タイトルで一首 本文で読書旅行

古博かん

初めの百首

コロナ禍の天満宮の梅の香は人知れずとも満ちて待ちかぬ

 今年の初詣は、人出ひとでの多くなるであろう三ヶ日を自粛した。手水舎ちょうずしゃ柄杓ひしゃくは撤去され、表には「使用しないでください」の張り紙、そして社殿の前に設置されたアルコール消毒の小さな台。


 参道から見える光景は、平時と異なり、鈴を鳴らすための縄も帯も、手の届かない位置で高く結ばれ、音を鳴らすことは叶わない。


 時期を外した今日も、それは年末の光景と変わらない。賑わいを潜めた境内には、砂利を踏みしめる一人分の足音だけが続く。


 カラカラと冷たい風に吹かれた絵馬が立てる音に耳を澄ませながら、深々と二拝にはいする。お賽銭の転がり落ちる慎ましい音だけが手元に響き、しんと静まり返る拝殿に向かって柏手かしわでを打ったあとは、ただただ、そっと手を合わせる。


(旧正月も明けてしまいました。ご挨拶が遅くなりましたが、本年もどうぞ、よろしくお見守りください)


 声に出すことなく、神前に遅れた新年のご挨拶を告げる。さあっと耳元を吹き抜けていく風の気配を感じながら、最後に深く一拝いちはいして顔を上げると、音もなく頭上で紙垂しでが揺れていた。


 氏子うじことして寂しさを覚えるほどに、簡素で物静かな初詣となった今年だが、冷たさの中にも、ほんのりと春を感じさせる境内の風は、梅の香りで満ちていた。

 香りにいざなわれて裏手に回ってみれば、一本一本、丁寧に植栽された色とりどりの梅の若木が、六部ほど咲いた状態で、末社への道を飾っている。


 言葉は無くとも、ひっそりと出迎えてくれる、わたしの背と同じ高さくらいの梅の木々の合間を縫うように、わたしは末社の一つ、別雷神わけいかずちのかみを祀る小さなお社の前へと進み出た。


 そこでも、梅の香りのする風に吹かれて、静かに紙垂しでが揺れていた。



——————

待ち——他動詞ナ行下二段活用……だっけ?

これで合ってたっけ?

まあ、いっか。雰囲気、雰囲気。

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