1 夢の中


「ここはどこだろう」

ポコは思った。

その場所は明るくて、どこかいつも通りでなくて、ところどころが霞みがかっている、そんな場所だった。周りには誰もいなかった。だから僕はすごく心細くて泣きそうだけど泣けない、そんな気持ちだった。でも、

「夢の中だ、そんなことも分からないのか」

と、唐突に聞こえたユウのいつも通りの冷たい声と口調に少しだけ安心した自分がいた。少しだけだけど!するともう1人、

「夢の中なら怖いことは起こらないね♪よかったー」

というマイペースで、でもビビりで心配性なビビの声が聞こえた。

その声はホッとしたように聞こえた。

そしてその声にやっぱり安心した自分がいた。

この2人の声は聞こえただけ、姿は見えない。

というか僕はこの2人の姿を見た事はほとんどない。

実際今ここには一人しかいないから。

まだよく分からないとは思うけれど、君がいたらどうだった?

そんなの予想がつくね。

僕らは自分と話しているように見えるから頭のおかしい奴、と思うはずだよ。

なにしろ僕、ポコとユウとビビは、3匹で1匹、つまり見た目は1匹で中身は3匹なのだから。

でも3人格っていうわけではないみたい。

そこら辺の詳しい事情は僕らも知らない。

これはことわざでもなく本当の本当に"神のみぞ知る"っていうやつだそうだ。何しろ僕らはこの村に来るまでの記憶が無いから。

さて、僕ら3匹は人間界とは違う世界、猫番地神桜村ねこばんちかんざくらむらで、"猫の探偵社"っていういかにも手抜き感満載の名前がついた店を営んでいる。

依頼と言っても、文具店を繁盛させたり、星ノ谷ほしのや伝説を解明したり、(小学生を助けただけ)しょうもない陰謀を明かしたり、友情の証の謎を解いたり、といった感じで、推理小説みたいな格好いいのは夢のまた夢なんだ。

あーあ。そんなこと考えるとせっかくの夢なのに泣けてくるよ。

なんてね。どうでもいい事考えてたら本当に電話の音が聞こえてきた。

夢の外でなってるねぇ。

そろそろ起きなきゃ。

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