50. 2日目・ 眼鏡さんとオハナシ

「ミューちゃんまだかなー。」


暇だ。アクトは予選に行ってしまったし。アブニールちゃんも付き添いでついていった。


『オラオラオラ!いくぜー!【クイックスラッシュ・ダブル】!ハッハー!』


生命の木にめり込んだような感じで現れたモニターから予選の様子が写し出されている。今ので何人目だろうか、二刀流の軽戦士みたいな感じの人がノリノリでパンチングマシーン(2代目)を叩いている。僕はそれをぼんやりと眺めている。


「セトさん、現実逃避しても駄目ですよ。」


「しょうがないじゃないか、まさかこんなに他のプレイヤーと差があるなんて思わなかったんだし。どちらかと言えば僕の方が弱いと思ってたんだよ。」


オープくんから普通のプレイヤーのステータスを聞いて僕のステータスがおかしいことが発覚した。


「ステータスもおかしいですけど、それとは別に、セトさん、ヒューマンじゃないですよね。」


おっと!この眼鏡さん、なにを言ってるんだ。正解だよ。でも、このまま認めるのも楽しくないよね。


「オープくん、あなた人間じゃないですよね、みたいに言うのは酷いんじゃないかな?」


「うっ、それはすいません、でも、そうですよね。」


ちっ。かわせなかったか。


「何でそう思ったの?」


「決め手は、昨日のセトさんの【聖域】という言葉です。」


ほうほう。


「2週間程前に、種族の変更と女神の契約についてワールドアナウンスが流れました。」


うん。僕だね。


「その頃から、セトさんの枯れ葉での荒稼ぎが始まりました。それまでにも枯れ葉は少しずつ売っていたみたいですけどここまでではありませんでした。急にお金が必要になったと考えられます。」


ミューちゃんの家具とか食費とかに妥協したら僕が狩られるからね。必要経費だよ。


「そのあとに、高価な家具が出品して一瞬で売れるということがありました。出品した3個の内1つは出品者のフレンドだった人が即購入したのて話題になりませんでしたが、後の2つが誰が買ったのかわかりませんでした。ですが昨日同じものを2つここで見かけました。」


あー、聖りんごさんから買った【きん】と【ぐー】だね。


「セトさんが、なにもないのに高価な家具とかを少女に貢ぐなんて考えられません。」


ここでロリコンとか言ったら、簀巻きにして木に吊るしてやるところだった。


「そう考えると、ミューちゃんは普通のNPCではない、そして聖域を展開できる。セトさんとミューちゃんの行動から推測するにミューちゃんが女神ではないですか?もしくはそれに近い存在。そして、ミューちゃんと何かしらの契約をしてセトさんは種族が変わった、違いますか?」


うん。大正解。花丸をあげよう。


「まぁ、これだけじゃないんですけどね。」


「最後まで聞くよ、あと何か理由があるの?」


「セトさんのクラスメイトのクランがとある遺跡を探索した結果、アイランドタートルに女神がいる可能性が高いという情報を兄さん経由で教えてもらいました。」


うーん。ここまでの情報があって否定してもおかしなことになるかな。


「まぁ、正解だよ。ミューちゃんは女神だよ。本来の力は無いらしいけどね。で、僕はミューちゃんを守る守護者であると同時に仕える使徒になった感じかな。」


「守護者で使徒ですか。」


「そう、職業が【女神の守護者】で、種族が【使徒】ね。といっても今は保護者って感じだけどね。」


「この話は兄さんたちに話しても.....」


僕はオープくんの眼をみて、ニッコリと笑う。


「ミューちゃんはかわいい女の子、僕はそのお兄ちゃん。何も問題ないよね?」


「は、はい。何も問題ないです。」


よしよし。オープくんが理解がある子で助かったよ。


「でも、いつまでも秘密にできませんよ?その内ばれると思いますし。」


「ばれたら、ばれたでいいんだよ。とりあえずはミューちゃんのお使いが無事に終わるまで周りが気づかなければ問題ないかな。」


食材さえ手に入れば、ばれようがどうということはないのだ。ステータスが圧倒的におかしいことがわかっていればいくらでも強気に出れる。


「イベントが終わるまで素性がばれなければいいわけですね。」


「そういうことだよ、で、話は変わるけど、昨日の下見の報告を貰ってもいいかな?」


「ああ、そうでしたね。色々あって忘れるところでした。」


頼むよ、眼鏡さん。僕も、ばあちゃんの事とかで忘れそうになってたけど。


「まず、魔物由来の食材ですが、残念ですか殆ど見つかりませんでした。」


やっぱりか、今回のイベントでの出店条件は生産品であることだ。素材そのままの店は予想通りないみたいだ。まてよ、「殆ど」ってどういうことだ?


「あったの?」


「ええ。ありました。一店だけですが。肉やミルクといった食料を販売しています。」


なんでだ?素材のまま出店が可能なのかな?


「素材だよね?よく店出せたね。」


「農作物や畜産物も生産品扱いらしいですよ。出店しているクランも酪農や農業をNPCと協力してやっている牧歌的な人達みたいですね。少し話してみましたけど、穏やかな感じの方たちでしたね。」


「そのなかにモンスター由来の食材があるの?」


「ええ、実験的に捕まえてきた気質の大人しい魔物を飼育して素材の安定供給を行っているみたいですね。その一部が店に並んでいます。少し見ただけですけど、牛肉、豚肉、鳥肉、ミルク、卵は魔物産の物がありましたよ。」


ナイスな情報だ。ミューちゃんのお使い先が決まったぞ。





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