第一章「異世界に訪問」

第一話

 少女は、急に後ろを向くなり小さなほこらに力一杯、蹴りを入れた。小さな祠は、少女の蹴りの力に比例する様に、粉々に砕け散った。

 その粉々に砕け散った破片を少女は足の裏と地面の間に挟み込むと、念入りにスリ潰す始めた。

 その少女の姿を第三者が見たら、確実に心の中で近づいては行けないと判断することだろう。

 小さな祠が跡形もなく破壊したのを確認すると、少女は満面の笑みを浮かべた後。

 クルと体を反転させると、大きく息を吸い込み……。


「よっしゃーーーーー!!!!! 異世界に――来たぞーーーーー!!!!!」

 

 少女の心の中の気持ちが咆哮となって、祠を祀っていた静寂に包まれた、森林中に響き渡るのだった。

 己の内なる気持ちを咆哮として自分自身の耳で聞くことで、少女はとても、とても、満足そうな表情をした。

 満足そうな表情をしている少女だったが……。

 少女の瞳は、満足そうな表情とは異なり。面白くない話を延々と聞かされ、盛大に欠伸が口から吐き出された後の虚ろな瞳の色をしていた。

 そんな少女の瞳の色を塗り変える様に、冷たい風が少女に包み込むと。

 興奮していた、少女の熱を数度下げたのだった。


「やばいな……、思っていたよりも……、自分に対しての行動に冷静さを失っているわ。しかし、興奮して異世界に転移する準備が冷静にできるか? 心配だったんだけれど。案外、思っていた以上に淡々と準備、できたから、異世界に転移にしても、冷静でいれると思ってたけど――無理ね。 フフフッ……、い・せ・か・い、さ・い・こ・うーーーーー!!!!!!」

 

 冷たい風は、少女の興奮した熱を一時的にしか、下げることが出来なかったらしい。

 少女の熱がぶり返したが、見て取れた理由は簡単だ。

 それは、少女の艶々つやつやとした黒髪が物語っていた。少女は長髪な為、少し高い位置でポーニーテールにしている。それがどう見ても馬の尻尾の様にしか見えなかったからだ。

 それが、上下左右にフリフリと激しく動いている。まさに、その動きから少女が興奮状態だということが、ハッキリと見て取れるからだ。

 少女にとって、異世界に来ることは、『 夢 ! 』

 その願いが叶ったのだ、興奮するは当たり前のことだった。


 少女は急に両掌を両頬に当てると、ぷにぷにとマッサージを始めた。

 すると、少女のポーニーテールの動きが徐々に緩やかになっていき、最後は動きを停止した。

 これが、この少女のなりの気持ちの落ち着け方なのかもしれない。


「……、ふぅ……。さぁ、気持ちも落ち着いたし。異世界で生きていく準備を始めましょうか!」

 

 そう言って少女が肩紐に手を伸ばす、その肩紐の先には……。

 

 少女の身長は、百六十五センチ前後である。女性の性別からすると、一般女性の平均よりも高い身長である。

 その身長を飲み込んでしまう程の巨大なリュックサックを背負っていたのだった。

 少女は、リュックサックを地面に下ろそうとした時、リュックサックの肩紐が少女の巨乳に引っ掛かり、なかなか地面に下ろすことが出来ずに苦労したいた。


「乳のデカイのも良し悪しよね……、いや……、悪しだけしか残らないわね。肩はこるし、洋服も可愛いの少ないし、下着も微妙な感じのデザインになってしまうし。千切り取ってやろうかしら」

 

 そう愚痴りながら、自分の巨乳と悪戦苦闘していると。何とか引っ掛かっていた肩紐が外れ、巨大なリュックサックを下ろせる状態になると。


「ふぅー。次からは胸にさらしを巻くことにしよう」


 少女は反省の言葉を口にすると。

 リュックサックを地面と接触させた瞬間、ドスンという音を奏でた。

 奏で出た音から、相当な重量がある筈なのだが。それを少女は今まで背負った状態で、祠に蹴りを入れて砕き。その後は散らばる破片を丁寧に、一つずつ、一つずつ、スリ潰して回っていたことになる。

 パッと見では、確かにそれなりに身長があるとは言え、どこから見ても少女の体躯である。

 それどころか、どこぞの領家のお嬢様かと思わせる雰囲気を漂わせていた。

 目鼻立ちのしっかりとした顔立ちに、雪の様な白い肌、間違いなく美少女と呼ばれる分類に属しているのだが、目元が少しタレ目な部分があるからだろうか。

 お姉様系の美少女ではなく、妹にしたい系の美少女だ。

 まぁ、言い換えれば。女性にモテるタイプ美少女ではなく、男性にモテるタイプの美少女だ。 

 当の本人は、美少女とかそんなことは、どうでもいいことなのだろう。現に、「自分の乳を千切ってやろうかしら」と口に出している時点で、見た目など完全に気にしないタイプの人間だということが分かる。


「おおおおっ! 身に着けている物は、高確率で一緒に転移されると思っていたけど。ちゃんと一緒に転移されて来てくれて、良かったわ。もう二つの荷物は……、ちゃんと一緒に転移されて来ているのかしら……?」


 少女は期待半分で、先程、口にした言葉の二つの荷物を探……、す、必要はなかった。

 人が一人。簡単に収納できるだけの巨大なキャスター付きのキャリーケースが、無償で解体作業をした祠の後方に、二つ重なり合う様に転がっていたからだ。


「よし、よし。私って運がいいんじゃない。転移される場合、周囲の物も一緒に転移される場合もあるから、その賭けに賭けてみたんだけど上手くいったわね。実際、転移させたい物を転移させる確率を上げる為に、転移されて欲しくない物を、全て排除しておき。そして、私の近くに転移したい物を置いておく。この考えは正解だったみたいね」


 そう呟きながら少女は、横倒しになっている二つの巨大なキャスター付きのキャリーケースを起こし始めた時だった。

 少女は自分の背後に人の気配を感じ取り、ゆっくりと振り返ると……。


「ワ・タ・シ、の餓えを満たして下さいねぇ」


 小さな声で囁いた少女の顔は――。

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