4、復讐その1~異世界プロローグ後に復讐(2)

 

 

 ザッザクッザッザザッ……


 庭に響くのは、ショベルが土をかく音。

 土をすくっては大きく開けられた穴の中に放り込まれて行く。


 それを呆然と見てるのは、霊体となった私。


 そしてそばで郁美。手に巻かれた包帯から滲む血の色が痛々しい。もっとも私の心はちっとも痛まないが。


「くっそ……つ、疲れた……手がしびれやがる……。おい、何ボーッと見てんだよ、お前もちったあ手伝えよ!」

「出来るわけないでしょ、包丁が刺さったのよ!?ショベルなんて持てるかっつーの!!」

「そっちにスコップがあんだろうがよ!片手は無事なんだから少しは手伝え!」

「なんですってえ!!??」

「──おい、あんま大きな声出すなよ、誰かが聞いてるかもしれねえだろうが!」

「あんたこそ声がでかいんだよ、ボケ!」


 愉快痛快とはこのことか。


 あれほどまでにイチャイチャラブラブしてた二人が、今や鬼の形相で怒鳴り合い。声を出して笑ってるつもりなのだが、誰にも聞こえてないのが残念で仕方ない。


(フィアラ、笑いすぎ)


 いや、一人居たか。

 会話だけ出来るランディが。


『だってランディ、あの下衆どもが、おかしくって……!』

(気持ちは分かるけどね。にしてもよく誰も気付かないなあ)


 ランディが不思議に思うくらいに二人は大声で罵り合っていた。だが誰も来ない。それくらいに此処は田舎なのだ。


 どうしても一軒家に住みたいという明彦の望みを叶えるには、こんなド田舎でないと難しかったのだ。私達の収入では、どう足掻いても町中に一軒家は、ボロ屋でもない限り無理だったんだ。


 結果として、こういった事件が起きても誰にも気づかれずに行動できるというわけだ。ひょっとしてこういう事態を見越していたのではないかと勘繰ってしまう。


「ああくそ!こんな事ならもっとこいつに仕事させて稼がせておくんだった!過労死の方がマシだったっつーの!」

「でもさっき殴った感触良かったわあ。どうせ死ぬならもっと殴っておくんだった」


 ああ……もう、糞としか言いようがないな、こいつら。


 冷え切った目で私は二人を見た。


 まあ当然、こうするわな。


 私はまたも念じる。念じてそれを動かした。ショベルとスコップを。


「え、ちょ……」

「な、なんだあ!?」


 先ほどの包丁は見てなかったから、どうして刺さったのかよく分かってなかった様だが。今回は違う。


 目のまえでショベルやらスコップやらが浮いたのだ。二人の顔が一気に青ざめた。


「まさか……これってポルターガイスト?」

「馬鹿野郎、んなわけあるか!」

「だって、浮いてるじゃない!」

「違う、これは絶対何かのトリックだ、幽霊の仕業なんてそんなわけ……」


 あるか!

 明彦が叫ぶより早く、ショベルが動く!


 ザッとショベルが土をかき……一気に明彦の口へ!


「ぶぼばっっっ!?」


 バカみたいな悲鳴をあげて、明彦が倒れ込んだ。


「ひ、ひいいい!」

「ちょっと何してんのよ!」


 倒れ込んで明彦はそばに開いてた穴の中へ。そう、私の遺体が置かれたそこへと真っ逆さま。


 私の遺体の上に倒れ込んだ明彦は、情けない声を上げるのだった。


 穴を覗き込んだ郁美のお尻を、思い切りショベルで叩く!


「いったあ!?」


 パアンッと小気味よい音が響き、郁美も穴の中へ……!


「ぐあ!?何しやがる、降りろ、俺の上から降りろお!」

「ちょっと待ってよ、足元が安定しなくて……やだ、この女の体ぐにゃぐにゃしてる!」

「いいから降りろお!俺の目の前にこいつの顔があるんだあああ!!!!」


 半狂乱の二人をゲラゲラ笑ってる私はちょっと狂ってるのかもしれない。

 元のフィアラット侯爵令嬢は、こんなではなかった。きっと前世の自分と意識が同調してるんだろう。


 そうしてひとしきり笑い終えたところで、私はショベルとスコップを忙しく動かした。


 もちろん、その道具の本来の使い道であるところの、土をすくって。


 一気にその土を、穴の中へと入れた!


「ぶべ!?な、なんで……どうして!」

「やだ、目に土が!やだもう何なのよ!?ぶ──!!」


 口を開けば文句が飛び出て。

 口を開けば土が入る。


 間抜けな連中を笑いながら。


 私はひたすら穴に土を入れていったのだった。


『は~やれやれ、終わった』


 しばらくして。

 出るはずのない汗を拭う仕草。


 私はショベルとスコップを地面に置いた。


 穴は埋まった。綺麗さっぱり。


 ん?二人を生き埋めにしたのかって?


 のんのん、私はそこまで残酷じゃあないよ。


「なんで……どーじで……」

「だれがあ……だじゅげでえええ……」


 二人は首から上だけ出した状態で土に埋まっていた。顔中土まみれではあるが、一応は生きている。


『ま、今夜はこれくらいにしてあげましょ』


 これで終わりじゃないけれど。

 そろそろ戻っておいでとランディの声がしたので。


 私は二人を放置して、その場を後にするのだった。


 は~……復讐、最高!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る