第10話 バール地区の洗礼

「何か良い修行は無いのか?」


 俺はルイスに尋ねた。俺よりも戦いにおける経験値は圧倒的に高いし、なによりも俺の周りに相談できるのは彼しかいなかったというのもある。


 ルイスはもともと用意していたのではないかと疑うほどすぐに答えた。


「街のはずれの方に、バール地区という場所がある。毎日そこへ行ってみろ」


 治安が悪いで有名なあそこか。しかし、俺のことを舐めてもらっては困るな。前の世界では不良ばかりを相手にしていたんだ。

 

 早速、今日から毎日一人でバール地区に行くことになった。


 華やかな街の中心を出て、少し歩くとその場所に着いた。そこは都市部と同じように人々の声が賑やかである。

 いや、賑やかとはいっても都市部とは少し様子が違うようで、笑い声に混じって怒号や悲鳴が聞こえて来る。

 噂は本当だったんだな。だが、この程度で尻込みする俺では無い。


 何故だかはわからないが、その場所に少し懐かしさを感じながら、足を進めた。

 すると、女の人の声が聞こえてきた。


「助けて下さい!」


 見ると、数人の男が無理やり女の人を連れて行こうとしている。


 俺は、体術スキルで上がったスピードを生かして男たちの隙をぬってその女の人を抱えて距離をとった。


 …痛っ


 なんだ?お腹の辺りが熱い。

 手で確認してみると、ドクドクと血が流れていた。


 俺の腕の中で助けた女は血で染まったナイフを持っていた。男たちが笑っている。

 …こいつらグルか。


 このままでは男たちに殺される。

 

 俺は少しずつ薄れゆく意識の中、猛スピードでその場から逃げ出しバール地区から離れ、そのまま意識を失った。

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