第2話「星に願いを②」

「サワさん、…どうしたんですか?」


 声をかけると、いつ訪れたのかわからないサワさんは眉間にしわを寄せたまま、部屋を見回して、軽く息をつく。


「…スハラは、いないんだな」


 もともと笑ってるところとか見たことないけど、いつも以上に不機嫌な顔をしたサワさんは、無言のまま俺に近づいてくる。いや、ちょっと怖いんだけど。

 そして、無言のまま、机の上に何かをバラバラと置いた。


「…えっと、これは?」


 宝箱みたいにふたのついた小さな箱と、バラバラになった何かの機械。

 箱は薄い碧色で、真ん中に宝石を模した赤いガラスがはめ込まれている。

 サワさんのものにしてはかわいらしすぎるそれは、おそらく、というか絶対、壊れている。


「これ、どうしたんスか?」

「…壊れた。直せるか?」


 いやいやいや、いくら便利屋をやってても、さすがにこれは直せない。ていうか、これがもともと何なのかもわからない。

 とりあえず、サワさんのものじゃないですよねと聞くと、不機嫌な声はオルガのものだと短く答える。


「オルガのもの、壊したんですか…?」


 ていうか、これ何ですかと聞くと、少しの沈黙のあと、ぶっきらぼうな声が小さく聞こえた。


「…オルゴール」

「へ?」

「だから、オルゴールだって言ってんだよ」


 不機嫌を前面に出したその声は、俺に言うと同時に、サワさん自身にも向けられているようだ。

 鋭い声に、俺が思わず固まっていると、サワさんは小さく舌打ちしてから、トーンを落として話し出した。


「ちょっと棚にぶつかったら、弾みで落ちたんだ。だから、直そうと思ったんだけど、俺じゃできなかった」


 だから、ここに来たと、ちょっとバツが悪そうな顔をして、サワさんはうつむく。


「オルガに…壊したこと言ったんですか?」

「…いや、言ってない」


 俺は、自分には直せないし、素直に謝ったほうがいいんじゃないかと提案してみるけれど、サワさんは首を横に振る。


「…あいつが大切にしていたものだ。壊したなんて言い出せない」


 意外と弱気なことを言うサワさんに、直せない以上、俺も何を言っていいのかわからない。

 バラバラになったオルゴールだったものを見つめながら、二人で沈黙していると、玄関の開く音がした。

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