第1話「鈴の行方⑤」
2人と2匹で運河沿いを歩く。
2匹は、さっきよりずっとしょんぼりした雰囲気で、とぼとぼ歩くその姿に、神社とかでよく見る「獅子・狛犬」の凛々しい感じはどこにもない。
そんな2匹の姿に、スハラも口数が少ない。
きょろきょろしながら進んでいくと、浅草橋のあたりで、突然、2匹は立ち止まって、こっちを振り向いた。
「ここで、我の鈴がないことに気づいたんだ」
「落としたような音はなかった。だけど、急に音が聞こえなくなった気がして、見たらテンの鈴がなかったんだ」
ここから先には、行っていない。そして、ここまでのどこにも鈴は落ちてなかった。
ということは、この辺りに鈴はあるはずだ。だけど。
「この辺りにもなさそうね」
スハラが、地面を見回してから言う。
辺りにそれらしいものは見当たらない。俺は、予想していたことを言葉にする。
「誰かが拾ったのかしれないな」
「でも、さっき寄った案内所には届いてなかったよ」
スハラの言う案内所は、運河沿いにあって落とし物センターみたいな役割も果たしている。この近辺で拾われたものはそこに届くことが多いことから、ここに来る途中でもあるし、先に寄って、落とし物の確認はしてきていた。
「きれいな鈴だから、拾った人が持って行っちゃったとか」
すごくきれいな鈴だもんなと、俺が付け足すと、スイはもう見つからないのかな、なんて悲しそうな声で言う。テンはもうしくしく泣いていた。
俺の言葉は、2匹に追い打ちをかけるような言葉になってしまったようで、スハラに小突かれる。俺は慌てて励ましの言葉を探した。
「いや、大丈夫だって。探しているヒトがいるってわかったら、持っていった人もきっと返してくれるよ」
付け足した言葉は、励ましにも何にもならなかったらしい。テンは変わらずしくしく言っている。
陽も傾いて、空がいつの間にか赤く染まっている。風もどことなく冷たい。
「スイ、テン、明日改めて探そう。今日はきっとこれ以上探しても見つからないよ」
スハラの提案に、スイが頷く。テンは頷く元気もない。
踵を返したスハラに、スイはついていくが、テンはその場から動かない。このままここで泣きながらとどまるわけにもいかないし、俺はテンに歩き出すようなんとか促して、スハラたちのあとについていった。
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