#09 突っ込む

 今、僕は声を大にして叫び出したい。


 人目も気にせずにだ。


 それは罠だ、罠だから騙されるな、と言いたいのだ。


 いや、罠と言ってもナチュラルに発生した計算か。灰色探偵の面々に偏見などないからこそ秀也にも心を開かせる事ができたのだろう。むしろ、そういった特性があるからこそ推理や捜査といったものに適性があるとさえ言えるのではなかろうか。


 全ての可能性を探れるという意味で。


 偏見という名の虹色レンズのメガネをかけていた僕は自分の不甲斐なさを恥じた。


 加えて、


 いやいや、それは、どちらにしろ罠なんだよ。罠ッ!


 こいつらは真っ黒な闇成分が純度100%で構成されているような悪党なんだよ。


 なんて己の矮小さを誤魔化すよう必死で言い訳した。


 兎に角、


「ああ。もう、やつと会ったのかは知らねぇが、普段のやつの態度に騙されねぇ事った。少なくとも、あいつは俺に暴走りの勝負を挑む位にヤベぇのは分かるだろ?」


 秀也は、


 咥えタバコで派手に紫煙を吐き出す。


 恥ずかしさ紛れなのか、格好をつけているのかは分からないが。


 兎に角、


 暴走族にレースを挑む、その精神は確かに少なからずもヤバい。


 町中で喧嘩自慢に喧嘩をふっかけるようなものにさえも思える。


 それでも、その話が本当ならばだ。レースの話は秀也側からしか聞いていない。更に一正の愛車は赤いワポンR。いや、赤は関係ないか。とにかくワポンRなのだ。とてもレースをするような車ではない。むしろファミリーカーではなかろうか。


「よろしい。秀也君、君の疑いを晴らす為に好材料となるものを、もう一つ見つけましたよ。そのレースについて、もう少し詳しく教えて頂けませんか。君の為にも」


 多分だが、もう一つ見つけたというのは詭弁だろう。


 始めからこうなるように仕組んで布石を敷き詰め、その布石を辿る途中での演出。


 しかし、


 もうこうなってしまえば、信じるだとか、信じないだとかいった領域は、すでに超えている。エンジン回転数をレッドゾーンにぶっ込んだままコーナーが迫っているようなものだ。ドリフトをかまして曲がるか、或いはブレーキを踏むか、その二択。


 どちらにしろコーナーを曲がりきるという未来しかあり得ない。


 案の定、


 秀也は、こう答える。


「ああ。警察にも話してねぇんだが、あんたらだったら話してもいいかもな。事件に関係あるかは分かんねぇが、話してやんよ。やつが前の車に乗ってた頃だ」


 重い口を開き、午前中、話をはぐらかして語らなかった事をだ。


 てかっ。


 前の車?


 そうか。


 そうだな。自爆してるんだから、ワポンRの話じゃないわけか。


 どんな車に乗っていたかは分からないが別の車種だったわけだ。

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