第5話 緊急クエストは唐突に
「はー、食ったー」
シャルちゃんが満足そうにおなかを叩く。
私とリアナちゃんも満腹でおなかを撫でていた。
それに一緒に食事をしたことにより、私たちはすぐに打ち解けられた。
お近づきの肉料理大盛りは、味もボリュームもその効果もすごい。
まさに大満足の一品だった。
「二人がパーティを組んだ理由はよくわかった。それにリアナがゾンビとか怖いのもよーくわかったよ」
「後半はわからなくていい!」
「あはは、とまぁそういう理由で、これから一緒に冒険するんだぁ」
納得したようにシャルちゃんがうんうん頷く。
それからジュースを一口飲んで質問してくる。
「じゃあいずれココたちはこの街を離れて旅をする?」
「あー、どうだろう。でも私はいろんなところに行ってみたい!」
「そうだな。クエストだけじゃなく、他の冒険をするのも良いな」
私たちは未来の冒険に胸を膨らませる。
この世界には知らないものがたくさんあるからね。
それらを知ることができれば、きっと今よりもっと楽しいはずだ。
「シャルちゃんはずっとこの街にいるの?」
「あたしは元々いろんなところを、ふらふらしてるから。いずれ次の場所へ旅立つ予定だよ」
「じゃあ私たちとパーティを組んで一緒に冒険しようよ!」
私の言葉にシャルちゃんは目をぱちぱちしていた。
いずれは私たちもレルエネッグを出て、冒険するかもしれないんだ。
それならシャルちゃんが街を出る時に一緒に旅に出ればいい。
リアナちゃんに視線を送ると彼女は笑顔で頷く。
「それは良い考えだな。私は賛成だぞ」
「ありがとうリアナちゃん!」
「で、シャルはどうなんだ?」
シャルちゃんは下を向いて考えているようだった。
三人で冒険できれば絶対に楽しいに違いない。
でも、シャルちゃんの答えは、私たちの期待する答えとは違った。
「んー、一緒だと楽しそうだけど、あたしの旅に付き合わせるのもなー」
「私は全然平気だよ! リアナちゃんはどう?」
「ココと同意見だ。旅は道連れ世は情けとも言うだろう」
「ま、少し考えてみるよ」
お金をテーブルに置いてシャルちゃんが立ち上がる。
それとほぼ同時に、階段を駆け下りてきた冒険者の男の人が叫んだ。
「大変だ! 街の中にモンスターどもが現れやがった! 手の空いてる者は討伐を手伝ってくれ!」
レルエネッグの街にモンスターが!
それは大変だ。すぐに退治しないと住民がケガをしてしまう!
ガタガタと周りのテーブルに、座っていた冒険者たちが立ち上がった。
当然私たちも席を立ち二人と顔を見合わせて頷きあう。
「あたしたちもモンスター討伐に参加しよう」
「あぁ、すぐに現場に向かうぞ!」
「うん、急ごう!」
他の冒険者に続いて階段を駆け上がっていく。
冒険者ギルド一階ではクエストカウンターのお姉さんたちが、大きな声で応援を呼び掛けていた。
「緊急クエストです! モンスターの群れが現れました! 場所はここから東の市街地です! みんな無事に帰ってきてくださいね!」
「リアナちゃん、シャルちゃん、東だって!」
冒険者ギルドを出て、レルエネッグの大通りを東に向かって走る。
街にモンスターが現れるのはそう珍しいことではない。
いくら壁に守られていても、空を飛ぶモンスターには通用しないし、大群で押し寄せられると門番を務める、衛兵さんたちだけでは対処できない。
結果としてこうして壁の中に、モンスターが入り込んでしまうのだ。
「なかなか遭遇しないな。東のどの辺りにいるんだ!」
「闇雲に走っても体力を消耗するだけだなー」
シャルちゃんの言う通り、戦う前から体力がなくなっても困る。
そうだ、探しても見つからないなら、空から見つけてもらえば良いんだ!
「二人とも止まって!」
「なっ! 急にどうしたココ?」
「私に考えがあるの! それを試すから少し待ってて!」
他の冒険者の人にも伝えたいから急がないと!
