Chapter20 雪の中で

#01 なにが見える?

12月21日 午前7時46分。


「ケンダマン、ヤバいくらい遅すぎ」


 と見事な青い軌跡を描く回し上段蹴りを僕へと見舞うハウ。


 スコーンと抜けるような音を立て。


 ぐえっ。


 延髄に決まった蹴りによってカエルが潰れた時に発するような声を出してしまう。


 おはよう、と挨拶を交わしたあと、いきなり遅刻のペナルティを科されたわけだ。


 ぐぬぬ。


 と悔しくもなるが、反撃して、更に反撃を喰らうとと思うと歯がみしかできない。


 その様を見てケラケラと笑うハウ。


 ただ、今日は、少々、様子が違う。


 ハウの、こんちくしょうな野郎は。


 昨日は三つ編みを二つで後ろでまとめていた茶髪を今日は左に一つで流している。


 無論、Howと描かれた帽子も被ってはおらず、その代わりと言ってはなんだが、顔に対して大きすぎるともいえる黒いサングラスをかけている。昨日は少年チックなファッションだと言えたが、今日は、どこかの国のスパイにも見えるシックな格好。


 ほほぅなんて変な感想も出てくる。


 一方で、


「フフフ」


 と、口元を押さえて笑むホワイは相変わらず安定感たっぷりな、ゆるふわコーデ。


 首から肩にかけてのラインに拘りがあるホワイトのタートルネックにグレーのスウェットトップスを合わせている。足下は、ゆったりめの黒のボトムス。やはり、彼女はハウとは違い、昨日から、終始一貫して優しいお姉さんを演出しているのだろう。


 なんだか、昨日と同じコーデでネクタイだけ変えたに過ぎない自分が悲しくなる。


 というかだ。フー、お前もおっさんなんだろう?


 ハウやホワイは分かる。分かるが、フーよ、なんで、そんなにお洒落なんだよぅ。


 首に巻かれた赤いタータンチェックのマフラー。


 合わせるよう昨日と同じく黒のハット。しかし、アウターが小憎らしい。裾に紐状の飾りが、ぐるりと一周付いたマントにも思える黒のコートで存在感を示しているわけだ。まるでガンマンよろしく。しかも茶のハイカットブーツで武装してな。


 フーよ。


 もう一度だけ聞いてもいいか、……お前も、確かに、おっさんだよな?


 まあ、でも今さらだろう。……どうでもいいか。


 この期に及んでファッションで競ったところで、スタイルや容姿という基が激しく違うのだから(哀しいかな。僕は色男ではなく、どこにでもいる、おっさんだという意味でだ。無論、フー達は別格だとも言えるがな)始めから勝てるわけがないのだ。


 もはや哀しくもないのかもしれないとさえ思う。


 泣いてないぞ。うん。間違いなく泣いてないッ!


 ぐずっ。


「フムッ」


 フーが笑んで静かに二の句を繋ぐ。


「どうでもいい事などないのですよ」


 いや、激しく、どうでもいいのだ。


 そうとでも考えないと自分が惨めで哀しさが止まらなくもなるからな。


 と……。


 視界の端をかすめる白いもの。ちらり、ちらり、はらはらと舞うソレ。


 鼻頭に、


 ふわりと冷たいものが舞い降りる。

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