20. 研鑽の成果

あの爆発事故から二週間たった。


学園で色々あったが、今は自分のことに集中しよう。


ふふふ、お猿達よ、二週間の研鑽の成果を今見せてやる。


 ログハウス前の広場にて、僕は魔法で空中にバランスボールくらいの水の玉をつくり、バナナの形にした。これくらいは、簡単に出来るようになった。


「キャー?」


「まだこれからさ、もう少しまっててね。」


 不思議そうにしているお猿達に一声かけ、インベントリから小瓶を取り出す。



 濃縮BKバナナエキス ★7

 大量のベイビーキングバナナの美味しさを抽出し濃縮したもの。色々な用途に使用できる。一滴水に垂らすだけで大量のバナナジュースができる。制作者のスキルLVが低いため品質が低下している。



 まだスキルLVが低いから素材のレア度より下がってるけど。これを作るのに大量のバナナを使いまくった。そのお陰でスキルLVも上がったし、不名誉な称号も獲得してしまった。



 至高の無駄遣い  ★6以上の素材を大量に無駄にした者の証。

 ★6以下の素材を使用した生産品の品質が低下する。★7以上の素材を使用した生産品の品質が上昇する。



 なんとも不名誉な称号だ。だけどアイランドタートルにいるかぎり★7以下の素材など手に入らないのだ。そこら辺に生えてる草でさえ★8~なんだから。ちなみに、エキスを作った場所は、ログハウスに新設された工房だ。先生に相談し、主様にお伺いをたてると、始めからあったかのように工房への扉がリビングに新設されたのだ。ログハウスは、ある程度、主様の意思で改築出来るらしい。まだ、機材も少ないからできることは少ないけどね。


 小瓶の蓋を開け、バナナの形の水にエキスを垂らす。


「キャー、キャー」


おお!一瞬で周囲にバナナの美味しそうな匂いが漂ってきたぞ。だが、まだだ、これでは、ただのおいしいバナナジュースでしかない。僕はさらにインベントリから別の小瓶を3つ取り出す。


「ふふふ、我慢できるかな?」


僕は追加で、アップル、オレンジ、パイナップルの濃縮エキスを投入した。


「「「「「キャーーー!」」」」」


暴力的なミックスジュースの香りにお猿達は大興奮だ。


バナナの形をしたミックスジュースを右に動かすと、お猿達がキャーキャー鳴きながら追いかけてくる。左に動かすと、目はキラキラしているが、よだれをドバトバ流しながら追いかけてくる。ちょっと怖いぞ。


 そろそろ、この一週間の仕返しも出来たのでミックスジュースをお猿達にあげよう。あらかじめ用意しておいたコップに、ジュースを注いだ端からお猿達に奪われていく。


「キャー、キャー、キャー」


「おいしいかい?おかわりはまた後でね。」


「キャー」


明らかにテンションが下がった鳴き声が聞こえてきた。


「少年、今日も始めるとしようか。」


 ゴリラな師匠に急に後方から声を掛けられた、ここ最近ではお馴染みなのだが全くなれないのだ。毎回ビクッとしてしまう。師匠の修行は一週間前から始まっている。その前の一週間はずーっと魔法の鍛練と工房にこもっていたのだ。


「師匠、少しは気配を出してください、毎回びっくりしますよ。」


「それは少年の修行不足だ。ほら、お前達今日もやるぞ。」


 師匠は、マジカルモンキー達にも声をかけ、この一週間の日課となった修行?というかお猿達には、遊びの時間、僕にとっては地獄の時間が始まる。


 修行の内容は、シンプルだ。ログハウスのある広場から、森を突っ切り主様の甲羅の外周部分の砂浜を目指すという内容だ。これだけ聞くと、とても簡単な事だと一週間前の僕は思った。


 だが、お猿達の存在が地獄に変えた、奴等は僕がスタートしてから大体10分後くらいに僕を追いかけてくる。しかも、お猿達は、手足が短いのに動きが速い、とても速い、10分の差なんて無いにも等しいのだ。そして、僕を見つけると、バナナの皮を目の前に投げてくる。そう、ベイビーキングバナナの皮【魅惑のバナナスリップ】だ。僕がエキスを作るのに無駄にしてしまったバナナが再利用されている。


