蒼き叡智の魔導書 ~エロゲの嫁キャラたちに転生した悪友どもがいる限り、俺がヒロインと結ばれるのは難しい~

二上圭@じたこよ発売中

1 俺がヒロインと結ばれるのは難しい。

00 プロローグ

 王立グリモアール魔法学園。


 二十年前、突如として開いた異世界の門は、絵空事であった魔法を地球へともたらした。


 日本の北の大地に開いたその門は、誰でもたやすく、安全に異世界へと渡ることができる。逆もまたしかりであり、向こう側の世界の人間もまた、こちらへ渡ってくることができるのだ。


 異世界の名は、セレスティア。貴族社会でこそあれど、魔法によって築き上げられたその文明は、決して地球に劣るものではない。科学文明とはまた別な豊かさが、セレスティアにはもたらされていた。


 王立グリモアール魔法学園が地球に開校されたのは、そんな門が開いた五年後である。


 魔法学園は、地球に生まれた人々のためだけの教育機関ではない。セレスティア人の教育機関も兼ねており、世界で最も盛んに異世界交友が行われている場所なのだ。


 地球は魔法がないものとして繁栄してきた世界だ。セレスティア人と比べ、地球人は魔法への適性者があまりにも少ない。世界各国から家柄や権力など関係なく、適正ある一握りの者たちが入学できる運びとなった。


 その中でも煌宮きらみや蒼一はその一握りである選ばれし者。しかしいざ入学してみれば、基礎魔法の一つも扱えない落ちこぼれであった。


 嘲笑われ貶められることなど日常茶飯事。学園では劣等生やら不適合者やら失格者やら、とにかくクソザコナメクジとして扱われてきた。


 とはいえ、少ないながらも良き友人に恵まれながら、蒼一は魔法学園中等部の三年間を過ごしてきた。


 高等部へ上る前に、実技試験がある。よっぽどひどい成績を収めぬ限り、誰でも進学を果たせる試験だ。過去に赤点を出したものはいない。


 そう、蒼一を次に待ち受けていたのは、進学不可。


 劣等生やら不適合者やら失格者やらの次は、落第生。おまえはこの学園に相応しくないと、学園追放ものにリーチがかかっていた。


 中等部も残り二ヶ月を控えたある日、蒼一は魔導書庫へと足を踏み入れた。普段は誰も立ち入れない、厳重に封印された、一部の者のみが立ち入れる特別な場所だ。


 声に導かれるかのように魔導書庫の最奥へと進んだ蒼一が目にしたのは、一冊の魔導書。


 これみよがしに書見台へかけられていた魔導書は、長い年月もの間そこにあったかのように古びていた。色あせて、かつての色が失われていたのだ。


 蒼一はその魔導書から目を離せず、つい手を伸ばした。


 触れた瞬間、その魔導書は光り輝いた。そのまま宙へと浮くなり、ページが自動的にめくられていく様に、蒼一は固まって動けずにいる。


「こ、これは一体……?」


 蒼一の後ろからそんな驚嘆が上がった。


 彼が学園のどのような位置にいる人間かはわからない。わかることといえば、この魔導書庫を開けっ放しで席を外した、無責任な男であることくらいだ。


 めくられていくページにも終わりはある。バタンと閉じて蒼一の手に落ちた魔導書の装丁は、先程の色あせた古さはなく、瑞々しいまでの蒼さを取り戻していた。さながら印刷したての色合いである。


「まさか……蒼き叡智がその色を取り戻したのか!」


 背中越しで見えないはずなのに、なぜそれがわかったのだろうか。


 魔導書庫から出ていく、そんな慌ただしい音を耳にしながら、煌宮蒼一の肉体に佐藤としての意識が目覚めたのだ。

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