α

第2話

 何の変哲もない、ほんとうに代わり映えしない出会いだった。

 立ち読みができる漫画の店。新刊とかも置いてあって、容赦なく、思うがままに、読みまくれる。椅子もあるし。吹き抜けで繋がっているカフェに漫画を持ち込むこともできる。

 それでもつぶれないのは、至極単純に店主がいい人だから。人気はないし客も少ない。しかし、客は思い思いの金額を店主に渡してから店を出る。そして、店主はそのおかねで客の要望に応えた入荷をする。いちど、スーツケースを店主に渡しているお客さんを見たことがある。そのあとすぐに、本棚の片隅にヘッドホンと音楽機材が導入されてた。たぶんそういうことなんだろうと思う。

 わたしは特に取り柄のない一般人なので、料金もまちまち。お財布を軽くするために小銭をぜんぶ渡したり、とりあえずお札を1枚だったり。

 で。

 その店で出会った。彼に。

 客の少ないのが特長の店で、まさかの、同じ漫画が目当てだった。本棚に並んで立ち、同じ漫画を読んだ。その漫画はなぜか二冊ずつ置いてあって、同じ速度でふたり読んでいって。

 各巻、読み終わった瞬間に感想を共有したくて、どちらともなく話し始めて。ふたりで時間を過ごした。そうやってひたすら読みふけって。気付いたら朝だった。さすがにもうしわけなかったので、店主のいないレジにそこそこ大きめの額を置いて帰った。彼がいくら置いたかは、覚えてない。つかれきってたから。

 それから。彼とはその店で会うようになって。そして、仲良くなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る