1.「キャー」ポイッ  的確に視界に入るように投げてくる


2.僕は、魅了効果によりバナナを踏んで滑って、ログハウスへと死に戻る。


3.主様から心配される。(非常に気恥ずかしい)


この、流れを一週間繰り返しているのだ。


「では、少年いつでもいいぞ。」


「わかりました。では、すぐに行きます。」


 今回は、仕込みをお猿達に施してある、時間をかけるとお猿達の仕込みが無駄になる可能性があるのだ。


 森の中を全力で走る。木々が邪魔でトップスピードはでないが最初の頃よりは大分なれたものだ。二分ほど走ったところで魔法で水の玉を空中に作る。そしてエキスを投入し、ミックスジュースの玉を空中にとどめておく、長時間の維持はできないが、離れていても10分程度なら維持が可能になったのだ。


 おかわりを求めるお猿達の気持ちを利用した作戦だ。題して【お猿まっしぐら作戦】と名付けよう。

 

 【お猿まっしぐら作戦】には、ミックスジュースの玉が最低でも5つはいる。マジカルモンキーは5匹いるからだ。走っては、ジュースを作りを繰り返すこと計10回、不足の事態を考え2倍の数を用意した。


 よし!後は、全力で砂浜を目指すだけだ。もう、お猿達はスタートしているはずだ、この作戦でどのくらい時間を稼げるか不明だが、失敗するとしばらくはこの作戦は使えないだろう。


 木々の間をすり抜けながら走ること約30分、過去最高記録だ。だが、まだ砂浜は見えない、どんだけ広いんだ主様!!どうする、時間稼ぎのネタもないぞ。もう、いつバナナの皮がとんできてもおかしくない。


「キャーーーー」


「はっ!!」


 噂をすれば、というやつだろうか、後方から「見つけた」と言わんばかりの鳴き声が聞こえる。


 くっ!急場凌ぎだが、ミックスジュースを急いで作って乗り切るしかない。まだ、飽きて無いことを祈ろう。


 ジュースをさっと作り、後方へ置き去りにしながら走っていく。


「「キャー、キャー」」


これは、挟まれたかな。だが簡単に諦めるわけには行かない。


「ぶへっ!!」


急に顔になにか張り付いてきた。


「ウキャー!」


お猿だった。つかまえた!とでも言うように大きな声で鳴いている。


「少年、そこまでだ。今日は策を弄したようだが砂浜までたどり着けなかったな。」


 いつの間にか、ゴリラな師匠まで隣にいた。本当に気配がないので声をかけられるまで気づかないのだ。


「師匠、質問なのですが、僕はあとどのくらいの距離まできたのでしょうか?」


 顔に張り付いたお猿を引き剥がしながら質問してみた。


「ふむ、気になるか。では、一緒に砂浜まで歩いてみるとしようか。」


師匠は返事も聞かずに歩きだしてしまった。ゴリラな師匠は見失うと絶対に見つけられる気がしないので、急いで追いかけるとしよう。


 波の音が聞こえてきた、たぶん一時間くらい歩いただろうか、お猿達の相手をしながらだったので時間を気にしていなかった。


「少年、ついたぞ。距離としてはちょうど半分くらいといったところか。次からは小細工無しで挑戦することだ。策を弄することは悪くないが今回の修行の趣旨とは違うのでな。」


「はぁ、わかりました。」


僕の二週間の研鑽が小細工と切って捨てられてしまった。しかも、今後の【お猿まっしぐら作戦】も出来なくなってしまった。


「手段はどうであれ、努力は認めなくてはな。お前達、広場まで転移を頼む。」


「キャー」


お猿が鳴くと目の前が真っ白になった。いつもの転移だ。これから師匠がなにかしてくれるらしい、楽しみだ。まぁ、今日はバナナの皮で死に戻ることは無かったので一歩前進したと思うことにしよう。

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