第25話 一から伝えよう


 さて、アメリカとの話し合いが終わったところで、次は日本だ。

 私は久しぶりにジャックとマリアの米警察コンビと出会い、護衛を受けてチャーター機へと向かった。


 機内では、ゆっくり二人と話をする時間ができた。


「オタワからD.Cに来てすぐ日本へ行くだなんて、リナも忙しいわね」


 マリアが私のスケジュールを見て驚いているようだ。


「はい、でもやりがいのある仕事ですから。ゲームも好きなんです」

「ならいいが。君以外のマルデア人は来ないのか? 各国向けにそれぞれ大使が来てもおかしくないと思うが」

「多分、私しか来ないですね。上の人は忙しくて、ものすごい任されてるので……」


 ジャックの質問に、私は逃げるように窓の外を見た。

 それはもう、完全に任されてるのだ。無視や放置とも言うけど。

 彼らは詳しい話を聞かされていないのだろう。

 訝し気にする二人を誤魔化しながら、私は休息を取った。


 さて、今回は関空ではなく羽田空港行きである。 

 さすがに日本政府からも協力を得ているし、魔術品を渡しに行きがてら挨拶しなきゃいけない。


 あとゲーム会社とだけの付き合いだと、京都以外の場所に行きづらい事に気づいた。

 日本自体に来訪するという名目なら、いずれ奈良観光をしても不思議ではないんじゃなかろうか。

 故郷に近づくための東京なのだ。

 ランダムワープで一発逆転もありだけど、あのワープが私の嬉しい場所に行くとはちょっと思えない。

 まるで有名な電鉄ゲームで『ぶっ飛べカード』だけ持っているような気分だ……。

 どこに飛ぶか全くわからないカードは、ゲームなら面白いんだけどね。



 羽田に降りると早速日本からもガードがつき、ジャックマリアのコンビと火花を散らせながら私の周囲を守りだした。


「リナちゃーーーん!」

「こっちむいてー!」


 空港のターミナルビルからは、人々がこちらに向かって叫んでいる。

 メディアのカメラも多く見える。

 厳戒態勢が敷かれているようで、警察が私と大衆との間に壁を作っているようだ。

 私の来日自体は報道されているのだろう。


「こちらにお乗りください」


 すぐに車に乗せられ、羽田を出る事になった。


 ネットを見ると、日本のSNSが騒がしくなっていた。


xxxxx@xxxxx

「リナちゃん近寄れないけど何とか撮影」


 ターミナルから撮ったのだろう。私が歩いていく動画がバズっている。


xxxxx@xxxxx

「かわいい!」

xxxxx@xxxxx

「リナちゃん、背が低いから子どもみたいにトコトコ歩いてるね」

xxxxx@xxxxx

「千葉に来てくれたんだ!」


 まるでスター来日のように喜んでいる人たちが多い中で、政治的な方面で盛り上がる人も目立つ。


xxxxx@xxxxx

「リナ・マルデリタはアイドルではない。

魔術品を運んで来る重要な交渉相手だ。

どれだけ輸入できるかは、政府の手にかかっている」

xxxxx@xxxxx

「たのむぞー!」


 そして、やはりというかマニア界隈でも盛り上がっていた。


xxxxx@xxxxx

「マルデリタ氏が日本に来るのは、ゲームの輸入のためだ。

今こそ我々懐古ゲーマーが結集し、彼女にレトロゲームの魅力を知らしめる時!」

xxxxx@xxxxx

「ファミコム・ミニとメガダラ・ミニを永田町に千台ずつ送り付けろ!」


 さすがゲーマー。わけのわからない行動に出ているようだ。

 どこを見ても、日本が異様な熱気に包まれているのを感じた。



 東京は永田町に着いたところで、私は護衛に囲まれながら首相官邸へと向かった。

 当然、国のトップとの挨拶である。

 官邸内の広い一室で、私は総理大臣との再会を果たした。


「総理、お久しぶりです」

「お久しぶりですマルデリタさん。やはり日本語がお上手ですね」


 こちらから日本語で挨拶したので、そのまま日本語で話す事になった。


「ありがとうございます。日本のゲームはマルデアでも好評で、このまま商売を拡大していきたいと思っています」

