第33話 直線番長
「操舵、B席へ譲渡しました」
「B席受け取りました。艦長、掘削機の起動をお願いします」
「秋山大尉。ぶつけるのか?」
このゲイ・ボルグがいくら頑丈だとは言え、秒速15キロメートルの相対速度で衝突してはとても耐えられない。
「いえ、ほんの少し掠らせるだけです。相手はこちらが回避する無防備な瞬間を狙います。向こうが回避してくれたら儲けものですよ」
「分かった。進路は任せる。掘削機起動しろ」
「了解」
艦首のドリルが回転を始めた。その回転で艦が細かく振動する。
その時、クー・フーリンがビーム砲に穿たれて爆散した。
「クー・フーリン。轟沈。轟沈です」
「イケメン様。下にいた火竜を撃破。ネルソンではありませんでした。合流します」
「そうか。分かった。遠山兵長。ゲイ・ボルグの後方について来てくれ。他のトリプルDは?」
「指揮はオレに任せろ。スマンがオレの機体ではついていけない」
「了解しました」
遠山兵長と斉藤大尉の通信だ。バリオンタイプBは散開し、両脇にいた小型艦にビームを集中させた。その2隻は爆散した。しかし、中央にいた大型船はそのまま突っ込んでくる。向こうも回避する気はないようだ。
「斉藤大尉。離れてください」
「分かった」
バリオンタイプBは散開し、ゲイ・ボルグから離れていく。
光学カメラが正面に大型船を捉えた。民間の輸送船を武装させた違法改造艦のようだ。俺は迷わずプラズマロケットを吹かし加速していく。後方からシロ
「イケメン様。ネルソン
「正面の艦内か、その後ろだ。遠山兵長はゲイ・ボルグの後方から接敵を狙ってくれ」
「わっかりました!」
本当にそこにいるのか、確証は無い。
俺は更にプラズマロケットを吹かして加速する。
ぶつからないように進路を微調整するのだが、向こうも衝突するように調整してくる。
「このままでは衝突します。衝突まで後15秒」
「艦長。核融合ブースターを使います。1秒だけGに耐えてください」
「分かった。各員、対加速G防御姿勢」
相手の動き方はわかっていた。俺の調整に合わせて微調整してくる。一回フェイントを使う。これを読まれていては本当にぶつけてしまう。迷っている時間はなかった。
「後5秒」
サリバン少尉のカウントに合わせ、進路を変更しすぐに戻す。そして核融合ブースターを起動した。
わずか1秒の起爆だったが、生身で味わうこの加速度は正に殺人的だった。ブリッジ内に加速度アラームが鳴り響き、赤色灯が点滅する。
ゲイ・ボルグは改造輸送艦の上部に突き出ていた構造物をわずかに掠めすれ違っていた。そのままの速度で突き進む。
「このままだと月を使ったスイングバイの軌道には入れません。どうしますか?」
「例の新航法を使ってUターンすればいい」
「なるほど」
「操舵、A席へ戻します」
「了解。A席、操舵受け取りました」
俺は操舵を渡し一息つく。
「秋山大尉。終わったのか」
「あの改造貨物船はもうついてこれません。WFA総裁のネルソンがどこかにいると思うのですが、分からないですね。私は改造貨物船をかわした後に攻撃を仕掛けてくると思っていましたが、この方向にはいないようです」
「そうだな。何もいないな」
本当に終わったのだろうか。不安感はぬぐえない。
その時シロ
「きゃっ。何? 機体が掴まれた」
光学カメラがシロ
「秋山君、聞こえるかね。WFA総裁のネルソンだ」
「ああ聞こえている。貴様の作戦は失敗した。直ぐに投降しろ」
「まだ終わっていないさ。こちらの加速度ではもう追いつけない。この、前途有望なお嬢さんを助けたければ減速しろ。直ぐに追いつく」
「分かった。艦長と相談する。少し待て」
「選択肢はないと思うよ」
俺は一旦通信を切った。
「秋山君。どうするんだ。私としてはネルソンの言い分を聞くことはできない。この艦の安全と君の安全を考えるとな」
「分かっていますよ。ここで新航法を使えませんか。突入と回帰の座標を同一に、ベクトルは真反対で」
「秋山君。まさかぶつけるのか。シロ
「ええ、彼女は今、義体に精神移植しています。その方法ならあの伊勢海老みたいな奴を確実に撃破できるでしょう」
「なるほど。ランス搭乗員らしい発想だ。サリバン少尉、航路設定を急げ」
「了解しました。この設定……えっと、できます。可能です。設定終了、次元跳躍航法へ移行します。後20秒」
俺はネルソンへ通信を開いた。
「秋山だ。今からそちらへ向かう。俺と遠山兵長を交換する。そのハドロンのパイロットだ。それでいいな」
「良いとも。約束しよう。ふふふ」
「必ず遠山兵長を解放しろ。そして、このゲイ・ボルグにも手を出すな」
「分かっているとも」
俺がしゃべっている間にもカウントダウンは進んでいく。
「5……4……3……2……1……次元跳躍航法開始します」
その瞬間、ブリッジ内は虹色の光に包まれる。そして魂が開放されるような甘美な感覚を味わう。義体でも肉体でも、この甘美な解放感は同じだった。これは、肉体ではなく魂が感じている快感なのだと。そう思った。
唐突に周囲が暗くなる。
「通常空間に回帰しました。アンノウン接触します」
「遠山兵長。イジェクトしろ」
「え? マジですか?」
「まさか。ワープで!」
その瞬間、ゲイ・ボルグは伊勢海老のような大型トリプルDと遠山兵長が乗るハドロン改に衝突していた。
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