第18話 決して綺麗な石じゃないけれど

「あー、おいしかった! ごちそうさまでした!」


 今の時間はわからないけど私たちは、シャルちゃんが用意してくれたお昼ごはんを食べていた。

 おいしいものを食べて元気が出たから、このあともがんばれそうだ!


「それにしても随分掘ったな」


 リアナちゃんが掘った穴を見つめて笑う。

 私たちが掘った穴は来た頃よりも、ずっと大きく深い穴になっている。まだカチカチ鉱石は見つかっていないけど、みんなでがんばってるからきっと見つかると私たちは信じてる!


「……みんなががんばってくれてるおかげ」

「この後もがんばっちゃうよ!」

「……がんばる」


 私たちみんなで、ぐっと力こぶのポーズを決めた。

 お昼ごはんの後片付けをして、また見張りと掘る係に分かれて作業を再開する。


 ざくざくと土を掘っていると洞窟の土の精霊たちが、私たちを応援するように両手を上げたり下げたりしている。特にアキューちゃんが掘っているところでは、応援している精霊の数が多い。


「洞窟の精霊たちが応援してくれてる」

「そりゃあ、益々がんばらないとねーっとまたモンスターが来たよ。リアナ戦闘準備、今回はガイコツじゃないからココとアキューは掘ってて良いよ!」

「おばけじゃないから怖くない怖くない怖くない怖くない!」


 シャルちゃんに言われた通り穴掘りに集中する。

 掘り進めながらよく見てみるとアキューちゃんが掘っているところの精霊たちが、輪を作ってぴょこぴょこ飛び跳ねているのに気が付いた。

 なんだろうあそこを掘れってことなのかな?


「アキューちゃんそこのちょっと右の辺りを掘ってみて」

「……この辺?」

「うん、そこにいる精霊たちが何か伝えようとしてる」


 私たちは精霊が輪になっていたところを掘っていく。

 今までと特に違いはわからないけど、アキューちゃんは汗を拭くことも忘れて掘り続ける。

 すると――。


 ガチィン!


 ひと際甲高い音が洞窟に響く。

 ちょっと鳥肌が立ってぶるっとした!


 アキューちゃんが、その場所の土や石を払いのけてじっと見つめている。もしかしてもしかして……!


「……カチカチ鉱石!」


 私たちは目で合図をして急いでその場所を掘った。

 精霊たちもどんどん集まってきて、私たちが掘っているところを見守ってくれている。


 私たちが掘ったところから他とは違う、少し青みがかった黒い石が出てきて、アキューちゃんが手に取って高く掲げ挙げた。

精霊たちもみんな、飛び跳ねたりバンザイしたりしてくれている。


 後ろを見ると丁度リアナちゃんとシャルちゃんの戦闘も終わったようだ。

 2人は私たちを見て急いで戻ってきた。


「リアナちゃん、シャルちゃん見て見て!」

「おぉ、これがそうなのか!」

「アキューの勘は当たったみたいだねー!」


 みんなでアキューちゃんが両手で持っているカチカチ鉱石を覗き込む。綺麗な宝石とは違ってごつごつした青黒い石だけど、私たちにとっては初めてのお宝だ!


 袋に詰めるのはリアナちゃんとシャルちゃんにお任せして、私とアキューちゃんはカチカチ鉱石が出てきたところをもっと掘っていく。

 洞窟に響き渡るつるはしとカチカチ鉱石がぶつかる音。穴から出てくるお宝の山。私たちは袋がいっぱいになるまで、どんどん掘っては袋に詰め込んでいった。


「こっちの袋にはもう入らないな、シャルそっちはどうだ?」

「こっちも満腹、冒険者ギルドの依頼分はこれで十分だねー」


 ということは残りは私たちの物らしい。アキューちゃんと2人で余った分をカバンに入れる。

 荷物がかなり重くなったけど、この重みは喜びの重み。

 この重みが今回の冒険の思い出の重さなんだ!


