第16話 みんなで過ごすはじめての夜

 今私たちは焚き火を囲んで食事をしている!

 メニューは冒険者ギルドで購入したパンと、お野菜たっぷりの温かいスープ!


「ん~っ、おいしい!」


 スープを飲み込むとおなかの中がぽわぁっと温かくなった。味もおいしく上手に作れている。大きめに切ったじゃがいもやにんじんも、食べ応えがあるから◎だ!


「……おいしい」

「シャルの提案通りに野菜を切って正解だったな」

「おいしい食べ方はシャルちゃんにお任せだね!」


 以前に食べたツーヘッドスネークもおいしかったし、シャルちゃんは本当に食べ物が好きだから、こうしておいしい調理法とかにも詳しいんだろうなぁ。


 私も何か特技があれば良いのだけど、できるのは精霊が見えるのと声をかけられるのだけだから、みんなの足を引っ張らないようにがんばらなきゃ!


「ふぁ、らふぁいあいらふぁひふぉひへふはらへー」

「なんて言ってるのかさっぱりわからないよ!」


 シャルちゃんはもぐもぐとよく噛んでから、口の中のものを飲み込んでもう一度言ってくれた。


「長い間旅をしてるからね。各地でおいしいものを食べてきたおかげで、おいしく食べる研究と工夫ができるようになったのさー」


 なるほどぉ、私もいろんなところに行っていろんな経験をして、それでいろんなことを身につけれたら良いなぁ。

 楽しいだけじゃなく自分のためにもなる。

 やはり冒険は素晴らしいものだ!


 空になった器にスープをよそって、シャルちゃんが冒険の経験で得た味を堪能する。

 うんうん、どれだけ食べてもおいしい!


 リアナちゃんはちゃんと口の中のものを飲み込んでから、がつがつと食べ続けるシャルちゃんに質問した。


「シャルはどうして旅をしていたんだ?」


 それは私も気になる!

 初めにパーティに誘った時も、旅がなんとかって言って断られたっけ。今はこうして一緒に冒険してるけど、シャルちゃんは自分の旅をちゃんとできてるのかな?


「あー……大した理由じゃないんだけどね。まぁ武者修行みたいなものさー」


 修行かぁ、なんだかかっこいいぞ。

 何の修行なんだろう?

 やっぱり食べ物に関しての修行なのかな。


「……花嫁修業」

「ごふっ!」


 ぼそりと呟いたアキューちゃんの言葉に、私たち3人は揃ってむせかえった。

 は、は、花嫁修業!

 考えてなかった答えだったから、思わず口の中のスープを吹き出すところだったけど、それは……素敵だ!

 私たちの視線がシャルちゃんに注がれる。


「そ、そうなのかシャル?」


 リアナちゃんは頬を赤くして問い詰めた。

 興味津々で瞳を輝かせるリアナちゃんかわいいなぁ!


 一方シャルちゃんはリアナちゃんとは対照的に、眉間にシワを寄せて大きく切られたスープの具ををばくっと口に放り込んだ。


 いつもよりよく噛んで食べるシャルちゃんの答えを、今か今かと待ち構える私たち。

 自分のことじゃないのにドキドキしてきた!


 シャルちゃんが少し恥ずかしそうに、純白のウェディングドレスに身を包んでいる姿を想像する。

 普段見せない表情にフワフワのドレス!

 すごくイイっ!


「似合ってるよシャルちゃん!」

「こらこら変な妄想はやめーい」


 素早く私の想像を打ち消し、はぁとため息をひとつ。

 シャルちゃんは呆れた顔で食事の続きを促してきた。


「ほら、早く食べないとあたしが全部食べちゃうよ!」


 そう言うと私たちの器を奪い取り、溢れんばかりにスープをよそって突きつけてくる。

 器を受け取り温かいスープを口に運ぶ。

 私たちが食べるのを確認して、シャルちゃんは安心したようにため息を吐いていた。


 想像の中とは違うけれど、照れながらスープとパンを平らげるシャルちゃんはとてもかわいかった。


 食事と後片付けを終えると、また焚き火を囲んで明日の予定を話し合う。

 荷物をまとめてから出発するから、少し早めに起きてしっかり準備をしてからカチカチ鉱石の洞窟を目指す。

 わくわくして早めに寝られるかどうか自信がない!


