第6話「対ゴーレム戦(2)やっちまった!」
今、俺が使える魔法は、ほんのわずか。
その魔力を最大限に発揮するためには――格闘技と組み合わせることだ。
パンチよりもキックのほうが攻撃力は高い。
木刀があれば、それに魔力を纏わせるのが一番だったんだが。
まぁ、戦いにおいて贅沢は言ってられない。
どんな状況でも最善の選択をとって最大限の戦いをする――それが、俺がこの四年間で学んできたことだ。
だから、どんな状況に陥っても俺が慌てることはない。
『ゴォレェム!』
次々と攻撃を繰り出してきて俺を校庭の隅へと追い詰めていく――ようには外野からは見えているだろう。
怒りは覚えるが、あまり派手にゴーレムを倒してはいけない。
ここで力を発揮してゴーレムを木端微塵に破壊したら、俺が『最前線の羅刹』だと気づかれる恐れがある。
「ちっ」
俺は足に巡らせた魔力を止め、代わりに左手の人差し指に纏わせた。
仕方ないので、この指一本で仕留める。
『ゴォーレム!』
ゴーレムはここで決めようというかのように再びタックル体勢をとる。
いちいち攻撃モーションをとるのだから、アホなことこの上ない。
『ゴォレムゥウウウ!』
ゴーレムは絶叫しながら突進してくる。
「まったくゴーレムとはいえワンパターンすぎる!」
ここで意表を突いてジャンプしたりスライディングするぐらいの工夫がほしいところだ。――と、そんな俺の思いが通じたのか、どうなのか。
『ゴォーーー! レム!』
ゴーレムは飛翔。
宙空で静止したかと思うと――禍々しい魔導オーラを纏った。
「なんだぁ!?」
「あんな動き見たことねーぞ?」
クラスメイトたちも騒ぐ中、ゴーレムは俺めがけて急降下を開始した。
その速度は、魔法によって尋常ではないレベルにまで引き上げられている。
「なんだ、そんな奥の手あったのかよ!」
なら、人差し指じゃなくて拳でもいいいだろう。
俺は魔力をまとわせた左手を拳の形に変える。
『ゴォーーーーーレム!』
「よし! こい!」
久しぶりに血湧き肉躍る。
やはり、戦闘はこうじゃないと。
「ヤナギくん、逃げてぇーーー!」
カナタが声を張りあげる。
会って間もないのに、ここまで心配してもらえるなんて思わなかったな。
なんというか少し照れくさい。
「安心しろ!」
カナタのほうに向かって応えると、軽く両足を沈み込ませてから伸縮。
アッパー気味に拳を繰り出した。
『ゴォーレムゥウウウウウ!』
「いちいちうるさい!」
俺の繰り出した魔導アッパーは三百キロは超えるであろう魔導ゴーレムを軽く吹き飛ばした。
「は?」
「え?」
「……あら~?」
その結末を見て、クラスメイトも先生も唖然とした声を上げる。
……って、しまった! つい本気を出しすぎた!
「ふえ……?」
カナタも、呆気にとられたような声を出していた。
無理もない。
「やっちまった!」
あまり目立たないようにしようと思ってたのに!
俺のアッパーをくらった魔導ゴーレムは先ほどの高度よりもさらに上空へと飛翔し――最後は爆裂四散した。
魔力をしっかり込めた一撃だったので内部で魔力が循環、遅れて炸裂したのだ。
……というか、あの最後の一撃はかわさなかったら隕石のように校庭に激突して強烈な衝撃波が発生していただろう。
そうなると、クラスメイトたちにも少なからぬ被害で出ていた。
死人は出ないだろうが、重傷者は何人か出ていてもおかしくないレベルだった。
「……ふふふ~♪ なんだか、おかしなゴーレムでしたね~♪ 勝手に暴走した挙句空に舞い上がり、急降下して、途中でまた急上昇して爆発するなんて~♪」
静寂が支配する中――まずは、先生が口を開いた。
この場の異常な状況を無理やり説明するような話しぶりだ。
そんなバカな……といった感じだが。ここは、それに乗るのが得策だろう。
「え、ええ。本当に、なんだったんでしょうね! 俺も、驚きました。ついアッパーなんか繰り出しちゃいましたけど、あんなの殴り返せるわけないですよね!」
まあ、思いっきり殴り返していたわけだが……。
「ふえ? でも、ヤナギくん、ちゃんと拳をヒットさせてたような……」
角度的によく見えていたのだろう。
カナタがキョトンとしたような表情で、つぶやく。
「ヒットしてないぞ! あんな攻撃、生身の人間が押し返せるわけないじゃないか!」
「そ、そうかなぁ……確かに当たっていたように見えたんだけど……」
だが、俺が強いという現実を認めたくないクラスメイトたちが次々と声を上げる。
「そ、そうだぜ! あんな攻撃、庶民の奴が弾き返せるわけねぇ!」
「そうだそうだ! 貴族の俺ぐらいじゃないと、無理だよな!」
どう考えてもこの場にいる連中にどうにかできるようなレベルではなかったがな……。というか、なんで急にゴーレムが強くなったんだ?
……まぁ、一番あやしいのはシガヤ先生なんだけどな。
いきなり俺とゴーレムを闘わせようとしたり、戦闘後の不自然なフォローの仕方。
教師として、ありえない対応だ。
「ふふふ~? ヤナギくん、先生の顔になにかついてますか~?」
俺からの疑わしげな眼差しを受けても、シガヤ先生は余裕の笑みを崩さない。
底知れない人だ。
「いえ、特になにか異物がついているというわけではないですよ」
「ふふ、そうですかぁ~? それはよかったです~」
いきなり無茶な戦いを強いられた俺としてはぜんぜんよくはないのだが……。
ほんと、この学園は教師も含めて敵だらけなようだ。
「や、ヤナギくんっ! ほ、本当に、大丈夫なの? わたし回復魔法なら少し使えるから、怪我あるなら治すよっ?」
完全アウェーな状況の中、カナタが駆け寄ってきた。
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