「よっしそれじゃ撤収するよー」

「……ココ、精霊にお礼が言いたい」

「うん! 洞窟の精霊のみんなのおかげでたくさんカチカチ鉱石が採れたよ。ありがとう!」


 私がお礼を言うと精霊たちが喜んで飛び跳ねる。

 みんなにもその姿が見えるようになったみたいで、精霊たちぺこりと頭を下げてお礼を言う。


「……ありがとう」


 最後にアキューちゃんがお礼を言う。精霊たちはアキューちゃんの周りに集まって両手を上げ下げする。まるで胴上げをしてるみたい!

 そして洞窟を戻っていく私たちを、精霊たちはずっと手を振って見送ってくれた。だから私たちも精霊たちが見えなくなるまで手を振り続けたのだった。


 洞窟の外に出ると空が赤く染まっていた。

 中では全然時間がわからなかったけど、夕方になるまでがんばってたんだなぁ!


 今日中にレルエネッグへ帰るのは難しいから、今夜もキャンプをして明日の朝に街に帰ることになった。


 私たちはその夜のテントの中で、カチカチ鉱石のことや、洞窟の精霊たちことや、私の戦闘での活躍や、怖がるリアナちゃんがかわいかったお話しで盛り上がった。


 次の日、帰り道で少し戦闘もあったけど、私たちは予定通りにレルエネッグに帰還し、無事に冒険者ギルドまでカチカチ鉱石を運んだ。


「カチカチ鉱石の納品完了しました。皆さんおつかれさまでした、こちらが今回の依頼の報酬になります」


 冒険者ギルドのお姉さんから手渡された報酬は、今までの依頼で一番大きな袋に入っていた。中にはお金がいっぱい入っていてずっしりとしている。


「すごーい!」

「……お金いっぱい」

「まさかこんなに貰えるとはな」

「これで何でも食べ放題だねー」


 ギルドのお姉さんから受け取ったお金を、4人で分けるがアキューちゃんは首を横に振る。


「……これがあるから」


 そう言ってカバンからカチカチ鉱石を取り出す。

 しかーし、それはそれこれはこれだ!


「みんなでがんばったんだから、お金もみんなで分けないと!」

「そうだな、アキューの勘がカチカチ鉱石を見つけたんだ。その分を受け取ってもらわないと我々が困る」

「鉱石だけじゃおなかは膨れないし、冒険に行かせてくれたおじさんにもお礼をしないとだからねー」

「……ありがとう」


 その後、私たちは武器屋さんに立ち寄って、おじさんに無事帰ってきたことを知らせた。


「帰ってきたかお嬢ちゃんたち、それでどうだったい冒険の成果は?」

「えへへ、おじさん驚くよ!」


 アキューちゃんがカバンから、カチカチ鉱石を取り出しておじさんに見せた。その量におじさんは驚きを隠せないみたい。


「それを掘り当てられたのはアキューがいてくれたからだよー」

「店主殿アキューは今回大手柄だ。ちゃんと愛娘を褒めてやってくれ」

「今ここでか!? 嬢ちゃんたちはなかなか意地悪だな、ガハハ。アキューよくやった」


 おじさんがアキューちゃんの頭をがしがしと撫でる。

 前は嫌がってたみたいだけど、今回は嬉しそうだ!


「……わたしはやればできる」

「ばっか野郎、こいつを使ってもう一度武器を作ってみな。それができて初めて合格だ」


 厳しいことを言うおじさんだけれど、これもアキューちゃんのため。立派な鍛冶屋になるための修行。

 私たちには応援することしかできない。


「アキューならできるさ、がんばれ!」

「今までで一番の武器を作って驚かせちゃいなー」

「一緒に冒険の旅ができるように、待ってるよ!」


 強い意思を宿した瞳で、アキューちゃんはこくりと頷く。

 こうして私たちの初めての洞窟探検は終わった。

 次はどんなことがあるのか楽しみだけれど、それを考えるのはまた明日。初めての遠出から帰ってきて疲れたから、今夜はお家でゆっくり体を休めよう。

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