さて何を書きましょう
数日、アイノは自分がなにを書きたいのか悩み続けた。
作家になりたいとは言ったけれど、あたしは一体なにを書きたいんだろう。
そう悩み始めて数日。あるときふと、書きたいものがあるから作家になるんだな、と気がついた。
作家になりたいからなるのではなくて、たくさん書いていたら、気づいたら作家になっているんだろう。
アイノはまず、自分で話を作ってみることにした。家のそばに咲いていた、小さな黄色の花を主人公にしよう。しかし、どうも面白くもなんともない。
「これじゃあ誰も呼んでくれないよなぁー」
ぼんやりしながら浜辺を歩いていると、友達のイヨが近寄ってきた。
「アーイノ! なにしてるのっ」
突進する勢いで飛びついてきたイヨを、アイノは受けとめ損ねて倒れてしまった。
「ちょっと、びっくりするから」
「ぼけっと歩いているからよ!」
まったく悪びれる様子もなく、イヨはケラケラと笑っている。
海祭り以降、イヨはどうも情緒がおかしい。
やけに元気な時もあれば、1人でぼーっとしている時もある。もともとそういう部分を持っている子ではあったが、落差が激しくなっているような気がする。
「あのね、ちょっと嬉しいニュースがあるの?」
「ニュース?」
「まだ噂なんだけどね」
イヨはこそっと声を顰める。
「月が変わったら、旅芸人が来るらしいよ」
「え、本当!?」
不定期で時折現れる、不思議な集団である。
(それってちょっと面白いかもしれない!)
*
数日後、噂通り旅芸人が現れた。
背が高くて、ここらでは見かけない、真っ黒な肌をしている。
「あれは、男の人でいいのよね?」
アイノはこそっとイヨに聞いた。
なぜなら、真っ黒なピタッとした服のラインは確かに男性と思うのだが、ド派手なピンクのグローブに、真っ赤な口紅、そしてピンヒールの靴。
出立ちに驚いてしまうが、その表情は余裕たっぷりの妙齢の、女性そのものなのである。
「無論男性じゃ」
みると、ファーリがホッホと笑っている。
「ここいらではあまりいない、随分と奇特な出立ちの方ですねぇ」
引き攣った顔のイヨに、ファーリは答えた。
「見ればわかる。あれは素晴らしい才能の持ち主じゃからな」
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