しないの?」
「ジョンは、いるよ。」
「ジョンは、どこにいるの?」
「ジョンは、ボクの心の中にいる。」
「あっ~、そうですか。」
「ジョンという名の犬を飼っている夢を昨夜見て、ボクは確信した。」
B坊の長かった話は終わった。
「その話をブロッケリー博士にする必要はあったの?」
「いつもB坊パンチ1発で終わっているだろ。」
「そうだね。」
「ワンパターンだから、たまには違う解決方法も良いかなと思って取り入れてみた。」
「そうなんだ・・・。」
この時、テケレケ君はB坊の話をこれからは絶対に信じないと心に固く誓った。
こうして、世界に平和が訪れたのだった。
めでたしめでたし。
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