第16話 納屋
「よーし、やるぞー!」
真新しいガウンを腕まくりして、包帯ミイラのレナロッテは雑然と積まれた木箱を持ち上げた。
魔法使いの家の間取りは、一階がキッチンとダイニング、実験室とノノの私室と物置部屋の3DKだ。上階は屋根裏部屋になっていて、そこがフォリウムの私室。
今回レナロッテが宛行われる予定の部屋は、ノノの隣の西向きの部屋。先住の子狐に指示を仰ぎながら、頻繁に使うものは家の中に、他は納屋にと分けて運んでいく。
長年物置にしていたというのに埃が積もっていないのは、弟子がこまめに掃除していたからだろう。
ノノに急ごしらえで作ってもらったサンダルをつっかけ、丸太小屋と納屋を往復する。自分の足で歩けるだけで、なんだか楽しい。
「あっ」
納屋の棚に木箱を収めつつ、彼女は壁際に立て掛けてある湾曲した木の棒に気づいた。レナロッテの身長くらいの長さのそれは、
「これ、フォリウムの弓か?」
傍らで整理整頓しているノノに尋ねてみる。どう見ても大人サイズの武器なのでそう考えたのだが、
「ううん」
子狐はあっさり否定した。
「ずっと前に森で見つけたんだ。多分、猟師の落とし物」
所有者不在の品だった。
「へえ……」
弦は切れて失くなっているが、イチイの木で作られた弓は傷も少なく十分使えそうだ。
「これ、借りていいか?」
「誰も使わないからあげるよ。でも、レナって弓使えるの?」
疑うノノに、レナロッテは包帯の隙間から覗く唇だけで笑って見せる。
「馬鹿にするなよ、私は騎士だ。弓は得意だ」
自信満々に胸をそらすが、
「あ、その設定忘れてたよ。ずっと蛭だったから」
魔法使いの弟子はいつもどうり失礼だった。
「後で弦を張って試し引きしてみよう。弓も剣も長いこと触っていないから、きっと腕が鈍っているな」
久しぶりに心が躍る。手足が自由に動く喜びを実感する。
「どーでもいーけど、先に片付けてよ。レナのためにしなくていい模様替えをさせられてるんだからね」
うきうきの女騎士に、狐の子が水を差す。
「すまない。すぐに……」
レナロッテは弓を手に振り返って……、
「あ、れ?」
ぐらり、と視界が揺れた。
身体の力が抜ける。立っていられなくなって、その場に膝をつく。
「レナ? どうしたの?」
「いや、なんだか眩暈がして……」
頭がクラクラする。
「なに? 寄生魔物が再発したの?」
「わからない……」
ただ、腹が気持ち悪い。
「ちょっと、しっかりしろよ! お師様! お師様!!」
ノノは蹲るレナロッテの背中を撫でながら、大声で丸太小屋のフォリウムを呼んだ。
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