63. 3日目・お使いミッション
「キュート1、キュート2目的地まであと10分程です。」
「了解。近寄ってくる馬鹿どもは、アサルト隊で処理を継続。先行排除の進度をフォレスト隊に確認しなさい、間違っても大きな音や目立つ痕跡が残らないよう徹底しなさい。」
今、僕のお店である【お猿の飲み物】は作戦本部と化している。
副指揮官はテンリさん、参謀オープくん、そして各クランからフレンドチャットを使って情報のやり取りをする連絡員が数名。この人員が僕のお店で作戦行動中だ。
そう、今まさに僕のメインイベント、ミューちゃんのお使いを遂行中なのだ。
オープくんがお店に来たあとの展開は早かった。抽選の中継が終わると同時に狂信者達との作戦会議を開始し、もめることなく役割と配置がすんなりと決まった。
そしてアクトとアヴニールちゃんが来店したと同時にアクトを引き離し、理解力のあるアヴニールちゃんに概要を説明。アクトは現場指揮官の言うことを聞くようにと、メープルさんに押し付けた。
【千輪花】、【森の兎】両クランにミューちゃんのスクショが既に出回っていたみたいで、各クランマスターからの集合の連絡に快く集合してしまった。そのあとテンリさんによる
信者達の連携能力は凄まじく、驚くべき早さで商業区へと人員が配置されていった。
もろもろ準備が整ってミューちゃんがアヴニールちゃんを伴ってお使いに出たのが30分前。寄り道せずに行けば20分の道のりだけど、真っ直ぐに目的地に行くなんて好奇心の強いミューちゃんには無理な話。屋台の前を通れば匂いにつられて買い食いし、可愛い小物や装飾品を見つければ足を止めてアヴニールちゃんと談笑する。
「フォレスト隊より報告。目的地までの排除を完了。隊を2つに分け、警戒と【囮】の援護に向かう。とのことです。」
「了解。【囮】の現在位置と状況はどうなってる?」
「先程ミスト隊より入った経過報告によりますと、現在位置はキュート1のいる位置から南に2つ離れた区画にいるそうです。状況は好調に推移しているらしく、大漁とのことです。」
うん、僕の入る隙間がない。テンリさんの指揮が的確すぎる。オープくんも地図を見ながら臨機応変に指示を伝えている。なんか凄く大掛かりになってしまった。
なんにもしていないけど、作戦会議には出席していたので何を言っているかはわかる。僕はこれでも総指揮官なのだ。フレンド機能が使えないのでお飾りだけど。
まず、キュート1。これがミューちゃんのコードネームだ。で、キュート2がアヴニールちゃん。
積極的排除部隊のアサルト隊、5人一組で三小隊ある。ミューちゃんの視界に入らないように近寄ってくる不振人物を排除したりする役割だ。【千輪花】のメンバーで構成されており、個の力が強いとメープルさんが言っていた。
先行排除部隊のフォレスト隊、30人で構成されている。役割としては、先行して危険物の除去や不振人物の情報を本部とアサルト隊に伝える役割と、人の流れに入り込み流動的に誘導して人混みを減らす役割もしてもらっている。【森の兎】のメンバーで構成されていて隠密能力と情報収集能力が突出しているらしい(オープくん情報)。
ミスト隊、メープルさんと【霧の風】のお店で暇をしていた人達で構成されている。主な役割は【囮】の監視と誘導。全員、僕のクラスメイトらしいので終わったらジュースでもご馳走しよう。
最後に【囮】、このイベント空間で一番ホットな話題を持っている、言い方を変えれば沢山のプレイヤーから狙われていると言ってもいいかもしれない人達だ。まずはPVPの決勝トーナメント進出者のアクト。そして見慣れないデカイオオカミを連れて、ワールドアナウンスの【王】を連想させる王冠を被ったウサミミの女性を連れているチェリーさんだ。
「【囮】に接触している内訳はどうなってる?」
「【暴君】の方はテイマーを中心に情報屋、攻略組あとは大手のクランメンバーの有名処が数名接触しているそうです。」
【暴君】って.....チェリーさん何やったらこんな物騒な二つ名がつくんだよ。
「【
「はい。予想通りですけど、一応報告します。決勝進出者ということもあり他の進出者の関係者と思わしき偵察が数名。あとは、当初の予定通り女性プレイヤーに囲まれています。」
アクトめ、【
【スキル 生命波動 の派生技 生命波動 恐威 を習得しました】
感情の爆発なのか何が条件を満たしたのかわからないけど技を覚えたぞ!
「セトさん、怖いです。オペレーターの子が萎縮してますので周囲を威圧するのは止めてください。」
おっと。少し背の高いイケメンへの感情が外に漏れていたようだ。オープくんに注意されてしまった。他の人に迷惑を掛けるわけにはいかないのでいつの間にか発動していた【恐威】を解除しよう。
「(......なにあれ?スキル?体が動かなくなったよ。)」
「(副マスが絶対に逆らうなって言ってたけど、あの威圧感はヤバイよ。)」
「(うんうん、前にクランの皆で戦ったレイドボスよりも怖かった。)」
誰がレイドボスよりも怖いのかな?聞こえてるんですよー。
通信担当の子達の囁きに反応しても僕の株が下がるだけなので、アクトのことは頭の隅に放り投げて冷静になろう。
「今の進捗状況はどんな感じなの?」
近くにいたテンリさんに確認してみた。
「もうすぐ目的地に着くと報告がありましたので、多少の遅れもありますが順調です。」
それは良かった。不審者が絡んでいたら魔法を遠距離から叩き込んでいただろう。ミューちゃんの正確な位置が解ればそこを避けて周囲に魔法の雨を降らせることも可能なのだ。
「ミューちゃん達にも情報屋って張り付いてるの?」
ちょっと気になったので聞いてみた。
「いえ、それはないです。情報クランは言わば縦社会なのです。」
「縦社会?」
「ええ、一部フリーもいますが殆どのプレイヤーがクランに所属しています。そして、クランの大きさが情報屋業界ではそのままの力関係になるのです。」
それと何が関係あるのだろうか?
「現在、情報を扱うクランで最大規模なのが【森の兎】です。彼女達が周囲にいる状況で他の情報屋が近づいてくることはまずあり得ません。」
えっ!そうなの。プリステラさん、なんか頼りなさそうな感じだったけど。
「もともとは、プリステラの欲しいものを探すために情報収集をしていたみたいですが、ある事件を切っ掛けに活動方針が変わったそうですよ。」
あれだ、マイシスターが暴れたやつだ。
「アサルト隊より報告!キュート1、キュート2目的地に到着。店内に予め潜んでいたフォレスト隊からも同様の報告が来ています。」
ミューちゃんがお使い先に着いたみたいだ。
ちゃんと買えるかな?少し心配になってきた。
いざとなればアブニールちゃんにうまく誘導してもらおう。最悪お店に有るもの全部買ってしまってもいい。オリジンの皆さんのところに帰ったときにミューちゃんの機嫌が良ければそれでいいのだ。
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