呼吸を整えてから、風の中を泳いでいる女の子たちに声をかけた。
「風の精霊のみんな、私の話を聞いてほしいの!」
「精霊……? ココ何を言って……」
「しっ、リアナ静かにしてよう」
宙を揺蕩う風の精霊たちが、集まって顔を見合わせている。
少しの間をおいて風の精霊たちが、私の前に集まってくれた。
「気持ちよく泳いでるところをごめんね。今この街でたくさんのモンスターが暴れてるんだ。でも私たちの力じゃなかなか見つけられないの。だからみんなの力で空からモンスターを探してほしいんだ。お願いできるかな?」
風の精霊たちは私の言葉に頷いてくれた。
良かった、これですぐに見つけられそうだ。
音もなく空へ昇っていき、また私の前に戻ってくる。
そして彼女たちは、モンスターのいる方向を指さしてその場所へ飛んでいく。
「こっちだって! 他のみんなにも伝えなきゃ!」
「何か見える……あれが精霊? っと、呆けてる場合じゃないな。みんなモンスターの位置をこの子が特定した! この子の言葉に従って全力で向かってくれ!」
リアナちゃんが周りの冒険者に声を掛けてくれる。
みんなが集まってきてから私たちは、風の精霊の道案内に従って走り出した。
モンスターは一ヶ所ではなく、四ヶ所に分かれて暴れているようだ。
風の精霊たちがそれぞれの位置を指さす。
一緒に走っている冒険者の男性が、モンスターの居場所を聞いてくる。
「嬢ちゃんどこにモンスターがいるんだ?」
「えっとこの先の四ヶ所にモンスターがいます。ここから北に二ヶ所、南東に一ヶ所、東に一ヶ所です! 道案内はこの子たちがしてくれます!」
「なんだこれは? よくわからんがこの小さいのに、ついて行けばいいんだな」
「結構ばらけて行動してやがるのか。わかった、俺たちは北を目指す!」
先輩冒険者たちは僅かな相談で各人が行先を決めた。
慌てずにすぐに行動に移れる、先輩冒険者たちはかっこいいな。
みんなが散開してモンスターの居場所へと向かっていく。
私たちは方向を変えて南東を目指した。
やがてモンスターが近くなってきたのを知らせるように、向かう先からは多くの住民たちが、こっちへ走って逃げてきた。
「近い! ココの案内通りだ!」
「二人はあんまり突っ込まずに、できるだけ楽そうなのを相手にするといい」
「何をバカなことを! それでは騎士として……」
「強いモンスターはふたつ星以上の冒険者に任せればいい。大事なのはケガしないことだからね」
リアナちゃんはともかく、私は素直に言うことを聞くしかない。
ぎゅっと短剣の柄を握りしめて戦闘に備える。
そして建物の角を曲がったところで、私たちはモンスターと遭遇した。
最初に出てきたのは、首が二股の別れて頭がふたつある大きな蛇だった。
すっごい強そうな蛇だ!
片方が食べるともう片方もおなかいっぱいになるのかな?
わからないけど食べられたくはない。
「ツーヘッドスネークか、いきなり厄介なのが出てきたなー」
「シャルちゃん、どうすれば良い?」
「こいつは一緒にきたお兄さん方にお任せしよう。あたしたちは他のを探すよ」
「らじゃー!」
先輩冒険者の男の人がツーヘッドスネークの注意を惹く。
その隙に女剣士さんが、行けという合図を送ってきた。
モンスターの前に二人残り私たちはそのまま駆け抜ける。
後ろを見ると二人のベテラン冒険者が武器を振り上げ、ツーヘッドスネークに攻撃するところだった。
がんばってください、ご武運をお祈りします!
路地を進んでいくと次のモンスターが見えてきた。
今度は頭のない鎧が数体彷徨っている。
「首無し騎士だね。あれなら動き鈍いし、リアナでも勝てそう」
「えっ!? いや、あれはそのほら、くくくく首がないじゃないか」
「だから首無し騎士って名前なんだよ。ほら、ここはリアナたちに任せたからね」
リアナちゃんと残りの冒険者たちが首無し騎士たちと対峙する。
私とシャルちゃんは更に路地を進んだ。
「ちょ、ちょっと待って! 首から血が流れてて怖……」
「ほらねーちゃん、うだうだ言ってないで戦うぞ!」
「ひぃぃぃぃ! いやだぁぁぁぁ!」
背後からリアナちゃんの悲痛な叫びが聞こえてくる。
極限状態のリアナちゃんなら、そんなモンスターきっとすぐに倒せちゃうよ!
だから、がんばって!
最後に残った私とシャルちゃんが、遭遇したのはでっかい突進ウサギだった。
加えて辺りには普通サイズの突進ウサギも二羽いた。
テーブルくらいの大きさの突進ウサギは、ウサギなのに怖く見えてしまう。
大きいから普通の突進ウサギより強いんだろうなぁ。
「あたしたちは運が良いね。突貫ウサギが相手だなんて」
でっかいほうは突進ウサギではなく、突貫ウサギというらしい。
でもどうして運が良いんだろ? 弱いのかな?
「突貫ウサギの肉はすごく美味しいんだよ。じゅるり」
「え、食べるの!?」
「さぁさぁ、突貫ウサギはあたしに任せて、ココは突進ウサギの相手を任せたよ」
シャルちゃんは涎を垂らしながら、両手に一振りずつ武器を構える。
本人は剣士と言っていたけど、持ってる武器は大きなフォークとナイフだ。
本当に食べる気なんだろうか?
おっと、私も戦わないといけない。
短剣を握りしめて、路地をぴょこぴょこ飛び跳ねてる突進ウサギに近づく。
前回は倒せなかったけど今度こそやっつけてやる!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます