執事ヴィンセントの偽の婚約者に!?
私が宮廷で薬師として働くにあたって、専属執事としてヴィンセントさんが付いてくれる事になりました。
ヴィンセントさんは背が高くてかっこいい理想の執事さんです。料理から洗濯、お掃除までなんでもできます。まさしく完璧な執事さんです。
それでも仕事上の事で、本人曰くプライベートはだらしないと教えてくれました。完璧な人なんていません。そういうところがあった方が親しみを持てます。
「はぁ~~……」
そんなヴィンセントさんが手紙を手に取り、溜息を吐いていた。
「どうしたんですか? ヴィンセントさん」
「アイリス様……」
「何か悩み事でもあるんですか?」
「いえ。これは私個人のプライベートな問題です。アイリス様に無駄な時間を取らせるわけには」
「そんな事言わないでください。ヴィンセントさんには普段お世話になっているんです。私に協力できる事なら何でも言ってください」
「実は――」
ヴィンセントは身の上話を語り始めた。元々ヴィンセントもまたそれなりの名家の出自らしく、年齢的にも見合い話を持ち掛けられてるらしいのです。
「ええ!! お見合いですか!!」
「はい。何度断っても見合いをしろとうるさいのです。私はこの王宮で執事として働きたいにも関わらず、いい加減身を固めろと」
「それは大変ですね」
「それで両親がこの王国まで来るそうなんです」
「ええ!? それは本当ですか!?」
「そうなんです。見合い相手を連れてきて。それでもう私には結婚して執事の仕事をやめるようにと、うるさくて聞かないのです。どうにか諦めさせたいものですが……」
そんな時の事です。私の頭の中に名案が浮かんできたのです。
「そうです! だったら私とヴィンセントさんが婚約者だって事で両親に説明するんです! そして諦めて貰いましょう!」
「アイリス様……で、ですがいいのですか。アイリス様には……」
「あっ……」
最後まで言わずともわかりました。ヴィンセントさんはエル王子の事を気にしていたのです。
「だ、大丈夫だと思います。ただの振りですから。振り。それでご両親はいつ来るんですか?」
「もう今日すぐにでも来るらしいです。見合い相手を連れて」
「ええ!! もうそんなすぐに来るんですか!!」
「はい。そうなります。ですがいいのですか? アイリス様。お仕事が」
「国王様にも王妃様にも働きすぎだから休むように言われています。私もヴィンセントさんにはお世話になっていますから」
「ですがアイリス様、私がお世話するのも当たり前の事で。私もまた仕事として」
「いいんです。私がそうしたいんですから」
こうして私はヴィンセントの偽の婚約者を演じる事となった。
◇
「ん? どこに行くつもりなんだい? アイリス」
私とヴィンセントの様子を見たエルは違和感を抱いたようだ。それも当然だ。化粧をしてめかし込み、その上煌びやかなドレスを身に着けた私。
普段と異なるその様子に聡明なエルはすぐに気づいた。
「エル王子……」
「ヴィンセントの恰好も普段と違うな……何かあったのか?」
「それは……その」
「エル王子。実は私はアイリス様に両親を騙すために偽の婚約者を演じてもらう事を頼んだのです」
正直にヴィンセントは答える。
「な、なんだと!! 偽の婚約者だと!!」
エルはそう驚きました。
「すみません……エル王子」
私は申し訳ない気持ちになり、謝ります。
「別に謝る必要はないよ。僕のはただの片想いだから。アイリス、君にも選ぶ権利がある。僕を選ぶ義務はないんだよ」
「そ、そんな……」
エルは意味深な表情になる。そしてヴィンセントと視線を交錯させました。
「なるほど……思わぬ強敵(ライバル)が出現したようだね」
な、なんでしょうか。エルとヴィンセントが視線で火花を散らしているような、そんな気がしました。
「それではエル王子、私達は行きますので」
「行ってくるといい。だけどあくまでも偽物の婚約者だ。そこを勘違いしないようにな」
「重々承知しています」
不穏な空気を発する二人。そして私達はヴィンセントの両親のところへ向かいます。ちなみに見合い相手も同行しているとの事です。
ただでは終わらない、そんな異様な予感が私にはしていました。
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