【第三章「世界の終わりを防ぐために」】

第36話「嵐の前の静けさ」

 あれからはよりいっそう寮と学園の結界は強化された。

 師匠も寮襲撃の件で魔法文部科学省からグチグチ言われたようだが、それだけで収まったようだ。


 なお、暗黒黎明窟急進派の襲撃はそれからは一切ない。

 逆に不気味なぐらいだ。

 

 そして、学園生活は俺たち三人が固まって行動するようになったことでクラスメイトたちからの嫌がらせ的なものはなくなっていった。


 なんてったってカナタとリリィの魔力は群を抜いている。

 俺も授業のたびに剣技を発揮しているので、周りも認めざるを得ないようだ。


 そして、空いた時間にカナタに模造剣(マイナス補正の呪いは解いておいた)を使って剣技を教えており、少しずつ上達していた。


 あとは俺の魔力が以前のように使えるようになれば完璧だが……すぐにどうこうなるものでもないようだ。


「なんだかあっという間にテストの日が迫ってきちゃったよぅ……」

「そうだな。まさか明日とは」


 放課後。校庭の片隅で模擬戦の鍛錬を終えた俺たちは会話していた。


 なお、リリィも俺たちの鍛錬につきあってくれており、幻影魔術を使って俺たちとの二対ニの形式で戦ってくれたりもした。今は優雅にバカンス用の椅子と机を召喚して紅茶の入ったティーカップを口に運んでいる。


「まあ最初に比べればずいんぶと上達したんじゃないんですの? カナタったら最初は目をつぶって剣を振ったり受けたりしてましたものね」


 そうなのだ。最初のカナタは教えるのをやめるべきかと思ったぐらいレベルが低かったが、今では生徒相手なら戦えるレベルまで上達している。


「ほんと、すっごい勉強になったよ! 判断力もついた気がする!」

「ああ。剣術というのは攻撃と防御のセンスを研ぎ澄ますのに最適だからな。これは魔法行使の判断にも応用が利く」

「否定はしませんわね」


 ふだんは魔力頼みのリリィも、以前、俺と戦ったときには白銀のサーベルを使用していた。あのフェンシング的な攻撃は実に華麗で凶悪だった。


 今回も模擬戦のために生徒用の模造剣を使って相手をしてくれたのだ。

 しかも、カナタのレベルの上達に合わせて強さを変化させながら。

 魔法といい剣術といい、リリィはカナタのよい師匠になってくれている。


「……あれ?」


 そこでカナタがなにかに気がついたかにょうなキョトンとした表情をした。


「どうした? ……なっ!?」


 振り向いて確認した俺は驚愕した。

 カナタの視線の向こう――校庭の端の木のところにスズネがいたのだ。


「出ましたわね! このポンコツ最新機種!」


 リリィが敵意を露わにしながら手に魔力を集める。


「ま、待って、リリィちゃん!」


 カナタはリリィを制止すると持っていた模造剣を捨てて、小走りにスズネに駆け寄った。って、危機感なさすぎる!? 攫われる可能性だってあるのに!

 俺も慌てて、そのあとを追った。


「どうしたの?」


 カナタは自らの両膝に両手をついて視線を下げると、小さい子に接するように親しげに話しかけた。


「明日の午後三時が危ない」

「えっ?」

「さようなら」


 それだけ口にするとスズネの小さな体はまばゆいばかりの光に包まれ――消えていった。


「なんだったんだろ?」

「明日の午後三時が危ないって言ってたな……もしかすると次の襲撃時間を教えてくれたのか?」


 よくわからない。

 しかし、その可能性は高い気がする。


「あら、逆に虚報の可能性もありますわよ? 油断させておいて今夜襲撃してくるのかもしれませんわ」


 リリィの意見も理解できる。

 戦場ではそういう流言飛語や虚報で敵を混乱させての襲撃というものもあった。


「でも、スズネちゃんは嘘を言うような子じゃないよ。わたし信じる」


 カナタは言い切った。


 この人のよさがカナタの美徳だな。

 戦場暮らしが長いと猜疑心ばかり強くなってよくない。


「ああ、信じるか。俺も、まぁ、あのスズネって子はそんなに危険な奴には思えないんだよな」

「あなたまで。どうなっても知りませんわよ?」

「弐式ってことは、おまえにとって妹みたいなものじゃないのか? 信じてやれよ。同じ精霊なんだろ?」

「一緒にしないでくださる? 『殲滅の精霊』と『虚無の精霊』では全然違いますわ。わたくしの『殲滅』のほうが趣(おもむき)がありますでしょう?」


 いや、よくわからないが……。

 そんなふうに会話をかわしていると、師匠が空間転移してきた。

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