王国魔術会議に任命拒否された俺。辺境で楽しくパンケーキを焼きます。

豊科奈義

第1話 任命拒否

「貴殿ら四人を任命拒否とする」


 王国政府に付随する魔法省内にて、王国の宰相が俺たちを指差しパンケーキを口に頬張りながら言った。

 

 そしてその意味を俺、リヴェノ・アーリンは意味がわからなかった。


 そもそも、王国魔術会議というのは魔法の向上発達を図り、行政、産業及び国民生活に魔法を反映浸透させることを目的とする機関だ。


 魔法の研究分野で優れた功績を残した人を魔術会議が独自に審査・推薦し、政府が任命を行うはずだった。


 しかし、政府は俺たち四人を任命しなかった。


 本来であれば、王国魔術会議は基本的に魔術会議の推薦通りに任命されるはず。


 なぜなら、王国魔術会議が発足して以降、ずっと推薦どおりに任命されてきたからだ。

 そして、宰相が変わって任命の時期になったと思ったがこのざま。

 

「あのー。任命拒否するならせめてその理由を聞きたいんですけど」


 俺は戦々恐々しながら宰相に意見を申し立てる。もし、任命拒否が社会的にも認められてしまえば、俺の研究は凍結せざるをえなくなる。だからこそ、ここで任命拒否を撤回させたい。


 だが、この瞬間宰相は不服そうにしていた。宰相が頬張っていたパンケーキを飲み込むと、宰相は側近から渡された紙を読み上げる。

 

「そもそも、推薦通りに任命するのが習わしだったとはいえ、本来の指名権は王国政府にある。私はただそれを適切に利用しただけだ」


「いや、だからその拒否された理由を知りたいのですよ!」


「それは国家機密だ。以上」


 俺は冷徹さを欠きながら必死で訴えかける。しかし、宰相は顔色一つ変えずに台詞を読み上げてパンケーキの最後の一欠片を食べると、席を後にした。


「ちょい待てよ!」


 俺は暴力にならない範疇で必死に訴えたが、この宰相の耳には届いていないらしい。脳みそまでパンケーキがつまってるんじゃないだろうか?

 

 俺は宰相の元まで行って聞き質そうとする。しかし、銃を構えた宰相の護衛であろう兵士たちが俺たちの目の前に立ちふさがった。


「公務執行妨害で捕まりたいか?」


 俺は宰相のことを一発殴ってやりたいほどに怒っていた。しかし、兵士から冷ややかな言葉を浴びせられ、一歩踏み出そうとしていた足が震え引っ込める。


 ここで逮捕されてしまったら計画は進められないのだ。


「わかってるじゃないか」


 リーダー格はあしらうように言葉を吐くと、他の兵士たちの方を向いて何らかのアイコンタクトをする。


 おそらくは、庁舎から追い出せということなのだろう。


 俺たちは歯を食いしばるも誰一人として抵抗することができずに、魔法省庁舎から外に連れて行かれた。そして、兵士たちはどうすることもできない俺たちを嘲笑するかのように目線を向けるとそのまま魔法省の庁舎へと戻っていった。


「なんっだよ。あいつら」


 兵士は宰相からの命令でやっているというのは重々承知である。しかし、あんなことをされてしまえば兵士に苛立ちを覚えてしまうのも仕方ないだろう。


「皆さん。取り敢えず、場所を移して今後のことについて話し合いませんか?」


 王国魔術会議から任命拒否された皆に対し、一人の女性──アトラさんが声をかけた。


「そうだね。俺たちが力を合わせれば再び任命されるかもしれない。そうだろ?リヴェノくん?」


「え?ああ、そうですね」


 同じく任命拒否された中年男性、フラクタさんの賛同もあり、すぐ近くの公園でこれからのことについて話し合いをすることになった。 

 

「さて、これからどうしましょう?」

 

 不安を口にしたのは、アトラさんだ。彼女は何でも、若くして魔力を用いてSランク級の魔物を誘き寄せる装置を開発したらしい。


 こんなにもすごい装置を開発した魔法者を捨てるなんて、あの宰相はパンケーキのことしか考えていないはず。


「今回のことは魔法研究に大きな影響を与えるとあって国民の関心も高いはず。反政府団体と協力して直訴するのはどうだろう?」


 落ち着いて冷静に対処法を述べた爽やかなイケオジのフラクタ・アーネルさんは、体内の魔法を自由自在に増減させる装置を開発したらしい。本来動物にはありえないような魔力にできるらしいが、勿論用途は体内魔力障碍を患っている患者向けの医療装置だ。


 使用すれば多くの人が助かるかもしれないというのに。やはりあの宰相はグルテンアレルギーになればいいと思う。

 

「そうだね、マスメディアにも協力を依頼して国民の反政府感情を煽ろう」

 

 こう提言したのは、穏やかそうな顔つきをしている高齢男性。彼の名をレリグさん。新興宗教団体『新世界創生会』の始祖をも兼任しており、少しでも触れると魔法が未来永劫子孫も使えなくなる魔法を開発したらしい。戦争のときに使えばこちらの損害も減ると思うんだが?あの宰相に食わすパンケーキの砂糖を塩と間違えて高血圧で苦しめばいい。


「リヴェノくんは?何かある?」


 アトラさんは、俺の方を見て問いかけた。


「俺は……」


 俺は魔法の研究一筋だった。必死で勉強して、必死で研究した。文化的な生活なんていつからしていなかっただろうか?僅かな研究結果が認められて、会員になったときは嬉しかった。会員になったことで、研究費がおり莫大な研究費用を賄えていた。そして、一応は研究が終わり後は試作品によるテストだけだ。


 でも、会員に任命拒否されてしまったのだ。収入は断ち切られ、テストも断念せざるを得ない。何とかして会員に認められようとしたが、あのパンケーキ宰相のことだ。相当厳しいだろう。


 貯蓄を研究に充てようにも、数カ月で全財産が吹き飛んでしまう額だ。

 

「俺は……。もういいよ」


 まさか俺が渋々受容するとは思ってもいなかったのだろう、三人の顔は驚きを隠せないものになっていた。だが、すぐに落ち着いたというか、諦めた顔だった。

 

「理由を聞いても?無理にとはいわないが」


 レリグさんは、諦めきった顔でこちらに問う。

 

「俺は、あなたたちと違ってろくな研究成果もないです。必死で勉強して、研究してあれですからね?これ以上足掻いたところで、後はテストだけ。それ以外で俺は何の研究結果も出さないでしょう。それに、あのパンケーキ宰相にも何か理由があるのでしょう」


「……。わかった。リヴェノくんは諦める。そして、俺たち三人は政府に戦いを挑み続ける」


 フラクタさんは、アトラさん、レリグさん、そして俺に顔を向け互いに頷きあった。

 

「じゃ、俺はこれで」


 俺は、反政府闘争への参加を見送った。説得する際にはパンケーキ宰相にも理由があるとは言ったが、正直全くそんなことは思っていない。どうせ研究費の一部をパンケーキにでも当てているんじゃないだろうか?


 結局、話し合いは近くのパンケーキショップでやることになった。新しい道を進む俺を祝すパーティーとなり三人に祝ってもらう。俺はそんなに立派じゃない人間だけど、こうして祝ってくれもした。この三人は将来再び会員になってもらいたいものだ。


 そして別れ際、また会おうと互いに言い合い俺は家へと帰った。スローライフといっても、どこでどうするみたいなプランなんて全く立てていない。0からの挑戦だ。そして、あの三人も魔法の自由のために戦いを挑み続けるのだろう。

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