「それはよかった、いくらでも協力させていただくので、何かあれば言ってください」


 挨拶を交わし、私は十個のボックスを日本に譲渡した。


「少なくてすみませんが、日本の皆さんに少しでもお役に立てればと願っております」

「お気遣い感謝します。国民のために使う事をお約束します」



 会談を終えた私は、そのままNikkendoの東京支社へと向かった。


「お久しぶりです、マルデリタさん」


 出迎えてくれた七三分けの営業マンには、見覚えがあった。

 京都にいた営業部長が、わざわざ東京まで来てくれたのだ。


「販売の方はいかがでしたか」

「ええ、とても好調で。いい経験をさせて頂いています。何もない市場に一歩一歩ゲームを普及させている所です」

「そうですか。私も若い頃、ファミコムを売り込むために全国を駆け回ったものですが。

マルデリタさんも今、それを経験されているようですね」


 部長さんは、感慨深げにそう語っていた。


 それから会議室に入り、会社の偉いさんたちと今後について話し合う事になった。


「やはり難点はオンラインですか」


 こちらの状況を説明すると、ハード設計の担当者が腕組みをする。


「ええ。今作っているスウィッツでは、あちらでオンライン環境を整えるのは現状難しいです。

wifiや有線からマルデアの通信ネットへの変換は難題ですし、サーバを運営する問題もあります」


 私の言葉に、奥に腰かけた役員が手を上げる。


「当面はオフライン専用のゲームだけで問題ないのではないかね。大体、何もなかった市場にいきなりオンラインゲームは早すぎるよ」

「そうですね。最初のうちは、昔ながらのシングルプレイや、ローカルなマルチプレイを中心にやっていきたいです」

「となると、次はやはり『ゼルドの伝承』あたりが望ましいですね」


 自然と、開発者たちから今後のタイトル候補が飛び出してくる。


「ええ。ゼルドはファンタジー世界ですし、登場人物が亜人なのでマルデア人も受け入れやすいでしょう。

ただテキストが多いので、ローカライズは大きな挑戦になると思います」


 ゼルドの伝承は、マルオと同じ開発者によって生み出されたアクションパズルゲームだ。

 ファンタジーの大地を旅して、謎を解き明かし、囚われの姫を救う。

 知的なギミックを持つダンジョンが、常にプレイヤーを唸らせる。


 誕生から三十五年。

 今も世界中から熱狂的な支持を受け続ける名作シリーズである。


 私は少し考えた後、開発や営業の面々を見据えた。


「では、次に出すタイトルの一つは、ゼルドの伝承でよろしいでしょうか」

「おお、やるかね!」

「よし。ローカライズは慎重に、時間をかけてやっていこう」


 やはりゲーム開発の人たちだ。

 ゼルドについてはかなり気合が入っているようだった。


「ただ、ゼルドの伝承は発売までに時間がかりそうです。

その前にもう一つ、子どもにもわかりやすいものを用意したいのです」


 大人に人気の高いゲームを出すなら、バランスを考えてもう一つは子どもが喜ぶようなものにしたいと思った。


「ふむ。タイトルは色々あるが、悩むところだね」


 書類に目を通す大人たちの中で、私は手を上げる。


「その、私もマルデアで遊ぶ人たちの雰囲気を見てて考えたんですけど。

あっちの人たちは、まだマルオ以外何も知りません。

古いとか関係なく、楽しければ遊んでくれると思いました。

なので、昔のゲームを何本か集めたオールスターパッケージなんかはどうでしょうか」


「レトロゲームのオールスターか。確かに、うちでもそういった企画は出ている。

リナ君は、どんなタイトルが良いと思うかね?」


 試すように問いかけてくる古株の男性に、私は頷く。


 古い時代に生まれて、今もその面白さが通じるもの。

 その条件で最初に浮かぶタイトルは、やはりあれだ。


「目玉のソフトはもちろん、テトラスです」


 世界中をブームの渦に巻き込んだ、四つのブロックが象徴的なパズルゲーム。

 これを届けなきゃ、始まらない。

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