第94話 熱き魂 匠

 ほぼ全ての準備が整った。が、足りない事は2つあった。


 一つはフグミンの不在だ。


「フグミンは必ず来るよー なぜか分かるんだ」


 ビッケはフグミンを信じている。なら、俺も信じよう。


 もう一つの足りない事……俺の武器だ……


 確かに最後と言ってしまった。自分の言葉がこれ程の事態を引き起こすとは……


 アルカディア村の中央広場に全軍が集結している。


 仮設の鍛治施設が設けられている。


 ルドネとその店の者達がサポートについている。


 ドワーフが助手をやるみたいだ。


 アオイが黒い布を頭に巻いて白い衣装を着て立っている。


 大勢の見物客も集まっている。


 村長まで見に来ている。


 北上計画準備の総仕上げとしてアオイが俺の剣を打つ。


 大勢の人が集めているのに物音一つしない……


 アオイの張りつめた気迫が周囲に伝わっている


 静かだ……聞こえるのは風の音だけ


 静かな湖面を見ているように何の動きもない


「始めます」


 カーーーン! カーーーン! カーーーン!


 赤く熱せられたミスリルインゴットが叩かれる


 いい音だ……迷いを全く感じない


 カーーーン! カーーーン! カーーーン!


 体力 気力 技術 積み重ねた経験


 全てを兼ね備えているのを感じる


 そして……何より大切なもの……


 『 情熱 』


 カーーーン! カーーーン! カーーーン!


 次第に塊が形を変えていく


 ドワーフがもう一つの塊をミスリルの間に挟み込んだ


 アルカディア産 鋼のインゴットだ


 ミスリルと鋼の二層構造にするみたいだ


 とてつもなく高い技術が要求されるだろう


 サポートしている者からも緊張が伝わってくる


 カァーーーーン!! カァーーーーン!!


 音が変わった! アオイが渾身の力を込めて槌で叩く!


 カァーーーーン!! カァーーーーン!!


 少しずつ剣の形に近づいてきた


 何度も塊を熱し直し 常に真っ赤な状態で加工している


 塊の熱気とアオイの情熱が混じり合ってこちらまで心が熱くなってくる


 頑張れ……頑張れ……頑張れ……


 カァーーーーン!! カァーーーーン!!


 迷いなき心が情熱と魂を込めて金属を剣に変えていく


 響き渡る音がアルカディアが一歩ずつゆっくりと階段を登るように発展してきたのを思い出させた


 カァーーーーン!! カァーーーーン!!


 アオイも同じように技術を高めてきた


 一歩ずつ ゆっくり 確実に


 混じりっ気のない 情熱が 気持ちがいいほど伝わる


 アオイの顔から自信と確信が見て取れる


 だが全く油断はしていない 少しの変化も見逃さない


 みんながアオイに見入っている


 頑張れ! 頑張れ! 素晴らしい技術だ!!


 なんて美しいんだ!!!


 見ている者達の心まで 


 アオイを通して叩き込まれているようだ


 ジューーーーーゥゥウウウ


 金属が剣の形に変わり 水に浸け込まれた


 そして幾つもの砥石を使って磨かれていく


 剣身に波打つ模様が浮かび上がる


 綺麗だ……


 アオイが仕上がった剣を携えて俺の前に来た


「この剣の名は『シャイニングスター』 輝く星 アルカディア国の偉大な王にこの剣を献上致します」


 アオイは片膝を地面について頭を下げ、両手で剣を高々と持ち上げた。


 しっかりと受けて取った。


 フワァーーー


 剣から光が溢れてくる……これは……


 全国民に語りかける


「今! この時! 


 アルカディア国 最高の剣が完成した!


 何よりも強く!


 何よりも鋭く!


 何よりも美しい!


 これで恐れるものは何も無い! 全ての準備は整った!


 全軍をもって北上し、各地を荒らす魔物を掃討する!


 世界の平和を取り戻すため 


 みんなの命を預けてくれ!」


 剣を天高く掲げる


 美しく波打つ剣身が輝きを放つ!


 「全軍! 出撃!!!」


 用意された馬に跨がり先頭で北門に向かって進む


 すぐ後ろにザッジの第1部隊がついてくる。


「「「わぁーーーーー!!!」」」




 出撃と言ってもダンジョン砦までだ。


 アルカディア村の北の森は未だに細い道で進みにくい。


 すぐ後ろにいるザッジに話しかける。


「ふぅーーー とんだ茶番になってしまったな……」


「自分でまいた種だ。仕方あるまい? 可哀想なのはアオイだ」


 そうだな……アオイも後でダンジョン砦まで来る事になっている。従軍して武具の整備をしてくれる。

 お礼はそこで言えるからいいか。普通にありがとうと受け取るのも許されない……


「素晴らしい剣じゃないか。あの状況だから生み出されたとも思える。見ただけで凄いのが分かる」


 光を発したのは想定外だ。名付けになってしまったか?


「凄すぎて困るな……もっと剣技を鍛えないといけない」


「それが狙いかもしれないぞ。ははは」


 笑い事ではないぞ……もうかなり鍛えたのに


 まだ足りない気がしてきた……


 武器が人を育てる事もあると言っていたな。もう育つしか無いじゃないか……


 剣だけは特別装備だが他の装備はフロンティア騎士団と同じ物にしてもらった。ファリスには全部、特別製にすると言われたが断った。


 ここからは1人の兵士として戦う


 隊長と魔法使いは特別装備になっている。とは言っても普通の兵士でもほぼ最高装備だ。ミスリルが多く使われ状態異常耐性が付与してある。特別装備は個性に合わせて特化した仕様になっている。

 カナデは白いローブを纏っている。けど裏地は黒だ。氷属性と闇属性が付与されている。黒い服は嫌いみたいだ。

 セレスは木の杖が合うようだ。緑色の神官風の法衣を着ている。本人は無宗教のようだが雰囲気も大事だ。

 ファリスは赤いローブを纏っている。火属性が付与してある。火計用に火を使う魔物の召喚を想定しているそうだ。


 ゆっくり深い森を進んで行く。先発隊はダンジョンを進んで一気に隣り村に入り、偽の村を建設しに行く。


 2日で完成させる予定だ。ある程度、出来上がった物を組み立てて完成させるから早く出来る。


 動き出したら早い! 戦いはすぐそこだ!

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