第二王子と出会ってしまいます
その日、ヴィンセントはどこかから帰ってきたようです。
数日用があると言って、彼は私の執事から一時的に外れました。代わりの執事が雑務を担当してくれた為、特に困る事はありませんでしたが。
ですがやはりヴィンセントがいなくかった事で私は些か以上に寂しかったのは確かです。
見慣れた顔がないというのは違和感を抱きます。
「お帰りなさいませ。ヴィンセントさん」
私は王宮でヴィンセントを出迎える。
「ただいま戻りましたアイリス様。これより通常の業務に戻ります」
「どこにいっていたのですか?」
「大した用事ではありません。野暮用です」
「野暮用ですか……」
あまりヴィンセントは話したくはなさそうでした。ですので私も深く聞くのをやめました。ヴィンセントは常に私の事を想って行動してくれています。
つまりヴィンセントが話さない事とは私が知らない方が良い事。知らない方が良い事というのは当然のように世の中には存在します。
――と、その時でした。周囲の執事やメイド達がざわめく声が聞こえてきました。
「レオハルト王子が帰ってくるらしいぞ」
「レオハルト様が……そうですか」
使用人たちはかなり慌てた様子でした。
「どうしたのでしょうか? レオハルト王子?」
「エルドリッヒ王子の弟君です。第二王子として主立って騎士達を率いています。若いながらも気概と剣の才に満ちた少年です」
ヴィンセントはそう説明する。
「はぁ……」
そういえば聞いた事がある。私が生活していたアルカトラス国の隣ルンデブルグ国。その王宮には二人の王子がいると。
第一王子がそのエル王子であり、第二王子、つまりはエル王子にとっては弟である。その弟の名を『レオハルト』だからレオ王子と呼ばれているらしいです。
「レオ王子は騎士団と遠征による軍事演習を行っていました。その為、長い事王国にはいなかったのです。本来はもっと帰る予定は先でしたが、早まったようです」
「そうなのですか……」
だから使用人たちは慌てているようなのです。最近王宮で働くようになった私はまだ王宮や王国の事を詳しくは知りませんでした。起こる出来事は知らない事や体験した事のない事の連続です。
「か、帰ってきたぞ! レオ王子のお帰りだ!」
「皆! 一列に並ぶんだ!」
使用人たちは一列に並び始めた。何となく、私もこのままでいいのか疑問を覚えました。皆がしている行動は自分もしなければならないのかと思ってしまいます。
「私はこのままでいいのですか?」
「アイリス様は使用人ではありません。王宮で働いてこそいますが王族と同列の国賓として扱うように命じられております。そのような真似をする必要はありません」
「そうですか。ならよかったです」
それにしてもエル王子の弟のレオ王子とはどんな人なのか、わくわくとドキドキが止まりません。私の知的好奇心が高まって止まらないのです。
ギィィィィィ!!! 重そうな扉が開かれます。
「まぁ……」
現れたのは美しい少年でした。年齢は15歳くらいでしょうか。私より少し若そうです。エル王子は優しそうな王子ですが、対照的にレオ王子は野性的(ワイルド)な印象を受けました。
エル王子とはまた違った魅力がありました。タイプは違いますが、どちらも女性から人気が出るのは間違いないです。
レオ王子はこちらに向かって歩いてきます。
「ん? ヴィンセント、誰だ? この地味そうな女は新しい使用人か?」
事情を知らないであろうレオは無遠慮にそう言ってきます。
『地味そうな女』
義妹ディアンナと継母に散々蔑まれてきた私は慣れっ子だったはずですが。なにせ言われたのがすごく久しぶりの事なのです。それほど良い環境で過ごさせて貰っているのでしょう。
それゆえに久々の事だった為『ガーーーーーーーーーン!』となりました。頭に重いものがぶつかってきたような感じ。そして、グサッ! とナイフが心に突き刺さったような感じです。
「躾がなっていないぞ。俺様が帰ってくるっていうのに出迎えないなんて。お前の教育はどうなっているんだ?」
「レオ王子。彼女は使用人ではありません。アイリス様と言って、宮廷で働かれている薬師様です」
「なんだそりゃ! 宮廷に余所者を入れやがったのか! 俺はそんな事認めてねぇぞ!」
「ですがレオ王子。国王様及び王妃様は認めらいられます。それにエル王子も。この薬師アイリス様のご活躍によりお兄様のエルドリッヒ様の命も救われました。そして流行り病に侵されている多くの国民の命も救われようとしているのです」
「ちっ……。この地味女にそんな事ができんのかよ。信じられねぇぜ」
舌打ちをされます。なんでしょうか。久しぶりに受けるぞんざいな扱い。懐かしい感じがします。逆に新鮮です。
「けど感謝してやるぜ。兄貴の命を救ってくれたんだな。兄貴は俺が直々に倒さなきゃならねぇ壁なんだ。だから、ありがとうよ、地味女」
レオは少年らしい。屈託のない笑みを浮かべてきます。その笑みは大変、愛おしくて好印象なのですが。如何せん人を『地味』呼ばわりするのはやめて欲しいのです。
「レオ王子。彼女はアイリス様というお名前があるのです。国王様と王妃様から国賓として扱うように厳命されています。故にいくら王子とはいえ、そのような呼び方はおやめください」
「ああ。そうか。悪い悪い。すまなかったな、アイリス」
「い、いえ。気にしないでください。レオ王子」
私は愛想笑いを浮かべる。
「それじゃあ、俺はちょっくら兄貴の顔見てくるぜ。それじゃあな」
レオ王子はどこかへ向かっていく。
「豪快な人でしたね……」
私は呆気に取られていた。
「良くも悪くも彼は少年なのです。悪気はないのです。そこが厄介でもあるのですが」
「はは……そんな感じしますね」
天真爛漫で無邪気。何とも子供らしい。微笑ましくもあります。
「お機嫌を悪くはされませんでしたか? アイリス様」
「心配しないでください。慣れてますから。ただ久しぶりだったので少しびっくりしただけです」
「そうですか……ならよかったです」
これが第二王子レオハルトとの最初の出会いでした。
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