「じゃ、夜も更けてきたし明日のために寝るよー」

「おー!」


 シャルちゃんの合図で、いざテントの中へ!

 中は思ったより広々としていて、4人が寝てもそれほど窮屈じゃないように感じた。

 アキューちゃんと2人でごろんと寝転がってみる。


「アキュー隊員、寝心地はどうだ!」 

「……快適」


 親指を立ててアキューちゃんと頷き合う。

 その後にリアナちゃんとシャルちゃんが入ってきて、ランプに灯をともすと、テントの中の様子がよくわかるようになった。


 ランプの明かりに照らされた私たちの影が、テントに映って楽しそうにゆらゆら揺れる。

 ただそれだけで胸が高鳴りわくわくした。


「明日はいよいよカチカチ鉱石が採れる洞窟だな」

「すっごく楽しみだね!」

「……楽しみ」


 アキューちゃんも早く行きたくてうずうずしているようだ。無表情だけど掘る動きをしているからわかりやすい。


「いっぱい採れるといいね!」

「……がんばる」

「洞窟にしかいないおいしいモンスターも、いっぱい捕らないとねー」

「いや……そっちはいらんだろう」


 生まれて初めての洞窟に、見たことのない珍しい鉱石!

 それが明日全部見て、触って、体験できる!

 おいしいかわからないモンスターは怖いけどね!


「それじゃ明かりを消すぞ」

「はーい、みんなおやすみ」

「おやすみー」

「……おやすみ」


 ランプの明かりが消えて真っ暗になり、毛布を被って静かにまぶたを閉じる。

 明日は早いからしっかり寝なきゃ!


 でも全然眠たくない。

 体は疲れてるはずなのに。

 少しの間、目を閉じてじっとする。

 やっぱり眠くないなぁ。

 みんなはもう寝ちゃったかな?


「……みんなまだ起きてる?」

「あぁ起きてるぞ」

「起きてるよー」

「……起きてる」


 小声で尋ねてみるとみんなまだ起きていた。

 するとリアナちゃんが心配そうに聞いてくる。


「ココどうかしたのか?」

「ううん、みんなもう寝たのかなって思っただけ。よし今度こそちゃんと寝よう! みんなおやすみ!」

「おやすみ」


 今度こそ寝るぞー!

 もぞもぞ寝返りをうって再び目を閉じる。

 ……しかし、やっぱり眠れそうにない。


「みんな、まだ起きてる?」

「あぁ起きてるぞ」

「起きてるよー」

「……起きてる」


 まだみんな起きてた!

 早く寝ないといけないのはわかっていても、なかなか寝付けないのはみんな同じみたいだった。それがなんだかおかしくて、私たちはクスクスと笑いをこぼした。


 笑い声で満たされたテントの中に再び明かりが灯り、テントに映る影が体を起こす。

 私たちはお互いの顔を見回して大きな声で笑った。


「あははは、全然寝れないね」

「ふふ、そうだな」

「ちゃんと寝ないと明日に差し支えるのにねー」

「……楽しみだから」


 みんなで大きく頷いてからまたおしゃべりが始まった。

 寝不足でも明日はきっと楽しくて、寝不足なんて忘れちゃうんじゃないかな!

 だから今日というみんなで初めて過ごす夜を楽しむぞ!


 ふふふ、誰が最初に寝ちゃうかな?

 私は一番最後まで起きてみんなの寝顔を覗いちゃうぞ!

 そんな企みもしながら、みんなとの夜は更けていった。

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