七人

@dekai3

  

「怪談全然書けないわ…」


 仲間内の自主企画小説コンテストのお題の『創作談話』が始まって二週間目の事。

 締め切り残り二日という所で、ディスコードのテキストチャンネルのフリートークのルームにこんな発言が飛び込んで来た。


「それな」

「怪談ってなんだっけ…?」

「分からない。俺達は雰囲気で小説を書いている」

「小説……確か聞いたことがあるぞ」

「知っているのか雷電!」

「知っているのか、雷電!!」


 その発言に対して、次々に反応するルームの参加者達。

 このディスコードのルームは小説投稿サイトで知り合った人達の創作の相談や趣味の話をするルームで、参加者は太巻きと名乗る僕を含め、ナナコさん、あなみちさん、ジュジュべさん、おかづさん、火炎穂村さん、大熊猫谷間さんの七人だ。


「は?あなた達全員提出済みじゃないの!!こんな所に居られるか!私は自分の部屋に帰らせて貰う!!!」

「あー、これは死んだわ」

「後で心配になって見に行ったらナナちゃんの死体が発見されるパターン」

「犯人はこの中に居る!!!」

「この流れだと犯人は太巻きさんでは?」

「え、なんで僕!?」

「あー、こないだオセロでぼろぼろにされてましたもんねー」


 あなみちさんの発言に思わずツッコミを入れてしまった僕に、火炎穂村さんがこの間の僕とナナコさんとの飲酒オンラインオセロの対戦結果を引っ下げて揶揄る。

 確かにあれはナナコさんの圧勝で終わって性癖暴露もさせられたけど、それ以上にナナコさんやおかづさんの普段の性癖丸出しの話の方が凄いんだから僕的には全然恥ずかしくなかった事だ。


「お仕事忙しそうですし、無理して書かなくてもいいんですよ?」

「40作品来てるしね」

「いやまあそうなんだけど」


 今回の自主企画小説コンテストの主催のジュジュべさんから、ナナコさんへ優しい言葉がかけられる。

 僕達は小説を書いている人同士の集まりではあるけれど、積極的にプロを目指しているわけではなくて趣味で小説を書いているだけであり、結構緩い関係なので仲間内だからって必ず自主企画に参加しなくてはいけないという決まりは無い。

 それでも知り合いの企画だからとにぎやかし目的で投稿したら気付いた時にはみんなが参加していたという事は多々ある。今回もナナコさん以外は六人とも全員が参加していた。まあ、僕達が参加しなくても30作品以上は集まっていたのだから基本的には賑やかしみたいな物だ。

 それに、普段ガッチガチの恋愛物を書いているナナコさんが怪談を書くのは難しい物があるのだと思う。


「という訳で、ネットで体験する系の怖い話を仕入れてきたからみんなでやってみない? そのレポートを上手いこと小説にするからさ」

「前フリが長いよw」

「実体験w」

「それはアリなの?」

「主催的に面白いからアリにします」

「一応、レギュレーション違反では無いみたい?」

「力技にも程がある」


 と思っていたけど、どうやらナナコさんは口では『怪談書けない』と言いながらも怪談を書く事は諦めていなかったみたいで、かなり無理矢理な方法でアイデアを捻り出そうとしている。

 主催のOKはでてるし、面白そうだから僕的にもアリだ。自分が出演する小説って誰もが一度は憧れる物だし?


「じゃあ説明するけれど、これあたしが考えたんじゃなくてネットで見た物だから細かい部分のツッコミは無しでお願いね」

「おk」

「つまり穴だらけって事では?」

「えっちだ」

「どこソースよ?」

「え、某匿名巨大掲示板のオカルト」

「あー」

「…うん」

「そこに手を出したか…」

「深淵じゃん」

「ネタが降りてこなかったんだから仕方ないじゃない!」


 安直な場所からヒントを得てきた事を指摘されて逆ギレしたナナコさんが説明した怖い話の概要は以下の通りだ。


・ディスコードの参加者が全員オンラインの状態

・ディスコードの画面は最小化し、音量や通知をオフにする

・全員で3分以上の動画を無音のまま見る

・ディスコードの画面を開く

・知らない内に参加者が一人追加されているが誰もそれを疑問に思わない


 という物らしい。しかも七人でやるのが一番成功率が高いのだとか。誰が調べたんだろうそんなの。


「これ何も起きなくても良かったねで済むタイプのじゃん」

「みんなで何かをしたと言う体験が尊いみたいな?」

「UFOを呼ぶのと一緒だ!」

「いいからやるわよ!ほら、みんな音量と通知オフにして!!」

「はーい」

「りょーかい」

「OKです」


 やいのやいの言いながらも、ノリが良いからなんだかんだでちゃんとナナコさんの指示に従うみんな。

 僕も設定を弄って通知をオフにして、スピーカーの音量も0にする。

 これで何か起きたら起きたで面白いし、起きなくてもそれはそれでナナコさんの小説のネタになるからヨシだ。


「で、動画はどうすんの?」

「私イチオシ動画のTHE MAKINGの冷凍チャーハン工場の動画を薦めるわ。これ無音でも凄く面白いから。URLはこれね≪https://www.youtube.com/watch?v=Tcmi48KSvpI≫」」

「なんでこんなの知ってるのw」

「え、みんな工場見学とか好きでしょ?」

「好きだけどさw」

「ビール工場の見学に行くと飲み放題でいいよね」

「なにそれいきたい」

「ほらほら、ようつべ開いたら一回戻ってこっちに書き込みして。私の合図でディスコード最小化して動画を見て貰うから」


 ナナコさんの言う通りに、URLをクリックしてyoutubeを開き、動画を再生させずにディスコードの画面に戻る。


「自分はOK」

「私も大丈夫です」

「私も」

「僕も」

「もう見てる」

「はえーよ」

「はやいよ」

「おい、いったんカメラ止めろ」


 そして全員が準備が整った事を書き込み、後はナナコさんの合図を待つだけとなる。


「あ、そうそう。これ、途中でディスコードの最小化を解いて見に来ると呪われるらしいからやらないでよ?」

「そんなのあるんだ」

「特にあなみちさん」

「バレてるw」

「あなみちさんって幽霊が本当に居るなら見に行って確認しようとする派でしょ?」

「仰る通りで」

「なので、ちゃんと最小化して動画を最後まで見て下さい。というか見ろ」

「えー、仕方ないなー(棒読み)」


 参加者が増えると言う謎の儀式(そういえば名前無いのかなこれ)の前に少々茶番があったけど、一応は全員が準備OKに整った様だ。

 正直言ってこういうオカルトは信じていないんだけど、確かにこうしてみんなで同じことをしているだけで面白いので成功しても失敗してもどちらでもネタになると思う。これなら怪談を書くのが苦手って言ってるナナコさんでも面白い物が書けるんじゃないかな。ナナコさん結構小説つよつよの人だし。


「じゃあいくわよ。5秒後にディスコードを最小化して動画を見始めてね。14分ぴったり見終わってから戻って来る事」

「は~い!」

「おー!」

「おっけー」

「チャーハン食べたくなってきた…」

「チャーハン作るか」

「キムチチャーハンは正義」

「はよ見ろお前ら」

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