65. 3日目・【千輪花】副マスの知りたいこと

「あの【殺人姫】が....」


我々のクラン【千輪花】だけでなく、実力者を有するクランは軒並み被害に遭っていた、対人戦闘においてはΩの中でも最強ではないかと言われているあの【殺人姫】が簡単に敗けてしまった。


「副マス、一応動画は撮ってますけど、どうします?」


使徒様のステータスは拝見していたので知っている、勝てる可能性が高かったので今後のことも考え動画を撮影する指示を出していたのだが.....


「希望者には閲覧許可を与えるが、戦闘の参考にはならないと付け加えておけ。あと、【森の兎】にもデータを渡してやれ。」


「了解です。」


先程の一瞬の出来事は参考にはならないし、【殺人姫】を相手に我々が再現することは無理だろう。


「驚きましたか?セトさんは基本的には常識人なのでコトさんのことも任せておけば今後は大人しくなるはずですよ。」


「【赤賢】か、お前達兄妹も大概だが使徒様は強すぎるな。」


【赤刃】の弟であり、ミューちゃんのお使い作戦の参謀でもある【赤賢】が話しかけてきた。確か名前は、オープだったかな。


「その呼び方はやめてほしいのですが.....セトさんはなんと言えばいいんでしょうか、そうですね....化け物に片足を突っ込んでいるっと言うのが正しいかもしれませんね。」


化け物ね....説教をされている【殺人姫】を見る限りは使徒様は常識を持った人間なのだろう。その力がこちらに向かないことを願おう。


「はぁー、それにしても【霧の風】の奴等は何をしてるんだ?」


いつもなら【殺人姫】の周りには何人か面倒を見ているメンバーがいるはずだが、今回の襲撃は単独だった。


......もしかして、【囮】に人員を割きすぎたのか?


「ミスト隊へ【殺人姫】の所在を知ってるか確認してくれ。」


「え?ここにいますよね?」


「あっちの管理体制が知りたいんだ。」


連絡員の彼女も納得したみたいで、すぐにミスト隊へ確認を始めたようだ。


【メープルさん よりフレンドチャットの要請が入っています】


この反応速度は知らなかったみたいだな。


『えーと、なんか......ごめんね。』


「生憎と被害は出てないから気にするな、使徒様が簡単に大人しくさせたしな。それより、あんな危険人物をどうして野放しにしてたんだ?」


『お店で大人しくしてた筈なんだけどね、多分だけどモナカが忙しくてつまらなくなったから皆の目を盗んで抜け出したんだと思う。』


「そうか、過ぎたことは仕方ない。今は使徒様が対応してるからあとは問題ないだろう。」


『悪いわね。この埋め合わせはイベントが終わってからするわ。取り敢えずこっちはもう少ししたらバラけて遊びにいくと思うから、あっ!後でそっちに何人か行くと思うからセトくんにも宜しく伝えといて。』


「ああ、了解した。」


お目付け役が上手く機能してなかったのか。


「【赤賢】、少し聞きたいことがある。」


「なんでしょうか?」


「答えられる範囲でいい、【霧の風】について教えてくれ。」


【霧の風】、このクランは小規模クランながら何かと話題に事欠かない。在籍するメンバーも個性が強い者が多い。


「僕もそんなに詳しくはないですし、個人の詳細までは知っていても喋りませんよ。それでもいいですか?」


「ああ、それでかまわない。」


現状確認がしたいのであって、詳細の情報が欲しい訳ではないのでそれで大丈夫だ。


「わかりました。まず、【霧の風】は、在籍数30人未満の小規模クランです。メンバーはリアルの友達のみで構成されています。」


ふむ、基本的な情報だ。これは私も知っている。


「在籍メンバーには二つ名持ちが結構な人数が居るのも有名ですね。」


そうだ、メンバーの数に対して二つ名持ちが異常に多いのだ。


【暴君】であるチェリー7から始まり、【殺人姫】コト、【城主】牧場主、【始開者】メープルさん、【懐剣】赤兎、【刻剣】ソードマン、【毒の達人ポイズンマスター】グラス、まだいたはずだが、私がざっと答えられるだけでもこれだけの数が在籍している。


クランとしての活動期間が長いのも要因かもしれないが、VRMMOとしてのΩで遊んでいるプレイヤーなら【霧の風】を知らない者はいないだろう、それだけの人員がこのクランには居るのだ。


「次に、活動方針は『協力と自由』となっているようです。基本は好き勝手にしてもよくて、何かあれば協力するというよくあるスタンスみたいですね。」


小規模クランならではの活動方針だろう、これが中規模、大規模になれば明確な役割分担等をしないと統制がとれなくなってしまうからな。


「戦闘職と生産職とのバランスがいいのも特徴ですね。使用する武器や防具、アイテム等は全て【霧の風】で作られていますし。」


確かにそうだ、彼女達とダンジョンやレイド等で共闘することもあるが量産品といった物やNPCの店売りの物を見たことが無い。小規模クランでこれは少しおかしい気もするが不可能ではない筈だ。ただ、あの活動方針で出来ていることが不思議だが。


「あとは、......そうですね、今は明確な指標があるみたいですよ。」


彼女達は仲良しグループに別れて自由にやっているイメージしかない。指標があるらしいが、最近の【霧の風】関連の情報で動きが激しいもの........なるほど、私もまだまだ精進が足りないな。


「女神にアイランドタートル、それに目の前の使徒様か.....」


「正解です。」


【殺人姫】の兄ということは、【霧の風】のリアルでの友達なのだろう、クランとしての動きが激しいところも見るとそれより深い関係の者もいるのかもしれないが、私の関知するところではないな。


.........違う。


使徒様はランダム転移でアイランドタートルにいる。そしてミューちゃんもいる。


「【赤賢】!【霧の風】のマスターと連絡はとれるか?!」


「やっぱり、そうなりますよね。牧場主さんよりメープルさんに連絡をとった方がいいですよ。この件は女性メンバーが主導みたいですし。」


そういうことなら、願ってもない。先程の埋め合わせを早速してもらおうじゃないか。













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