第5話 三者会議

 ミレーラの出生に関する秘密だ。ミレーラとカルロスさんと話し合う必要がある。けれども、カルロスさんの方は記憶を失っている。


「どうしたもんかな」


 児童養護施設の庭にあるベンチに座っていると、運動場で子どもたちがボールを取り合い遊んでいた。そんな中、ボールが俺の方へと飛んできて、一人の少年もこちらへ向かってきた。


「リヴェノ兄ちゃん! 取って!」


 確かこいつは……。シュテファンだ。確か、先日ミレーラのことを教えてくれた一人だ。


 俺はボールを拾い、シュテファンへと投げた。


「ありがとう」


 シュテファンはこちらにお辞儀をして、庭に戻ろうとする。しかし、何かを思い出したかのように踵をこちらに返した。


「どうした? シュテファン」


「ミレーラ姉ちゃんの件、どうなった?」


 シュテファンは俺と一緒のベンチに座り、俺に耳打ちをした。


 どうやら、ミレーラの件は児童養護施設中に広がっていたらしい。


「問題ないよ。そろそろ解決しそう」


「そーなんだ。そのこと院長も気にしてたから、話した方がいいんじゃない?」


 ミレーラはこの児童養護施設の孤児の中では最年長。孤児のリーダー格だ。何かあれば児童養護施設の運営にも支障は出かねない。それに、ミレーラの出生の秘密も何かしら知ってるかもしれない。


 院長とも話をしておこう。


「わかった。話してみるよ」


「後、今度児童養護施設のみんなでパンケーキを焼くから、リヴェノ兄ちゃんも来いって」


「俺が行っていいの?」


「もちろん。仲間だもんな」


「ああ。でも、仲間ならもう少し授業を真面目に聞こうか?」


「……」


 俺が笑顔のまま少し顔を顰める。


「お、俺サッカーに戻らないと……」


 シュテファンはそう言い残すと一目散に庭へと戻っていった。



 俺は院長に約束を取り付けて会うことになった。出生の秘密に関わる出来事のため、夜に俺の家で会談が行われることとなり、カルロスさんも同席することになっている。


 そして、当日の夜。俺、カルロスさん、院長の三人で一堂に会していた。


「これを見てください」


 カルロスさんは写真を取り出し、院長に見せる。先日俺に見せた写真だ。


 院長は何か思い当たる節があるのか眉を顰めた。


「確かに、ミレーラと似ているね」


「十六年前の春、俺はここの近くの雪山で倒れていたんです。そして、俺のポケットからはその写真が出てきました。俺は記憶を取り戻したいんです。少しでも情報があれば──」


「十六年前、ミレーラが来たときはよく覚えてるよ。確か、魔獣に襲われていたところを保護されたって警察は言ってたね」


 まるでいつでも言える準備をしていたかのように、院長はすぐに話を切り出した。


「え?」


 俺は思いも寄らない言葉に言葉を漏らす。


 まさかとは思いつつも、しっかりと口を噤む。


「何でも、近くの村へ向かっている最中に襲われたらしい。母親はミレーラを庇い死亡。他にも少女が襲われて死亡。少女の付添に来ていた少年が辛うじて生き残ったって話だったっけね。あれは悲惨だった。その後近くの村に魔獣が出没し、多数の死傷者が出て廃村になってるよ」


「……本当か?」


 俺は確認しなければならなかった。だが、でしゃばりすぎたのか他の二人から不思議そうに見つめられている。


「ん? 何あんたがそんな深刻な顔になってるのさ。当事者のカルロスさん? じゃあるまい」


「え? ああ、そうだよな……」


 ミレーラの出生に関わる大事な話なのだ。俺が用意に口出ししないようにしよう。

 だが、話に上がったあの事件。まさか、そんなことはない……とまではいいきれない。


「まあいいや。その後救助隊によって辛うじてミレーラは保護され近くの病院で治療された後ここの児童養護施設に入った」


「院長。その少女とミレーラって、親戚だったのか? あと、その村の名前って……」


 俺はついに耐えきれなくなって質問する。


「親戚と聞いたよ。あと、村の名前はアバンダ。何でそんなこと知ってるんだい?」


 もしかして当事者なのかと言われんばかりの三人の目線に答える。


「俺がその時の少年だからだよ」


「……なるほど」


 院長は俺の不可解の行動に納得したとばかりにこちらに目線を向ける。そして、俺に向けた目線は院長のだけではない。カルロスさんは俺の肩を掴むように問いただす。


「なあ、リヴェノ君。その時、私はいなかったんだね? 忘れてるとかじゃなくて」


 カルロスさんは念を押すように確認する。


「忘れるはずもないですよ。あれは。確かに、あなたらしき人はいませんでした」


 俺は断言した。あの事件のことは、決して忘れていない。忘れてはだめなのだから。

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